人を呪わば ーウルトガのメイド達の場合ー (1)
メイドたちは思っていた。
なんで、こんな地味な女が、あのお方の実母なのだろうか。
なんで、こんな引きこもっているような女が、あのお方を悩ませるのか。
なんで、こんな女のために、私たちは獣人たちに囲まれて生活しなくてはならないのか。
ほとんどの者が、ウルトガの第三夫人、エレノアに対する忠誠心の欠片もない。彼女たちの主は、コークシス国王の第三夫人なのだ。しかし、彼女の命令ではあっても、ずっと引きこもった生活を強いられるのは、若いメイドたちにとっては、苦痛であった。いつになったら交代して母国に帰れるのか、と常々思う日々。
そんな時、久しぶりに新しいメイドがやってきた。
それも、コークシスの第三夫人の密命を受けて。
これでようやくコークシスに戻れるかもしれない、そんな甘い夢を見る。
機会はすぐにやってきた。
普段、あまり甘いものを食べないエレノアも、ウルトガ国王の番、サンドラが来るときだけは、ご相伴にあずかる、といってケーキなどの菓子を口にすることがある。そして、コークシスのお茶を振舞うのが、何よりも好きだった。
今回は、エレノア専属で、何も知らない獣人のコックに、『魔物の種子』を使ったクッキーを作らせた。コークシス国王の第三夫人から直々に送られた物だから、必ず使うように、と言い含める。出来上がったソレは、メイドたちも、呪いのことを知らなければ手を伸ばしていたかもしれないほど、甘いいい匂いがした。
「あら、このナッツの匂い」
不快そうにぽそりとエレノアが呟く。
その言葉に、メイドたちは動きが止まる。自分たちにはいい匂いと感じるのに何故、と、ジワリと不安感が湧き上がる。
「匂いですか?」
サンドラが首を傾げながら、手にしたクッキーの匂いをかぐ。
年の離れたサンドラのその振る舞いに、エレノアはやさしい笑みを浮かべる。
「いい匂いがしますけど」
「そう? どうも、私には駄目みたい。この匂いは、ちょっとね」
エレノアがクッキーを皿に戻そうとした時。
「あら、でしたら、私がいただいても?」
「ええ、構わないわ」
「フフフ、では」
ギョッとしたのは、メイドたち。本来ならエレノアが食べるはずだった物なのに。予想外の展開に、表面上とは裏腹に、皆が内心焦るが、所詮メイドという立場、どうしようもない。
「こちらのお茶は、コークシス国王の第三夫人のローデンヴァルト様が、わざわざ、送って下さったのよ。あの方は、ナディス王国のご出身でしてね」
「ああ、ナディスの末姫でしたっけ」
苦々しそうな顔で「ナディス」と言うサンドラ。
サンドラの母国であるトーレス王国と、ナディス王国はあまり仲がよくない。国境付近は、小競り合いがしょっちゅう起こっているような関係であった。特に、サンドラは外交官付きの侍女だっただけに、国同士の微妙な関係も小耳に挟んでいた。
そんなサンドラの反応を見るメイドたちの顔つきは、一気に、冷ややかなものに変わる。彼女たちにとってみれば、主が一番なのだ。そして。
――所詮、平民出身の女。
そういう驕りが彼女たちにはあった。
結局、サンドラがどうなろうとも、どうでもいい、むしろ、お前が呪われてしまえ、と、皆が思っていた。
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