人を呪わば ーウルトガのメイド達の場合ー (2)

 翌日、サンドラが倒れたというニュースに、第三夫人エレノア付きのメイドたちの間に衝撃が走る。


 ――呪うべき相手のエレノアはピンピンしているというのに、サンドラの方が倒れた。


 聞こえてくる倒れたサンドラの症状は、肌が古木のよう変わり、昏睡状態になっているという。呪いがサンドラの方に発動したのだと、全員が青ざめる。

 確かに、『魔物の種子』を使った菓子と『魔物の葉』の入ったお茶を飲んだのは、サンドラであった。しかし、呪いの該当者は、エレノアだったはず。メイドたちは、コークシスから来たメイドにつめよるが、新しいメイドの方も、予想外のことで、答えようがなかった。


 確かに呪われてしまえばいいと、皆が皆思ったが、呪いなどというものは、本来、目的の相手に向かうものなのではないのか。むしろ、対象者が呪われていないことに、そちらの不始末を問われるのではないか。例え、ここがコークシスではなくとも、帰国した暁に、どんな罰を問われるか。それを思っただけで、恐怖がこみあがってくる。

 程なくして、王宮から大勢の衛兵たちがやってきて、メイドたちを集めた。


「毒の可能性が出てきた。調査の間、お前たちはこの離宮から一歩も出るではないっ」


 メイドたちは、あれは毒ではなかったことを知っている。

 しかし、それを教えるには、本当は何を食べさせたのか、を打ち明けなければならず、そんなことを言えば、自分たちの命がない。

 実際、毒の痕跡などは見つからないのだ。『魔物の種子』と『魔物の葉』は、もともと量は多くなく、すべて使い切ってしまったし、茶殻もすでに廃棄してしまっていて、毒殺の確たる証拠を見つけることは出来なかった。

 そして、当然、メイドたちの誰一人、真実を告げる勇気のある者はいなかった。



 ずっと閉じ込められていても、元来、第三夫人は引きこもり。

 サンドラを心配して、多少窶れてはいても、彼女にしてみれば、普段と変わりのない生活だった。そして、いつものように夕食を終えようとした時。


「きゃぁぁっ!」


 メイドの一人が叫び声をあげた。

 何事かと、皿から目を上げた時、テーブルを挟んだ向かい側にいたはずのメイドが消え、そこには古木が立っている。それは、コークシスから『魔物の種子』『魔物の葉』を持ち込んだメイドだった。

 突然の古木の出現に、驚きであんぐりと口を開ける第三夫人。

 続けざまに、叫び声があちこちで上がっていく。一人、一人と、コークシス出身のメイドたちが、全身に蒼い炎が立ち上ったかと同時に、古木に姿が変わっていく。


「な、何が起きてるの……」


 第三夫人のそばで、皿を下げるために手にしたままの状態で、唖然としている呟くメイド。目の前で、部屋にいたメイドが全て古木に変わり、最後の一人は、まさにその皿を手にしていたメイドだった。


「ぎゃぁぁぁっ!」


 蒼い炎に焼かれながら、メイドの目には、恐怖に歪んだ第三夫人の顔が映った。それが彼女の最後の記憶となり、手にしていた皿が、そのまま落下し、割れた。


「い、いやぁぁぁぁぁっ!」


 第三夫人の引き裂くような金切り声だけが、部屋に響いたのだった。

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