第149話

 私は考えた。

 ここで『聖女』と認められなくてもいいんじゃないかと。だって、国王様も言っておられた。『王都の大聖堂にて、居を構えていただき、我が国の為に祈りを捧げていただきたい』って。それなら、認められなくてもいいよねぇ?

 私はチラリと国王陛下の顔を見上げる。渋い顔をしていた国王様は、私の視線に気付いて、少しだけ顔を緩めて声をかけてくれた。


「ミーシャ」

「……発言してよろしいですか?」

「よい、申してみよ」

「ありがとうございます……カリス公爵、でしたかしら? あの方がおっしゃるように教会に認められなければ『聖女』ではない、というのであれば、私は王都にいる必要はございませんよね?」

「いや、それは」

「せっかく、ご自身で『聖女』だとおっしゃる方がいらしたのでしたら、彼女にお任せしたらいかがでしょうか? そのハロー教ですか? その教会がここにあるのかは存じませんけど、彼女に祈ってもらってはいかがかと」


 私がわざと宗教の名前を間違えて言えば、「ハロイ教よっ」とアイリス嬢が声を張り上げたけど、完全無視。


「いやいや、ミーシャ、お前がわざわざ教皇に認めてもらう必要はない。先日の謁見の場でお前の実力は、その場にいた者たちもわかっておろう。また、あの場にはエンディメン枢機卿も居った。彼が認めていたのだ。あれで十分であろうが。そもそもアイリスとやら、お前にはどんな力があるというのだ」

「国王陛下、私には『聖女』の力、『癒し』の力がございます」

「『癒し』だと?」

「はい。どのような傷を負った者でも、どのような病にかかった者でも、治してみせます」

「……それは教会の治癒士と同じなのでは」

「治癒士は一人しか治せませんが、私でしたら、広範囲での治癒が可能です」


 ……うん。偉そうに言ってるけど、創造神アルム様の言ってる『聖女』ではないね。でも、ヒール的な能力があるというのであれば、それはそれで、使い道がある力ではあるのだろう。

 私はここであえて、本来の『聖女』の力である『浄化』のことは聞かず、そのまま『聖女』の地位を押し付けてしまおう、と思った。やる気がある人がその地位にいればいいしね。ただ、彼女のバックに腹黒デブがいるのは気になるけど。


「ミーシャ、お前も同じように『癒し』の力は」

「さぁ。ヒールなどの聖属性の魔法を使うことはできます。それを彼女の言う『癒し』というのであれば、同じものかもしれませんが……あのようにやる気のある『聖女』様がいるのであれば、私はリンドベル領へと戻らせていただきます」


 トーラス帝国にいつか戻られるのであれば、一時的なものなのかもしれませんけどね。

 国王様はまだ何か言いたげだったけれど、私はカーテシーをして、すぐにその場から離れた。イザーク兄様が、ひどく心配そうな顔をしている。ヘリオルド兄様やジーナ姉様もだ。

 私はニコリと笑みを浮かべてイザーク兄様のそばへ行く。アイリスの視線がずっと私の後を追っていた気がしたが、私は兄様の腕に縋りつくと、小さな声で、早くこの場から出ましょう、と促した。 


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