守備隊長は魔術師たちの勢いに呆れる

 守備隊長、アラスター・ハーディングは、イザーク・リンドベルとの会談を途中で止めざるを得なかったことが、非常に残念だった。その原因となったのが、今、目の前にいる魔術師団の若者たち、イニエスタ・マートルの直属の部下たちだ。

 執務室に戻ったハーディングは、ドカッと自分の席へ腰を降ろす。


「ハーディング守備隊長殿!」

「ああ、待たせた。いったいなんだというのだっ」


 ハーディングは、声を荒げて前に並んでいる男たちを睨みつける。

 愛しの妹がどれだけ可愛いか、きっとリンドベルを愛し、互いに支え合える夫婦になれるはずだ、と力説していた時に呼ばれていただけに、思いを伝えきれなくて消化不良を起こしていた。


 帝国で共に学んだ兄のヘリオルドが幾分線が細いのに比べ、さすが武術大会に出てくるだけあって、鍛え上げられた身体は惚れ惚れするほどだった。武術大会では、気持ちいいほどの負けっぷりに、自分でも清々しいくらいだった。

 辺境ともいえるこの砦に詰めているだけに、隣国の彼と顔を合わせることなど、武術大会以外にないと思っていた。それが、どんな理由でなのか、砦のあるこの町にやってきた。ハーディングにとって、今回の機会は千載一遇のものだったのだ。


「こちらに、レヴィエスタのリンドベル殿がいらしていると聞いたのですが」

「……なんで、お前たちがそんなことを知っている」

「いるんですか! であれば、すぐにでも確認したいことがっ」


 焦りで唾を吐き散らしながら身を乗り出してくる若い魔術師に、苛立ちも限界を告げる。


「今時分であれば、相手方も食事時のはず。そんな不躾なことが出来るか! お前たちは我が国の品格を貶めるつもりかっ!」

「ハ、ハーディング守備隊長殿……」


 ハーディングの怒鳴り声に、さすがの魔術師たちも真っ青になる。


「それよりも、マートルから頼まれてた、老女に関してだが」


 ギロリと魔術師たちに目を向ける。


「あ、はいっ」

「それらしい老女は見つからん。一応、老女たちを砦内の控室に移動させている。まずは、お前たち、なるべく早くそっちの方を確認してくれ、そうでないと、無実の者たちを捕えていることになる」

「わかりました、では、そちらを確認した後、リンドベル殿に確認させていただきたいことがあるのです」

「ああ、わかった……しかし、明日以降にしろ」

「ありがとうございますっ!」


 勢いよく執務室を出ていく魔術師たちを見て、ハーディングは呆れてしまった。

 確かに、重要人物と思われる老女が行方知れずになったと聞いてはいた。北上している可能性があるので、見つけ次第、保護してほしいと。部下に任せていたら、ずいぶん多くの老婆を引き留めることになってしまった。

 しかし、あんな若造たちが、ちゃんと粗相のない振る舞いが出来るのであろうか、とハーディングは開きっぱなしのドアを閉じるために立上る。

 マートルはなぜあんな奴らに任せたのだろうか、とハーディングは前髪を掻き上げながら、ため息をつくのであった。


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