第42話
馬車が止まる前に、おばさんがいきなり飛び降りた。
えぇぇっ、おばさん、運動神経良すぎ。実年齢の私と同い年なのに。私だったら、完全にこけるわ。
「お、おい、そんなにか」
その勢いにおじさんや、他の乗客もどこか呆れたような、失笑をもらしたけど、たぶん、それ、違うからっ!
私も後を追うように馬車から降りて、後ろから護衛の二人に声をかける。
「アンディさん、メロディさんっ」
「何?」
「どうした?」
まだ気付いてないのか、二人は御者のおじさんのところで暢気に話してる。もうっ! いつの間にか、あのおばさんの姿、もう見えないしっ。
「敵です!」
「はっ!?」
「何ですって」
私の声に反応したかのように、前方の山の斜面からと、後方からも武器を持ったヤバそうな男たちが現れた。ちょっと、この人数じゃ冒険者二人じゃダメなんじゃないの!?
私も完全にパニクってる自覚あり!
「おらぁ、馬車の中に入って……」
「ストーンバレットッ!」
「ギャッ!?」
「いてぇっ!」
相手の言葉を全部聞く前に、土魔法を発動させる。
前から頭ではイメージトレーニングはしてた。火魔法とか風魔法だと、皮膚が焼けた匂いとか、血が出たりして嫌だなって思った。だから、石礫みたいなのだったらまだマシかなって。だけど、初めての攻撃魔法に、加減なんか出来ない。
後方の敵全員に向けて石礫を投げつけたら、前列にいた男どもには見事にクリーンヒット! でも後方にいる奴らには、かすり傷しか与えられてないみたいで、倒れた奴らの間から、ケガの浅い奴らが出て来ようとしてる!
「てめぇっ!」
「ガキがぁ!」
もう、どうしよう!?
「ぎゃぁ! スリープ!」
「はれぇぇ……」
あ、あはは。
みっともない叫び声とともに無意識に出た『スリープ』で、全員、眠っちゃったみたいで、地面に倒れ込んでしまった。最初から、こうすればよかったか。一瞬、気が抜けたけど、剣が激しくぶつかり合う金属音が聞こえてきて、我に返る。
「グッ!?」
「アンディッ!」
あ、マズイ。前はアンディさんたち、二人しかいないんだった!
二人に襲い掛かる奴ら以外にも、御者のおじさんに向かってくる奴らもいる。おじさん、意外に戦えてる。スゴイ。でも、何人いるのよ。
慌てて前方に向かって走りながら「スリープ!」と叫ぶ。
「ふぁぁぁっ……」
「あぁ?……」
「なに……?」
バタバタと倒れていく男たちに、内心、やった! と喜んだんだけど。
「あ、失敗した……」
敵だけじゃなく、アンディさんたちまで眠っちゃったよ。
「ど、どうしよう……」
道に寝こけている姿に、呆然としてしまった。
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