第323話

 私が目を覚ましたのは、サンドラ様の解呪をした翌日のお昼頃だった模様。肝心のサンドラ様の方は、まだ目を覚ましていないようだ。

 私もなんとか復活したので、王太子たちが待つ部屋に、イザーク兄様に抱えられて行くことになった。多少、抵抗してみたものの、悲しそうな大型犬の顔を見たら、むぅ、と唸り声が出てしまう。

 結局、仕方がないから、ありがたく運んでもらったけど(おかげで、イザーク兄様は上機嫌だ)。


 部屋の中には、王太子と数人の護衛や従者らしき姿も見える。さりげなくハロルドさんもいた。他にも灰色の狼っぽい年配の獣人の姿があったが、さすがに国王は、休まされているのか、この部屋にはいないようだ。

 颯爽と現れたイザーク兄様だけど、私を抱えている姿は、けして『颯爽』とは言い切れない気がするのは、私だけだろうか。


「失礼しました。ミーシャが目覚めたとのことだったので」


 にこやかに言い訳をするイザーク兄様。

 本来なら、イザーク兄様の行動は不敬に当たるのではないか、と思ったのだけれど、獣人の番に関する考え方があるおかげなのか、それほどまでではないようだ。

 正確には、私はイザーク兄様の番でもなんでもないけど。

 部屋に入ったので、すぐに降ろしてもらう。そこまで、お子様ではないのだ。パメラ姉様たちは、小さく手を振っている。彼女たちの姿を見て、私もホッとする。


「ご挨拶が遅くなりました。ミーシャです」


 格好は冒険者のままだったけれど、相手が王族ということもあったので、なんとかカーテシーで挨拶をする。


「おお、聖女殿、もう、身体の方はよろしいのか?」


 王太子がわざわざ立ち上がり、私の目の前にしゃがみこむ。王族が膝をついていいんだろうか。ちょっとだけ、私も慌て気味になる。


「ご心配おかけしました。ゆっくり休めたので、なんとか……あの、どうぞ、立ってください」

「聖女殿のおかげで、サンドラ様も、国王陛下もなんとかなった。本当に助かった」


 私の言葉は華麗にスルーされ、そのまま私の手を握って感謝の言葉を続ける。

 しかし、そう言う王太子の顔色の方が、ちょっと悪そう。今回のことで、かなりの心労がかかったのだろう。あまりにも気の毒な顔色なので、少しだけ癒しを、と思って、『ヒール』とこっそりと呟く。

 たぶん、すぐに実感したのかもしれない。王太子は一瞬驚いた顔をしたけれど、優しい笑みを浮かべて、私の手をギュッと握りしめた。


 そして、ソファに座るように勧められ、その後の話を聞くこととなる。


 なんと第三夫人のコークシスから連れてきていたメイドたち全員が、あの解呪のタイミングにすべて古木へと姿が変わってしまって、大騒ぎになっていたらしい。

 時間帯が、食事の後、片付けている時だったらしく、目の前で一気に変わったのを見て、第三夫人は叫び声を上げる暇もなく、座ったまま意識を失ってしまったらしい。

 古木って何、って思うけど、あの解呪の反動でと言われると、なるほど、と思う。

 ウルトガ側から付けられていた、二人いた獣人のメイドだけは無事だったそうだ。逆に、それ以外全員が係わっていたというのは、驚きとともに呆れてしまう。

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