第64話
砦を越えて初めての町は、まさに農村の町といっていいかもしれない。通過点、という感じだから、大きな宿などもない。食堂付きのこじんまりした宿くらいしかないようだ。
「いらっしゃいませ~」
出迎えてくれたのは、まさに肝っ玉母さんと言えそうな、恰幅のいいいおばさん。
食堂のほうは、まだ時間が早いせいか、ほとんど人がいない。
私たちは早めの昼食をいただいた後、そのまま宿のほうもお願いすることにした。今回はみんな別々の部屋をとったものだから、小さな宿だけに、ほぼ貸し切り状態。そもそも、砦に近いせいか、たまにしか泊るお客さんがいないんだとか。そんなんで経営が成り立つのか心配したら、食事のほうで意外に儲けが出るんだとか。おばさんが豪快に笑いながら教えてくれた。
一番広いといえる部屋は、当然イザーク様の部屋。しかし、こじんまりした宿。推して知るべし。
ベッドに腰をかけているイザーク様に、シンプルな木の椅子に座ってるのは私。オズワルドさんとカークさんはドアの近くに立っている。そこに全員で集まったら、やっぱり狭い感じになる。でも仕方がないよね。
「ちょっと、お茶をいただいてきます」
カークさんが出て行って、少しだけマシになったかもしれない。
「さて、ミーシャに説明しないといけないことだが」
そう、治癒関係の話をしないといけない。
なんでも、元々光魔法自体、貴重な魔法なんだとか。通常、子供の頃に光魔法持ちだと皆神殿にひきとられ、そこで神官になるべく、教育をされるとか。その中でも治癒に秀でた者が治癒士となると。だから、一般的に光魔法のヒールは見ることはない。それに、基本的に対象に触れながらかけるものだから、私みたいに触れないで、それも複数にヒールをする者はいないとか。
「……それって」
「見られたら、一発で『聖女』と思われる可能性があると」
「え、え、えぇぇぇっ!?」
まさか、そんなことでバレるとか考えてもいなかった。
「え、でも、魔物とかと戦ってケガをした時とかって、冒険者の人たちってどうするんです? まさか、ポーション一択?」
「そうですね……あとは魔術師の中でも水魔法を得意とするものに、広範囲を対象としたヒールレインを使う者がおります。しかし、基本、攻撃の魔法を得意とする者。かなり上位の者でなければ、ヒールレインを使う者はおりません」
オズワルドさんが微妙な顔で、答えてくれた。
う、うーん。なんか、冒険者って大変そう。
「それに、さっきの『身体強化』の魔法だが、神官たちが使っているという話も聞いたことはない。そもそも、彼らが『身体強化』するような場面に遭遇するとは思えないしな」
「え? 神官って冒険者の中にいないの?」
単純に、昔やったことがあったゲームの中のイメージで聞いてしまう。
「神官がか? あいつらが神殿や教会から出て働くなんてありえない」
うわぁぁ、なんかオズワルドさん、嫌そうな顔してる。前に何かあったんだろうか。
うーん、もしかして、戦闘に関わるような場面に遭遇しないと派生しない魔法だったりするんだろうか。魔法の仕組みって、よくわかんないな。
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