メイドは怒りで涙を零す(1)

 魔術師にあの女の話をしてから二週間ほどしてから、支配人から呼び出された。


「王都の魔術師団から、お前さんの召喚状が届いた。いったい、何をやらかしたんだ」


 支配人は不機嫌そうにそう言って、綺麗な紙に書かれた召喚状とやらを睨みつけている。

 魔術師団、と言われて思い出すのは、あの女のこと。まさか、今更私の話に問題があったんだろうか。でも嘘は言っていない。ただ『老婆』ではなく『小柄な女性』と言っただけ。

 ビクビクしながら、支配人からの次の言葉を待っていると、ジロリと睨まれる。


「とにかく、急いで王都に行くしかないだろ。さっさと荷物をまとめて来い。まだこの時間だったら王都行きの乗合馬車に間に合うだろ」

「は、はい……」


 召喚状を手渡され、すぐさま自分の部屋に駆け込み、荷物を準備しながら、このまま逃げてしまおうか、と考える。一人で行くんだったら、簡単に逃げられるはず。

 そう思っていたが、それは甘い考えだってことに気付かされる。


「ちょうど王都に行く予定があるそうだからな。すみません、こいつのことをお願いしますね」

「おうよ。任せとけ」


 王都と町を往復している行商人の老人が、ニッカリと笑顔で応えていた。


                 * * *


 王都について魔術師団の建物についてみれば、トントン拍子で話が進んでいく。

 やはり、先日話をした魔術師の一人が私のことを覚えていたらしく、あの女のことを見定める証人として呼ばれたらしい。あの女が捕まったのか、と内心ほくそ笑んでいたのだが、話は違うらしい。

 どうも隣国のレヴィエスタまで逃げていたようだ。それも、ちゃっかりあちらのお貴族様に保護されたという。すぐに、あの美しい方を思い出した。と、同時に怒りが再燃する。

 私は魔術師の一人と共に、レヴィエスタの王城に行くことになった。

 さすがに自分の私服の状態では王城ではみすぼらしい、ということで、この国の王城のメイド服に着替えさせていただいた。王城勤め自体が稀な仕事だけに、メイド服を着させていただいたことでテンションがあがる。そして、人生で初めて、転移陣なるものを見て余計に興奮してしまった。

 しかし、転移自体は一瞬のことで、すぐに魔術師の後を急いでついていく。そこでは詳しい話をすることもなく、大きな部屋へと案内された。


「ヘンドリックス殿、この者は」


 四十代くらいのお貴族様が、困ったような顔で私を見る。ヘンドリックスと呼ばれた魔術師は、私が証人の一人であることをお貴族様に伝えると、少しホッとした顔をした。


「まったく、本国は何を考えているのやら……下手を打つと戦争モノですぞ」

「エンゲルス男爵……」


 ぼそぼそと私に聞こえないように話す二人を目の端に入れつつ、私は綺麗に装飾された部屋を感動しながら見回していた。

 すると、すぐに部屋のドアがノックされた。

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