第60話

 もうちょっと、イザーク様の恋愛話を聞きたいなぁ、と思ったところで、カークさんがメイドさんたちを連れて戻って来た。メイドさんたちはテキパキとテーブルをセッティングすると、速やかに部屋から出ていく。テーブルには、二人分。うん、やっぱり、オズワルドさんたちは別なのね。


「まずは、食事だな。ミーシャ、まだ話があるから、食べながら聞いててくれ」

「あ、はい」


 ハーディング様の話のほとんどが武術大会のことと、妹との婚約の話だったそうだ。

 それでも、その中でなんとか聞けたのが、門のところで集められてた老婆たちのこと。あれ、やっぱり王都絡みだったようなのだ。

 ハーディング様のお友達が魔術師団に所属してる人だそうで、その方からの依頼で、国境を越えようとしている老婆を止めていたそうだ。


「でも、あれって犯罪者を探してるみたいですよね?」

「うむ。どういう指示がなされているのか。あれで聖女を探しているっていうのなら、まずい対応になると思うんだがな。王都のほうも具体的な指示を出していないのかもしれない」


 うん。絶対、自分があんなことされたら、戻る気にならない。戻るつもりはないけど。

 美味しいはずの食事も、今一つに感じてしまう。


「そして、引き留められている老婆たちの確認のために、魔術師団の連中がやってくるらしい」

「まさか」

「ああ。さっき、ハーディング殿が帰られたのも、砦のほうに連中が到着した、との連絡があったからだ」

「えっ!?」


 一気に、血の気が引いてくる。


「……まずいです、まずいですって!」


 思わず、ナイフとフォークを持ったまま立上る。

 どうしよう、どうしたらいいんだ!?


「ミーシャ、落ち着いて!」

「でも、でもっ」


 落ち着けと言われても、落ちつけませんっ!

 あわあわしている私の両肩に、温かい大きな手が二つ乗る。私の背後に、私よりずっと大きなオズワルドさんとカークさん二人が、真面目な顔で立っていた。


「ミーシャ様、大丈夫です。我々がおります」

「そうですよ、ちゃんと我々がお守りします」


 オズワルドさんとカークさんが、力強く頷く。


「もちろん、私もミーシャを守るよ」


 最後のイザーク様の言葉に、涙が溢れそうになる。

 そうだ。今の私は一人じゃないんだった。


「それにね……今のミーシャは、老婆じゃないだろう?」

「あっ!?」


 ニッコリ笑いながらイザーク様が指摘してきて、思い出して、ホッとする。

 そうだ。私は老婆じゃない……。


「……ていうか、そもそも、あんなおばあちゃんたちみたいじゃなかったよね!? ひどくないっ!?」


 思い切り大声で文句を言ったら、三人ともが爆笑した。

 ……それはそれで、ひどくない?

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