第295話

 とりあえず、地図情報を確認すると、今回の階層は迷路のような作りになっているようだ。まさに私のイメージする通りのダンジョンである。今の浄化で、この部屋から出る通路方向には赤い点は見えなくなった。ということは、ここもアンデッド系のダンジョンの可能性がある。

 そして、ここから最短で次のセーフティーゾーンに行くにしても、かなりの距離があるのもわかった。私はほとんど抱えられていたものの、ちょっと疲れてきていた。それは、イスタくんも同様だ。獣人とはいえ、大人の身体のペースについていくのは疲れるだろう。さすがに、どこかで腰を落ち着かせたいけど、下手をすれば後方のゴンドーたちに追いつかれて面倒なことになりそう。

 ジッと地図情報を見ていると、この階層の真ん中よりも手前あたりに、開けた場所があるのに気が付いた。


「……ニコラス兄様」


 魔石を拾っていたニコラス兄様に声をかける。手にしている革袋は、すでにパンパンになっている。私は新しい革袋とそれを交換して仕舞い込む。


「なんだい」

「ここから、少しいった所に少し開けた場所があるようです。赤い点もないようですし、そこで一旦、休みましょう」

「わかった」


 全ての魔石を拾い終えると、結界を解いて、上の様子を窺う。


「あのモンスターハウスが、そうそうすぐになんとかなるとは思ってもいないだろうから、まだしばらくは気付かないだろ」


 私の背後に立ったヘリウスがそう言って、なんだか嬉しそうだ。まぁ、気持ちはわかるけど。

 モンスターハウスだった場所を出たその後は、ひたすら浄化しまくって、いくつかの曲がり角を曲がり、目的の場所へと向かう。もうヘリウスたちは何も言わない。私たちの後を素直についてくる。大人しくしてくれるのはありがたい。

 そして到着してみたら、ドアがついていた。まさかの、洞窟にドア。鍵がかかってるのか開かない。どういう仕組みだ?


『私が壊そう』


 いきなりミニチュアサイズの火の精霊王様が現れたかと思ったら、青い炎の玉が空中に浮かんだ。


「え、何するの」

『まぁ、見てろ』

「ちょ、ちょっといきなり……うわっ!?」


 ドゴーンッという派手な爆発音とともに、熱風がこちらに向かってくるかと思いきや、さすが火の精霊王様、ちゃんとバリアみたいのを張ってくれていた。

 というか、密閉空間でいきなり火の玉で爆破とか、窒息死してもおかしくない。そうならなかったのは、バリアのおかげなのか、ダンジョンの性質のせいなのか。

 そして、突然過ぎて硬直している皆の中で、いち早く復活したのはニコラス兄様。もくもくと煙が上がる中、精霊魔法で煙を散らしてくれた。

 それにしたって、いきなりはない。


「……精霊王様」

『うん……!?』


 私の怒り具合が伝わったのか、ちょっとプルプルしだした精霊王様。ジロリと睨んだだけで、小さな光の玉に変わってしまった。


「いきなりはやめてください。心臓に悪い」

『……すまん』


 はぁ、と大きく溜息をついた私は、ドアの破壊された部屋? の方へと目を向けた。

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