第36話

 ギルドに着いた頃には、街の中はあちこちで明かりが灯り始めていた。当然、ギルドの中も、戻って来た冒険者たちが受付や酒場で溢れてる。


「時間、間違えたな」


 もうちょっと早くか、反対に遅い方がよかったかもしれない。

 騒がしいなと思って見てみると、受付付近に見覚えのあるスキンヘッドが輝いてる。

 こんな時間に、あのお嬢様のパーティも戻ってきてるのか。私と違って、パーティで行ってたんだったら、もっと早く戻っててもおかしくないのに。

 スキンヘッドのガハハ笑いが聞こえるにつけ、トラブルの予感しかしないので、時間をずらすために、一度外に出ることにした。


 空が暗くなっても街中は明るいせいで、思いの外、人通りは多い。夕方に入ってきた乗合馬車のせいもあるのかもしれない。

 ギルド近くには、屋台みたいのがいくつか並んでいる。たぶん、クエスト上がりに立ち寄る人が多いのだろう。私も時間つぶしがてら、食べ物屋らしき屋台をひやかしながら歩く。中でも、肉の香ばしいいい匂いが漂ってくると、空腹を刺激する。宿の夕食も楽しみにしてたけど、こういう買い食いって別腹だよね。


「おじさん、これ、いくら?」


 見るからに肉肉しい感じの串焼き。焼き鳥っぽいけど、一個一個が一口サイズよりも、ちょっと大き目。飴色に艶やかな様に、ゴクリと喉を鳴らす。どんな味付けなのか、香ばしい匂いに釣られてしまった。


「ポロ鳥の串焼きは一本、銅貨三枚」

「じゃあ、一本ちょうだい」

「はいよ」


 銅貨を渡しながら、差し出された串を受け取る。その場でまずは一口。タレの味も濃いけど、肉自体に独特の味がある。でも、旨い。弾力のある肉をあむあむと咀嚼しながら、店から離れ、壁際による。最後の一個を串から引き抜いて、大事に味わっていると、目の前を随分と立派な馬車が走っていく。


 偉い人でも乗ってるのか、と思って見送っているとギルドの前でゆっくりと止まった。馬車から一人の男性が降りて来たけれど、そのままの場所で誰かを待っているようだ。

 街の人たちからの迷惑そうな視線を気にもせず、ずっと姿勢よく立ち続けてる状態って、すごいな、と思っていると、ギルドのドアが開いて、お嬢様とスキンヘッドのパーティが現れた。

 まさかの、お出迎えの馬車ですか。さすが公爵令嬢だわな。お供の冒険者にも、待ってた人にも挨拶もなしに、馬車に入っていったよ。冒険者たちも、頭を下げてるし。

 馬車はそのままギルドの前から去っていき、冒険者たちは再び、ギルドの中に入っていく。


 あれ~、もしかして中の酒場に行くのかな。とっとと出て行ってくれればいいのに、と内心忌々しく思いつつ、私は再びギルドへ向かうのであった。

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