人を呪わば ーコークシス第三夫人の場合ー (2)

 ハロイ教の信者は、まだ実験段階なんですがね、と断りをいれながら、親指の爪ほどの大きさの茶色い種を、いくつか掌に載せる。


「この『魔物の種子』は、パッと見ただけでは、ただの木の実にしか見えません。味もそう悪くありません。ケーキやクッキーなどの菓子類にしてしまえば、簡単に口にすることができるでしょう。ただ食べるだけでは、特に問題はありません。少し、渋みがあるくらいでしょうか」


 そう言って、掌に置いていた種子を、目の前でカリッとかじって見せる。その渋みに、少しだけ顔をしかめる信者。第三夫人は、その様子に目を瞠る。


「肝心なのは、お茶の方です」


 信者が差し出したのは、金属製の銀色の茶筒のような入れ物。蓋の部分には細かな魔法陣のようなものが描かれている。その意味するものは、第三夫人にはわからない。


「この中に入っているのが、『魔物の葉』です」


 蓋を開けて中身を見ると、黒くチリチリになっている葉と思われる物がたくさん入っている。


「これを一つまみ、お茶の葉の中に混ぜて、一緒に淹れるのです。毒見で飲んでも、単独で飲むだけでは何もおきません。種子と茶葉、両方が揃わないと駄目なんです。簡単でしょう?」

「こんなことで、相手を呪うことができるのかえ?」

「ええ。ただし、混ぜる前、だいたい三か月くらいでしょうか。この葉に呪いをこめるために、こちらの小さな筒に入れ替えた物を肌身離さず、持っていないとなりません」


 信者は『魔物の葉』が入っていた物とは別の、掌サイズの物を差し出す。こちらの蓋にも同じ魔法陣が描かれている。

 第三夫人はその言葉に頷き、小さな茶筒を手にしげしげと眺めた。こんな物で本当に、相手を呪い殺すことができるなら、こんなに簡単なことはない、と思った。


「実例は三例ほど。今までの所、呪いと判明はされず、奇病としか言われておりません」


 その奇病とは、皮膚がどんどん古木のように枯れ果てていくものだとか。どんな薬をもってしても治すことが出来なかったのと、そのあまりにも醜い最期のため、発症した家の者たちは、そろって口を噤んでいるという。

 ……呪いとわからないのであれば、これを使わない手はない。


「……ふむ。面白い。これらを分けてもらう対価に、その方は何を望む?」

「はっ。では、この国でのハロイ教の布教と、その後見に夫人のお名前を」

「フフフ、なるほど……あい、わかった」


 互いに笑みを浮かべて、その場で契約をすると、第三夫人は種子と小さな茶筒を受け取った。 

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