第154話
それからマルゴ様は、王城の奥にある離宮に留まることになった。
ヴィクトル様が、まるで今までの反動のように、溺愛モードに入ったらしいのだ。マルゴ様は学園にも残り半年通うことになっていたのだけれど、その往復の通学にも、護衛がぴったり貼り付いてるとか。時間があるときは、ヴィクトル様ご自身までついてくるとか。妹のエミリア様も近寄れないほどらしい。
まぁ、カリス公爵の動きを考えたら、そうもなるよね。マルゴ様よりエミリア様のほうを可愛がっているわけだし、あの呪いのブレスレットの対になるものを持っている可能性もある。ただ、私は、あの夜会の時に来ていた自称聖女も怪しいと思ってる。マルゴ様が倒れる直前のヴィクトル様のあの反応、ちょっとおかしいと思ったからだ。
それとは別に、実はイザーク兄様もヴィクトル様の側に長くいただけに、マルゴ様に関する接し方の変化に違和感があったそうだ。ただ残念ながら、ヴィクトル様自身が、イザーク兄様の言葉に耳を傾けることがなかった。それ自体が、イザーク兄様を困惑させたことの一つでもあったらしい。いつもなら冷静な判断をする方が、何故?と。
それでも、あの呪いの影響がなくなったのは、かなり大きかったようだ。何より、マルゴ様に笑顔が戻ったのだから、万々歳だ。
ところで、あの自称聖女、図々しくも王宮に居座ろうとしたらしい。なぜかヴィクトル様におねだりをしようとしたらしいが、あっさり断られたそうだ。それにもめげず、今度は同じ学園にいる第三王子、リシャール様にアタックしたらしいが、逆に怖がられて避けまくられているらしい。わかる。怖いよね、あんなのが突撃して来たら。
今頃、カリス公爵は苛々してるんではないだろうか。どういった思惑があったにしろ、あの人の手からマルゴ様は抜け出したのだから、ざまぁ見ろ、と内心ほくそ笑む。
家のことはマルゴ様が何でもやっていたのだ。これから、あの家の諸々のことは、あの公爵夫人がやることになるんだけど、大丈夫なのかしらねぇ?
そして私は、今、ワイバーンに乗って、リンドベル領に向かっている。ヘリオルド兄様とジーナ姉様も一緒だ。護衛として、オズワルドさんがついてきてくれている。風が気持ちいいっ!
「イザークも一緒に帰りたがってたなぁ」
「フフフ、ヴィクトル様がしばらくは離さないでしょう?」
「確かに」
なんかゴタゴタしそうだものね。身近に信頼できる者を置いておきたいのは、よくわかる。見送りに来てくれたイザーク兄様の寂しそうな顔が頭をよぎる。一緒に残るカークさんは苦笑いしてた。セバスチャンさんたちは、もう少し教育を施してから戻るとか。王都のスタッフさんたち、顔が青ざめてたけど……頑張れ、としか、私は言えない。
「さて、領都には明日には着く。そしたら、少しはゆっくりできるか」
「あなた、あちらでもお仕事が溜まってるのでは?」
「うっ、それは言わないでくれ」
ジーナ姉様の軽やかな笑い声が、青空に響く。
私の心は、すでにリンドベル領での新しい生活のことで頭がいっぱいだ。何からやりはじめようか、笑みが自然と浮かんでいた。
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