第3章 おばちゃん、王都脱出を試みる

第14話

 最初のうちは、ポチポチと魔法の使い方とか、変化のリストの使い方を調べながら待っていたのだけれど、ベッドに入ってしまってたせいか、例え硬いベッドでも自然と瞼が落ちてきて、いつの間にか、寝てしまっていた。

 目が覚めた時には窓の外が赤くなっていた。

 その間、誰かが入って来てたとしても気が付かなかったけど、きっと誰も来ていないだろう。

 ナビゲーションの画面は、私が眠ると同時に消えていたらしい。意識がないと消えるのかしら。

 それにしても、勝手に召喚した上に、その人間が病人だったっていうのに(もう治療してもらってるけど)、こうも放置ってどうなんだろう。

 空腹を覚えた私は、アイテムボックスから干し肉を取り出し、むしゃむしゃとしゃぶりはじめる。何にも食べてないから、これすら、大切な食料だ。

 干し肉がようやくふやけてきたかな、という頃、ドアの鍵が開く音がした。

 タイミング悪いなぁ、と思いつつ、こっそりと干し肉をアイテムボックスにしまいこむ。

 寝たふりをして、誰が入ってきたのか薄目を開けて見てみる。今朝来たメイドさんではなかった。ちょっとぽっちゃりした感じの、もう少し年のいった別のメイドさんのようだ。

 ドアを閉めてベッドの近くまで来た時、「スリープ」と呟くと、 メイドさんは言葉もなく、私の寝ている上に倒れこんできた。


「うえっ」


 勢いよく倒れてきたものだから、思わず下品な声が漏れる。

 私はメイドさんの下からなんとか抜け出すと、彼女をベッドに寝かせる。ぽっちゃり、侮りがたし。思いの外、重かった。


「ふぅ~」


 大きく溜息をついてから、私は仰向けに寝ているメイドさんをジッと見つめる。

 三十代半ばくらいだろうか。まぁ、私に比べれば、だいぶ若いけど、化粧で隠しててもうっすらと目元に隈とかが見える。なんだか苦労してそうな顔だ。

 メイドさんの姿を目に焼き付けると、私は手首にある変化のリストを右手で握りこみ、彼女の姿を思い描いた。


 ふわん


 身体の周りを柔らかい風に包まれる。


「ふぅ……」


 大きく溜息をついた私は、両手を差し出し、身体を見下ろしてみる。


「よかった……ちゃんとメイド服着てる」


 くるりと回ってみれば、長い黒いスカートとエプロンが翻る。こんな格好、人生でも初めてかも。鏡がないから全体の確認が出来ないし、顔もわからないけど、下を向いていればなんとか誤魔化せるんじゃないかと期待してたり。

 ……甘いかなぁ。

 でも、今、ここで逃げなきゃ、次の機会があるかわからない。


「よし、気合よ、気合」


 うっし、と声を出して、大きく深呼吸。

 私はドキドキしながらも、ドアをゆっくりと開きながら、部屋から一歩踏み出した。

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