第21話

 すぐに帰ってくると思ってたおばあちゃんだったが、戻って来たのは陽が落ちる頃だった。


「ふぅ~、戻ったよ」

「おかえりなさい」


 私はおばあちゃんが抱えていた麻袋を受け取る。おばあちゃん、なんかお酒臭い。

 おばあちゃんのほうは、よっぽど疲れたのか、酔いがまわったのか、カウンターの中の椅子に腰をおろした。


「遅かったですね」


 受け取った麻袋を抱えて、奥の部屋へと持っていく。袋から出してみれば、けっこうな量の薬草だ。私は、それらを鑑定しながら種類別にテーブルにまとめる。おばあちゃんから最初に説明は受けたけど、まだ、葉の形とかでは種類がよくわからないのだ。

 こうやって手伝いをしているおかげで、鑑定する機会が増えたせいなのか、最初は草の名前と質(上・中・下)くらいしか出てこなかったのが、利用目的(例えば、初級ポーション用とか、毒消し用だとか)まで表示されるようになった。これは調薬スキルがついたせいもあるのかもしれない。


「いや、ギルドでね、人探しのクエストが出てたもんでね。みんなでちょいと話が盛り上がっちまってね」


  ギルドの中に、飲むところとかがあるんだろうか。酔ってるせいで、少しばかり饒舌になっているおばあちゃん。


「へぇ……冒険者ギルドって、そんなことも受け付けるんですね」

「まぁ、ランクの低いもんが受けるクエストは、なんでも屋みたいなもんも多いからね」


 話を聞いてみると、そのクエストを出してきたのが、城の中の魔法省からだという。それだけでも珍しいのに、その報酬もよかったらしい。

 城絡みと聞いただけで、顔が強張ってしまう。


「なんでも、城で保護してた老婆が行方不明らしいんだよ。外国からきた人らしくて、見つけ次第、連絡が欲しいらしいよ。情報提供ってだけでも、いい小遣い稼ぎになるだろうね」


 おばあちゃんの言葉で手が止まる。

 ……まさかと思ったけど、確定だわ。

 ていうか、老婆とか、ひどくない? ムッとして、無意識に手にしていた薬草を強く握ってしまった。薬草の匂いが、ふわんと立つ。


「ミーシャは、そんな怪しげな老婆なんて、見ちゃいないよねぇ」

「見るも何も、ずっと店の中にいましたから」

「なんだい、今日も外に出なかったのかい。よっこらしょっと」


 奥の部屋にやってきたおばあちゃんと入れ違いに、私は店の方へと戻る。もう店じまいの時間だ。

 外に出てドアにかかっている店の看板を裏返す。こうすれば店が閉まってることになるらしい。目の前の通りを、冒険者っぽい若い男たちが数人、通り過ぎていく。この人たちも、私を探しているのだろうか。


「まぁ、見つからないとは思うけどね」


 そう、老婆と思ってる限り。

 だけど、いつまでもここにいるわけにもいかない。


 私は静かにドアを閉めると、おばあちゃんの手伝いをしに、作業部屋へと戻った。 

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