第148話

 会場のざわめきが治まらない。そりゃそうだ。腹黒デブとアイリスの爆弾発言に、皆が皆、動揺しているのだから。

 そういう私は、逆に冷静になっていく。偽『聖女』って何? そもそも、この世界で『聖女』って、異世界から召喚された人のことを言うんじゃないの? まさかの自己申告?


「……ほう。ドッズ侯爵とは面識はないが、名前だけは聞いたことはあるな。確か、武門の一族ではなかったか? ……宰相?」

「はっ。しかし、ドッズ侯爵家には、嫡男がお一人だけで、他に子供はいないはず」


 宰相さんの鋭い視線にも、臆することなく睨み返すアイリス。すんごい気が強いのがわかる。宰相さんの言葉に反応したのは、ずっと無言だった燕尾服を着た男性。腹黒デブの脇に並び、片膝をついて挨拶をする。国王様は頷いて、声をかけた。


「その方は……トーラス帝国の外交官…ヤーフェス子爵であったか」

「はっ。発言をよろしいでしょうか」

「許す」


 ヤーフェス子爵は立ち上がると、再び、頭を下げてから、国王陛下へと目を向ける。


「こちらのアイリス嬢ですが、ドッズ侯爵がまだ爵位を継ぐ以前に、お付き合いをされていた男爵家の令嬢との間にお生まれになられたそうです。残念ながら、男爵家のほうが没落し、行方がわからなくなり、今の奥方と結婚することになったとか。アイリス嬢の母君が亡くなられる直前に、侯爵家へ連絡をとったことで、アイリス嬢を引き取ることが出来たそうです」

「……ほお。ドッズ侯爵の娘だということは、わかったが、その者が『聖女』であるというのは、どういうことか」

「……トーラス帝国内のハロイ教の教皇様によって、認められました『聖女』様でございます」


 ハロイ教? そんな宗教があるの? 私は頭の上に『?』がいくつも浮かんでいる。この世界は創造神であるアルム神を崇める世界なんじゃなかったっけ。他に神様がいるとは聞いていないんだけど。それとも国によって、信仰する宗教が違うのだろうか?


「ハロイ教……最近、よく名を聞くようになったあれか」

「……はっ」


 国王様の言葉から、新興宗教っぽいのかな、という予想がつく。もう、それだけで怪しさ満点って私なんかは思うのだが。

 無表情にヤーフェス子爵は返事を返すと、そのまま腹黒デブの後ろに下がってしまった。その後を引き継ぐように、腹黒デブが会場にいる者たちに聞かせるように声を張り上げた。


「国王陛下、このようにアイリス嬢はハロイ教とは言え、教皇様に認められた『聖女』であるのに対し、その者は未だ、アルム教の教皇様にすら認められておりません。そのような者を我が国が『聖女』と認めてもよろしいのか」


 ……へぇ。

 宗教的に認められないと『聖女』じゃないのか。ふぅん。


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