第52話

 カークさんが食後の紅茶を淹れてくれた。

 先に食事を頂いてしまったので、二人はどうするのか聞いてみると、この宿の食堂があるらしく、食事のついでにそこで情報収集もしてくるらしい。それも従者の仕事なんだろうか。

 ありがたく紅茶に口をつけようとして、微弱な悪意感知を捉えてしまった。

 無意識にナビゲーションで地図情報を開く。この部屋の外に一点、真っ赤とはいえないけど、ちょっとした悪意を持ってる人がいるのがわかった。誰だかわからないけれど、防御だけはしておくべきかもしれない。


「あの、ちょっと結界張ってもいいですか?」

「えっ?」

「結界?」


 イザーク様たちの驚いた声をスルーして、私はティーカップを置くと無言で結界を張った。部屋の中の空気がピンッと引き締まった感じになる。これで、部屋の中には入れないし、ドア越しでも話している内容も聞こえないはず。


「もう大丈夫だと思います」

「そんな技をお持ちだったのですか」


 カークさんがびっくりしながら問いかけてくる。


「ええ、まぁ……これのおかげでなんとか凌いでこれたというか」


 一人で休む時は必ず、誰にも知られないように小さな結界を張っていた。運よく、悪いことを考える人がいなかったからよかったけど。

 当然、オズワルドさんもイザーク様も目を見開いて、周囲を見回す。目に見えて結界が張られてるのがわかるわけではないけど、何かしら感じ取るものがあるみたい。

 イザーク様は軽く咳払いをしてから、私に向かって話し始める。


「ミーシャ、まずは改めて、無事に出会えてよかった。アルム神様にも感謝を」

「あ、いえ……こちらこそ、見つけて下さってありがとうございます」


 ほんと、アルム様、ありがとうだよ。

 早い段階でリンドベル辺境伯の奥さんに伝えてくれたお陰で、イザーク様が動いてくれたのだもの。先にあの国の人間たちに追いつかれて見つけられてたら最悪だった。今もまだ私を探してる可能性もないとは言えないけど。

 そして、私が目指す場所を知っている人がいてくれるというのは、本当にありがたい。ナビゲーションがあっても、現地のことをわかる人がいるほうが、何かと動きやすいというものだ。

 何より、一人じゃない、ということの心強さは断然違う。


「兄と義姉にはすでに伝達の青い鳥で連絡を入れて、返事ももらっている。二人とも早く会いたいとのことだ」

「え、ああ、そうですか」


 その言葉に、なんとか笑みを浮かべる。

 確かに、私が転生してたら両親だったのかもしれない。でも、それだけなのだ。実際に、今の私には血のつながりもないただの他人。でも、アルム様はリンドベル辺境伯を頼れと言っていた。

 会ったこともない人たちだけど、悪い人たちではないんだろう。

 こうして弟に私の保護を求めるくらいなのだから。

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