第71話

 案内された応接室。先に座っていたイザーク様の隣に座って、周囲を見渡す。私たちの後から入ってきたギルドマスターが、私を見て一瞬訝しそうな顔をしたが、すぐに向かい側に座り、真剣な顔で聞いてきた。


「で、どういったご用件で」

「魔の森の外縁でオークに襲われた」

「オークですか。しかし、その程度であれば通常のクエストでもあることですし、リンドベル様がお気になさるほどでは」

「三十匹以上の集団になってでもか」

「……なんですって」


 イザーク様が淡々と襲われた状況を伝えているうちに、どんどん顔色を悪くしていくギルドマスター。


「ま、まさか……」

「今回はうちの従者たちもいたおかげで撃退できたが、まだかなりの数がいそうだったぞ」

「うっ……そうですか。それで、その、斃したオークは?」

「……従者たちに持たせている」


 うん、そういうていになるよね。私個人のアイテムボックスに全部入ってるって言っても、それを安易に誰にでも知られるのって、よくないだろうし……って、あれ? もしかして私、従者って思われた? だからギルドマスター、変な顔したのかな?

 や、やばっ。隣に座っちゃったよ。失敗した。慌てて立上ろうか迷ってたら、イザーク様は目で制した。このまま座ってろってことか。


「従者たち、ですか? あの、隣に座ってらっしゃるのは」


 だよねー。普通、疑問に思うよねー。


「身内の者だ。気にするな」


 まぁ、座っちゃったことだし、身内って扱いにしてもらったほうがいいのかもしれない。私は、ペコリと頭だけを下げる。


「は、はぁ……で、従者の方々は」

「馬を逃がして戦ったのだ。徒歩で追いかけてきている。そろそろ、着くころだろう。ところでオークは氷漬けになってる。後で解体窓口に持っていくから確認してくれ」

「こ、氷漬けですか」

「それよりも、早めに討伐隊を組織した方がいいぞ。あれは、かなり組織だって動いていた。最低でもオークジェネラル、最悪、オークキングがいてもおかしくはない」

「ま、まさか」


 ギルドマスターが顔を引きつらせたところに、ドアをノックする音が響く。


「な、なんだ」

「リンドベル様の従者だとおっしゃる方々がいらっしゃいました」

「は、入っていただけっ」

「はいっ」


 ドアを開けたところに現れたのは、あんなに走ってたのに息を荒げることなく立っているオズワルドさんとカークさん。鍛え方が違うのね。思わず、感心して見てしまう。


「イザーク様、お待たせしました」

「ああ、すまんな。先に来てしまって」

「とんでもございません。で、もう?」

「ああ、今さっき、話したところだ」


 イザーク様の言葉に頷くと、私たちの背後に立つ。上背のある二人が並んで立つと、威圧感半端ない。筋肉ムキムキの強面のギルドマスターも、若干引き気味な気がする。


「と、とりあえず、斥候をたててまずは状況を調査しないと、リンドベル様のお話だけでは判断できません。同時に、討伐隊を組織しないとですが、現在、この町にいる上位の冒険者はBランクがほとんどです。オクトまで行けば、Aランクもいるかもしれませんが……」

「悩んでいる暇はないと思うぞ」

「……わかりました。急ぎオクトのギルドにも緊急連絡をいれてみます」


 そう答えると、ギルドマスターは挨拶もそこそこに応接室を出て行ってしまった。

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