第63話
さすがに真面目な話を、いつ人が通るかわからない街道でのんびりするわけにもいかない、ということで、急ぎで近くの町まで向かうことになった。
ナビゲーションで地図情報を確認してみれば、森というか林を抜けたところに小さな町があるみたい。周囲に悪意感知にひっかかるようなのもいない。
さっき必死になって走ったばかりなのに、また頑張らせてしまう馬たちには申し訳ないので、三頭ともにヒールをかけてあげた。
「……さすが『聖女』様」
「ん? あれ? ヒールって普通に使わない?」
「いえ、使いはしますが……」
口ごもるカークさん。オズワルドさんも目を見開いてる。
何かが違うのかもしれない。もしかして、なんか軒並み、私の認識とずれてるのかも。
「と、とにかく、まずは宿のある町に向かって、詳しい話は落ち着いてからにしましょうかね」
「あ、ああ、そうだな」
イザーク様も、どこか微妙な顔つき。うーむ、解せない。
せっかくなので、試しに光魔法の『身体強化』使ってみましたよ。
「おお~、なんか綺麗」
全体にキラキラ光ってるし。
木漏れ日と重なる部分なんか、余計に神秘的な雰囲気になる。勝手に自己満足。
「……先程のとは、やはり違うようだ」
「そうですね。こちらのほうがじわじわくる感じがします」
「さっきのは、もっと急激な感じでしたからね」
「……アルム様、どんだけ力注いでんのよ」
「さぁ、まずは町に向かうぞ」
「はっ!」
「はっ!」
徐々にスピードを上げていく馬たちに、私もビックリ。左右の風景がどんどん流されていく。あっという間に林を抜けると、広大な畑が広がっていた。まだ、町の姿は目に見えない。
たまに徒歩の旅人や、のんびりした乗合馬車を追い抜いていく。その度に、皆びっくりした顔をするのが見えると、なんだか可笑しくなってきて、ついつい、クスクスと笑いが零れる。
「ミーシャッ」
「はいっ」
「笑いが出るとは、余裕だなっ」
大きな声で話しかけてきたイザーク様も、なんだか楽しそう。そりゃそうか。今は別に追われているわけでもなく、思い切り馬を走らせてるだけだもの。気持ちいいよね。
ようやく、かすかに町っぽい姿が見えてきたせいか、徐々に馬のスピードを落とす。町へ向かう人や、出てくる馬車の姿が増えてきたようだ。
心地よい風になぶられながら、周囲を見渡す。長閑な風景に、気持ちもゆったりする。
太陽はもう真ん中を過ぎていた。朝が早かったから、もうお腹がペコペコだ。
この町で、美味しいお昼ご飯が食べられるといいんだけど。そんなことを考えているうちに、目的の町の入口に到着した。
「美味しいものがあるといいんですけどね」
「確かに。腹が減ったな」
和やかな雰囲気の私たちは、ポクリポクリと蹄を鳴らしながら、町の中へと入っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます