第282話
ヘリウスが連れてきてくれた宿は、さすがAランクの冒険者が利用するだけのことはある、なかなかいい宿屋だった。パメラ姉様が心配していた、娼館がそばにあるような立地ではなかったのでよかった。まったく、冗談にも程がある。
「で、どうだった? 公爵様は」
宿の一階にある大きな食堂。冒険者半分、金持ちっぽい商人たち半分、といったところだろうか。出される料理も、少しばかり豪勢な感じだ。
私たち三人の目の前に並ぶ、親子のようにそっくりな獣人二人が、すごい勢いで肉に食らいついている。この姿を見ていると、王族かも、なんて思った自分が馬鹿みたいに思える。
「あ? ああ、よほどの馬鹿じゃない限り、アレを跡継ぎにはせんだろ」
「当然、あちらは、お前のこと知ってて、指名依頼出してきたんだろ?」
「まぁな」
「あの坊ちゃんの方は知らなかったようだが」
「……見極め込みでの護衛依頼だしな」
あのボンボン、終わったな。まぁ、あんなのが次期公爵とか怖すぎるわ。まともな判断をする公爵であることを祈る。
大人三人が、公爵の話で盛り上がっているそばで、イスタくんは黙々とご飯を食べている。この姿を見ていると、十七、八とか、全然見えない。王子様、というからには、それなりのテーブルマナーとかがありそうなのに、彼の様子からは、それも見受けられない。豪快だ。そもそも、獣人というのは、そういうものなのだろうか。
口の端から、肉のソースが垂れてきている。気になってしまった私は、アイテムボックスから大きめのハンカチを取り出して、口元を拭いてやる。
「っ!?」
いきなり拭いてしまったのがいけなかったのか、イスタくんがびっくりして、太い尻尾がピンッと立上って、ビビビッと震えてる。なんか面白い。思わず、クスリと笑ってしまう。
「な、何?」
「ごめん、口元が汚れてたから」
「え、あ、ありがと」
慌てたように、自分の服の袖で口元を拭おうとしたので、ハンカチを差し出す。
「服が汚れるよ」
「……うん」
ハンカチを素直に受け取り、口元を拭うあたり、十分可愛い。この子が大きくなると、ヘリウスみたいになるのかもしれない。ヘリウス自体、普通にイケメンではあるが、この可愛さを見てしまうと、ちょっと、もったいないなぁ、などと思ってしまう。
心なしか顔が赤くなっているイスタくん。少し照れたような顔をしている。あちゃ~、子供扱いし過ぎたか。でも、嫌そうでもないし、まぁ、いいか、と思っていたら。
「なんだなんだ、二人とも、いい感じじゃないか」
「えー、ミーシャの好みって……」
「やばい、イザーク兄さんにライバルが」
「……三人とも、何言ってるの?」
楽しそうに揶揄う三人に、私の呆れた声。さすがに、自分の子供……いや、下手したら孫くらいに見える相手に、それはない。
嫌な大人たちだね、と言うつもりで、イスタくんの方へ目を向けたら。
「イザークって誰?」
なんか、いきなりイスタくんの目付きが変わった気がするのは、気のせいだろうか。
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