第175話

 温かい日差しが入りこむサロンに、すでに見慣れた美男美女がテーブルを囲んでいる。いつもなら賑やかなサロンが、無音状態。いや、茶器のカチャカチャいう音は聞こえるか。

 テーブルの上には、イザーク兄様の手紙が無造作に置かれている。イザーク兄様を正座でもさせてるみたいに見えるのは、気のせいだろうか。


「……あの馬鹿は、何を考えているのか」

「考えていないから、こんな手紙を送ってきたのでしょう」


 エドワルドお父様とヘリオルド兄様が、笑顔で話してる。目は笑ってないけどね。


「あらぁ、ミーシャが義理でも娘になるんだったら、いいじゃない」

「うふふ、私も今以上に身内になれるんだったら、嬉しいわ」


 アリス母様とジーナ姉様は、余裕の笑みです。最近はクエストでいないことも多いパメラ姉様とニコラス兄様は、ニヤニヤしてる。

 まさかの勢ぞろいですよ。イザーク兄様以外。


「……そりゃぁね。ミーシャが娘になってくれたら嬉しいがね」


 エドワルドお父様がティーカップを手にしながら、空を見つめてる。何か考えてるんだろうけれど、怖いよ、顔が。


「今は時期尚早でしょう。特に……偽聖女様がね」

「偽聖女って……アイリス様でしたっけ?」

「そんな名前だったかねぇ」


 ……ヘリオルド兄様も怖い。兄様、何か見えてるの? じーっと前だけ見つめてる。正面には誰もいないのに。

 二人のご機嫌がよろしくないのが伝わってきて、ちょっと身体がぷるぷるしちゃうよ。


「たいした実力も無しに、未だに『聖女』を名乗りおって」

「カリス公爵も、わかってて使ってるんでしょうけれどね」

「はっ、あのお方が騙されてたとしたら、大笑いだがな」


 サロンの空気がどんどん下がってる気がするよぉ……。


「もう、あなたもヘリオルドも、落ち着きなさいって」


 アリス母様の宥める声に、二人ともが同時に鼻を鳴らす。変なところ、親子だなって思って笑っちゃいそうになる。


「イザーク兄さんも、追い詰められたのかねぇ? 昨日、なんかあったんでしょ?」

「あ、はい。なんとか伯爵だか男爵だかのお嬢さんとか言う人が、突撃してきて……」

「ミーシャ、その言い方だと、そのご令嬢が可哀相だよ」


 ニコラス兄様がクスクス笑う。


「フフフ。お父様たちの気持ちもわからないでもないけどね」


 苦笑いしたパメラ姉様から、今の王都の話を聞いた。

 どうも、あちらには学生時代の仲良しの令嬢というのが数人いるらしく、社交界の情報が逐一入って来るとか。特に、すでに結婚している方々からの情報が赤裸々過ぎて、凄いらしい。




 ……女性の口コミ情報、世界が変わっても、おんなじなのね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る