第354話

 門を出るときには、門番のおじさんたちから「これから出るのか!?」「気を付けろよ」と心配された上に、手まで振られて見送られてしまった。

 確かに、門番のおじさんたちが心配するの無理はないかもしれない。すでに夕日が傾き、街道を私たちと同じ方向に歩く人影はなく、逆に私たちが出てきた町に向かう馬車が何台か通り過ぎていく。

 私は兄様に抱えられたまま、背後に目を向ける。まだ、猫野郎の姿は見えない。


「兄様」

「なんだい?」

「アレがどこまでついてくるかわかんないから、一度、リンドベルに戻る?」


 相手をしなくてもいいと言った猫野郎。それを気にしている水の精霊王様が、イライラしてきてるし、私の方もなんだか疲れてしまった。

 アレが追いかけてきている理由がわからないから余計にだ。

 旅自体は行商のお手伝いが出来たりと、楽しかったことの方が多かったけど、せっかくの旅なのに面倒ごとの方がやってくるのだもの。


「いいのか?」

「うーん、時期を変えて来ようかな。結局、観光地、全然行けてないし。それに、ちょっと疲れちゃった」

「確かにな……今度は双子たちも一緒に行くか」

「そうね。そういえば、ダンジョン攻略はどうなったのかしら。連絡ないけど」

「手こずってるんじゃないか?」


 ぶつぶつ文句言いながら、剣を振り回してるパメラ姉様と、それを揶揄っているニコラス兄様の姿が目に浮かんだ。


「フフフ。ありえそうね」

「じゃあ、連絡を入れておくか」

「あ、私が送っておく」


 兄様に抱えられながら、リンドベル邸の執事のセバスチャン宛に小さなメモを書く。ちょっと字がよれたけど、まぁ、読めるだろう。

 手元に現れた伝達の魔法陣の鳥に渡すと、ふわんと飛んでいく。


「よし……それじゃ、あそこまで行ってみるか」


 イザーク兄様の視線の先には、街道から少し離れた薄暗い小さな森。そこに向けて、一気に駆け足に変わる。おお、早い、早い。

 チラリと背後に目を向ける。残念ながら、私の視野にはアレの姿は見えないけど、きっと、追いかけているに違いない。何だっていうんだろう?


「ミーシャ、森に入るぞ」


 息もきらせずに、余裕で言うイザーク兄様。さすがだ。

 そして私は森に入ったと同時に、再びこの国に来れるように、この場所をマーキングすると、兄様とともにリンドベル家の私の部屋へと飛ぶ。


「お帰りなさいませ」


 にこやかな微笑みとともに出迎えてくれたのは、セバスチャンだ。


「ただいま」


 私とイザーク兄様は久しぶりに屋敷に戻ってきたことで、ようやっと肩の力を抜くことができた気がした。

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