第356話

 結局、リンドベル家に滞在したのは1週間ほどだった。

 アルフレッドの相手をしたり、お屋敷での生活も悪くはなかったのだけれど、何かというと使用人の方々がお世話をしようとしてくれるのは、ありがたかったものの、落ち着かなかった。特に、ここしばらく旅に出ていたせいもあってか、余計にそう感じたのかもしれない。


 だから、森にある自分の家に戻ることにした。

 最初はイザーク兄様もついてきそうだったけれど、そこはご遠慮いただいた。これでも、見た目はうら若き乙女なのだ。捨てられた犬のような目で見られても、そこは譲れなかった。

 その代わりに、夕飯だけは食べに来るようにと、ヘリオルド兄様から妥協案を提案されてしまった。自炊はできるとはいえ、人に作ってもらう食事は美味しいのは事実なので、素直にいうことを聞くことにした。


 気になっていたのは、新興宗教の集団のこと。

 私がリンドベル領から離れようとしたきっかけだけに、どうなったのかを聞いたところ、いつの間にかに領内から新興宗教の集団はいなくなっていたそうだ。

 たぶん、ヘリオルド兄様たちが何とかしてくれたのだと思うが、具体的なことは聞いていない。あえて聞くつもりもない。

 落ち着いて生活できるのが一番なのだ。


 久々の森の我が家は……埃っぽかった。しばらく住んでいなかったのだから、仕方がない。窓から見える庭は、ゲイリーさん夫婦のおかげか、かなり整えられている。

 人に気兼ねしないで生活できるって、すばらしい。

 一人で掃除をしながら、つくづく思った。


 少し経ってから、街にある薬屋も久々に開けた。

 しばらくは暇かな? なんて思ってたら、そんな甘いことはなく、近所のお客さんたちが集まってきて驚いた。

 特に、生理痛や更年期など、婦人科系のお薬を求める主婦層が多かったこと。一応、他にも薬屋はあるはずだったので、お客さんに聞いてみると、男の薬師にはなかなか話せないらしく、また、更年期の薬は理解してもらえなかったそうだ。

 そもそもが更年期なんていう考え方がなかったようなので、難しかったのかもしれない。




 そんなこんなで、結構忙しくしていた私だったけれど、旅に出ているのとはまた違った充実感を感じていた。

 そして戻ってきて一月ほど経った頃、私の手元に伝達の魔法陣による手紙が届いた。

 エドワルドお父様からだった。


『アリスが倒れた』


 小さなメモに乱れた文字。エドワルドお父様の動揺が伝わってくる。

 多少の怪我くらいだったら、前に渡した私特製のポーションを持っているはず。もしかして、何かの病気とか?


「もう……今、どこにいるの?」


 私は慌てて、地図情報を開く。屋敷に戻っているのかと思って、リンドベル領の地図を見るけれど、屋敷にはヘリオルド兄様家族と、イザーク兄様のマーカーがあるだけ。まだ戻ってきていないということだ。


「どこの国に行ってるのか聞いておけばよかった」


 地図の範囲を国単位に広げる。


「あった」


 エドワルドお父様とアリス母様のマーカーがあったのは、オムダル王国の王都だった。

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