第7章 おばちゃん、国境を越える
第48話
山道を抜けると広い平原が広がっている。
どんよりとした空の下、私はイザーク様に抱えられるように馬に乗っていた。
何度か休憩を挟んでも乗合馬車には乗らずに、護衛の冒険者のアンディさんとメロディさん同様に、馬で移動することになってる。
というか、イザーク様が離してくれない、というのが正しい。
馬車に乗り込んでいる乗客たちの視線はそれぞれ。おばさんたちは羨ましそうな。おじさんたちは、生温い視線。おじさんたち、なんか勘違いしてない?
アンディさんとメロディさんに至っては、上手い事やったな、って感じで、逆にイザーク様たちにお任せします、とか言ってたし。まぁ、確かに三人はギルドの職員からの覚えもよかったものね。
それよりも、全然乗合馬車を使ってないんだけど、その分の代金は返してもらえるんだろうか。貧乏性と言われようが、アルム様のお小遣いであろうとも、無駄遣いは嫌なのだ。
「次の街についたら、彼らとは別行動になりますので」
耳元ですまなそうに話すイザーク様。低音のいい声にちょっと背中がゾクっとする。
三人に囲まれて問いただされた後、彼らのことを鑑定させてもらった。だって、彼らが本当のことを話しているかなんて、わからないし。といっても、フル鑑定まではしなかった。そこはそれ、プライバシーってもんがね。
それで、イザーク様は本当にリンドベル辺境伯の弟さんでした。部下のオズワルドさんとカークさんの様子を見れば、たぶん偉い人なんだろうな、っていうのは予想は出来たけど。まさかの、関係者だったっていうのは予想外。なので、一応、「様」扱い。なにせ、お貴族様だもんねぇ。
そのうえ、アルム様ってば、私の母になるはずだった、イザーク様のお義姉さんにまで連絡してくれているとか、至れり尽くせりでありがたい。
とりあえず、お互いが探してた相手っぽいのは理解できたので、少しだけ警戒するのを緩めることができたのはよかった。
一方でイザーク様たちも、私を『聖女』と認識しちゃったせいか、私への態度もどこか敬うような感じに変わってしまった。さすがに、他の乗客たちの前ではないけれど、話し方も敬語とかになっちゃってる。実際、私よりもだいぶ年下だから違和感はないっちゃないけど、普通に第三者から見たら、変だろうなぁ、とは思う。
詳しい話は、次の街で乗合馬車から離れてから、という話になってるので、それ以上は聞けていない。何度か野営をしたけれど、周囲の状況からも落ち着いて話せなかったし。
「街が見えてきました」
少し嬉しそうなイザーク様の声に、私は前の方へと目を向ける。
まだ少し遠いけど、城壁っぽいのに囲まれた姿が微かに見えてきた。結構、大きそうな街だ。久しぶりに宿屋で寝られるかもしれない、と思ったら、少しだけホッとした。
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