第276話
貴族のボンボンの頭をひっぱたきながら白状させたところによると、ポーターとしてついてきていた獣人の子供に持たせていた荷物に、『蟲集め』の魔道具を忍ばせていたらしい。獣人の子供は、そんなことは知らないで、このボンボンに言われた通りに魔道具を取り出して、ボンボンに渡そうとしたそうだ。その時、誤って起動させてしまったらしい。
慌てて動転したボンボンは、最低なことに、魔道具ごと獣人の子供を……森の中へと放り投げたそうだ。
……獣人とはいえ、子供だぞ? 投げ捨てるとか、馬鹿なのか。
そもそも、捨てる前に、魔道具止めろよ。
それからは、虫たちの猛攻が始まるわけだ。獣人の子供がどうなったのか、考えるまでもないだろう。
こいつ見てるだけで、ムカムカする。
大人数で来ていたのは、このボンボン、なんとコークシスの公爵の嫡男なんだとか。それの成人の儀式の一つ、ということで、この森林のダンジョンの中にいる虫の魔物の持つ魔石を持って帰らなければならないとか。
それもサイズが決まっていて、男の掌よりも大きい物なのだとか。そんなの、普通の魔物が持ってるわけないではないか。その『蟲集め』の魔道具で呼び寄せようとしたのは、次の階層、四十階からは森林ダンジョンではなくなるから。ここで、最後のチャンスということだったらしい。
「こんなんが公爵になるとか、コークシスも駄目だね」
『そうさせない為の、成人の儀式なんじゃないか?』
「……あぁ、なるほどね」
使えない者は、早い段階で処分する。
魔道具を使いこなせない、部下たる騎士も使えない、当然、冒険者たちだって、自分の命の方が大事になる……成人の儀式をこなせない者はダンジョンから出ることも出来ない。
「今頃、二番手の準備をしてるかもってところかな」
「な、何を言うかっ! わ、私がオノノルクス公爵家を継ぐのだっ」
声を裏返しながら叫んでも、腰が抜けて立ち上がれもしない人を恐いとは思わない。
「ふんっ……精霊王様、その魔道具、どこにあるかわかる?」
『それこそ、美佐江のサーチで探せばよかろうに』
「あ、そうだった」
すぐに地図情報を確認しながら『蟲集め』を指定して『サーチ』する。青い旗が立ったのは、まさにパメラ姉様ともう一人、すごい体格のいい冒険者の二人がかりで攻めている魔物がいるあたり。あれの足元にあるようなんだけれど。
……何、あれ。さっきまでいたデカいカマキリの二倍くらいありそうじゃないの。
「何か苦戦してない?」
『うむ、あれは……クィーン・マンティスと呼ばれるモノだな』
「うぇぇ……あいつ、なんか食べてない?」
『……たぶん、共食いであろうな』
そういや、カマキリのメスって、オスを食べちゃうんだっけ……。
『あれは、かなり甲殻が硬い。魔法もなかなか通りにくかろう』
「ニコラス兄様は」
『雑魚どもの相手をしているようだ』
「ああ、他の冒険者を守るのに手一杯か」
チラリと足元のボンボンに目を向けるが、完全に現実逃避に入ったのか、再び、ブツブツいいながら膝を抱えてしまっている。
「精霊王様、ニコラス兄様のお手伝い、してきてくれる?」
『フフフ、待って居ったよ、そう言うのを』
「上手い具合に、誤魔化すようにしてね」
『あい、わかった!』
上機嫌で飛び去る風の精霊王様。
その後、数分とも経たずに、虫の魔物、及び、虫たちが殲滅されたのは言うまでもない。
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