第214話
誕生祭は恙無く行われた。あんな大人数からの視線を受けるなんて、心臓に悪いこと、悪いこと。掌に『人』の字を書こうが、あれはカボチャよ! と自己暗示をかけようが、緊張しまくった。とりあえず、私はもう二度と嫌だ。次はない。
そして、あれだけ多くの国から人間を集めることのできるという、帝国の力を見せつけられた、というところだろう。私だけではなく、各国の来賓も同じように感じたに違いない。
それにしても、見られるってだけで、こんなに疲れるのか、とつくづく思う。それに、あの歓声。コンサートで自分が叫ぶようなことはあっても、それを自分に向けられることはない。あの音量の攻撃力は半端ない。あれに耐えうる帝国の皇族たちって、凄いと思う。
一応、会場を後にする際、教皇と少しだけ話をすることが出来た。といっても、改めての挨拶と、教会本部へのお誘いを受けただけ。落ち着いて話などできる状態ではなかった。
リンドベル領にいる時は、ついつい日々のことにかまけて、なかなか教会に足が向かなかった分、一度はこの国の教会に行って、久しぶりにアルム様に会えたらいいなぁ、と思ったのだ。
それに、あの寵姫にかかっている呪いについては、まったく話をしていない。できる状況でもなかった。
そもそも、あの時、教皇には見えていただろうか。あの場から連れ出される寵姫へは、目もくれなかった気がする。
その話もしなくちゃならない。タイミングを逃して、呪いを解くことが出来なかったけれど、大丈夫だったろうか。呪いを見ることのできる目は、教会でも誰にでもあるものではないらしい。そこは教会本部のある帝国なだけに、私でなくても見える人も、解呪出来る人もいるに違いない。私がそこまで気に掛ける必要もないか。
……君子危うきに近寄らず、と言うしね。
時刻で言えば、そろそろ夕方になる頃だろうか。誕生祭の見世物役が終わった私は、会場から直接、宮殿内に用意されていた部屋にそのまま案内されて、ベッドにだらしなく倒れ込んでいる。
せっかく帝国に行くのだから、と、わざわざジーナ姉様が用意してくれたドレス。結局、こちらについて早々、帝国側が用意したモノを着させられた私。確かに良い生地使ってる素敵なドレスだったけど、ジーナ姉様のじゃないって時点で、シワクチャになっても気にしないことにした。
てっきり、あの見世物が終われば、イザーク兄様たちに合流できるもんだと思ってたのに、なぜか宮殿に留め置かれてる。これ、軟禁ていうヤツだろうか? 一応、イザーク兄様には伝達の魔法陣で手紙は届けてある。そもそも、兄様たちが今どこにいるのかも、わからないのだ。たぶん、私なら勝手に転移することはできると思うけど、兄様からの返事が来るまで、少しばかり様子見だ。
この先、帝国の出方がわからないだけに、部屋の中はしっかり結界張ってますよ。さすがに無音すぎると、警備してる騎士さんが心配してドンドンとドアを叩かれそうなので、防音まではしてない。
暫く、つらつらと考え事をしつつ、いつまでここに居なきゃいけないんだろう、とボーッとしながら天井を見上げていると、部屋のドアが遠慮がちにノックされた。
「はい?」
『聖女様、よろしいでしょうか』
聞き慣れない女性の声。
『恐れ入りますが、皇太子様がお呼びです』
「……皇太子様が?」
なんだって今頃? それもなぜ皇太子? ていうか、いつになったら兄様達のところに行けるのよ。
私はうんざりした気分になって、大きくため息をついた。
……いい加減にしてほしい。私、別に帝国お抱えってわけじゃないんだし。それを言ったらレヴィエスタもそうだ。
もう、兄様の返事を待たずに、行動してもいいだろうか?
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