第27章 おばちゃん、行商人の手伝いをする

第341話

 火の精霊王様の後を追いかけて到着したのは、なんだか随分と大きな建物で、人の出入りもそこそこ激しい店先の模様。


「うん? 『ノドルドン商会』?」

『うむ、しばし待て』


 大きな板の看板に、どどーんと商会の名前を書いているあたり、かなり大きな商会じゃないかって、私でも予想がつく。それも、この店構えからして、一般客を相手にしていそうもないし、すんごく、私たち、違和感ありまくりなんだけど。

 こんなところで、待ってていいんだろうか。


「イザーク兄様……」

「うん、でも、少し待ってみようか」


 目の前を大きな荷馬車が通り過ぎたり、立派な服装のおじさまが従僕を連れて歩いてたり。通り過ぎる人達に何度も不審そうに見られて、居たたまれない気分になってきている。

 だって、ずーっと、立ちんぼなんだよ?


「ねぇ、火の精霊王様、まだかなぁ?」


 私の顔も、だいぶ、だいーぶ、ひくついていると思うのよね。たぶん、ここで待ち始めて、そろそろ三十分になると思うの。一応、精霊王様が言うから、待ってるのよ? 片足をパタパタと足踏みするのは、許してほしいわ。


 ……そういえば、昔、デートの待ち合わせで、一時間以上待たされたことあったなぁ。夫じゃない人だけど。


『す、すまんな。よ、よし、私が行ってこよう!』


 青い顔して飛んでったよ。火の精霊王なのに。


「ミーシャ……疲れたなら、抱き上げようか?」

「結構です」


 こんなところで、やめてくれ。

 どこか期待した顔つきだったイザーク兄様を、軽く拒絶すると、思い切り凹んでしまった。まったく……お子様なんだから。

 なんて思っていたら、突然。


 ドドーンッ!


 激しく何かが壊れる音が聞こえてきた。


「え、何!?」


 私はイザーク兄様を見上げたけれど、兄様は何やら察している模様。もしかして。


「ミーシャ」

「うん、まさかとは思うけどさ」

『待たせたな! 連れてきたぞ!』

「うひぃっ!?」


 店先にいきなり、どしんっと目の前に落とされたのは、一人の人族の少年。たぶん、年齢でいえば、今の私と同世代くらいだろうか。しかし、髪の色が白髪って、見た目年齢と違うんだろうか?


『まったく、先触れに出したヤツの言葉を理解出来ないとは思いもしなかったぞ』

「な、なんなんだ!? か、母さん、どういうことっ!?」


 どうも精霊王様が連れ出したわけではなく、この少年の母親が連れてきたらしい。

 その母親、なかなか立派な体格をしている。獣人だからなのか、イザーク兄様と身長が変わらないくらいだ。少年同様の白い髪をひっつめているんだけれど……彼女にはピンッと尖った白い耳が。もしや、彼女、犬系の獣人? だけど、この子には耳がないけど。


「申し訳ございません、精霊王様」

『うむ、まぁ、仕方ないといえば仕方がないの。うちのも、もう少し頭が回ればよかったんだが』


 苦笑いしている精霊王様に、深々と頭を下げる少年の母親。


『こ奴を、御者に使えんかと思ってな』


 周囲の視線が痛いんだけど、得意げに言う火の精霊王様。どうも見えているのは、私たちと獣人の母親だけみたい。

 少年の方はキョロキョロ見回してるだけで、伝わってないみたいだよ?

 ……大丈夫なのかな?


***


 こっそり『ちびっ子エルフ……』の『白狼の憂鬱』とリンクしてたりします。(^^;)

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