第174話

 とりあえず、この手紙の意味を知るためにも、イザーク兄様に確認をとるべきだろう。

 しかし、今、この時間に兄様がどこにいるかわからない。とにかく、イザーク兄様の居所を確認する為に手紙を送ると、同時に、エドワルドお父様たちにも確認だ。


 調薬の後片付けをしている間には兄様からの返事がこなかったので、そのまま領都の屋敷へ飛んだ。屋敷の自分の部屋から出てみるが、いつも通りに静かな様子。イザーク兄様から、なんの連絡も来ていないのかしら。

 お昼前のこの時間なら、ヘリオルド兄様だったら執務室、エドワルドお父様は、練兵場だろうか。私は一番近い、執務室へと足早に向かう。通りすがりに何人かのメイドさんたちとすれ違うけれど、にこやかに挨拶をされて、これといって慌ただしい感じでもない。

 うーん。王都で何か起きてるってことだろうか。

 私は執務室のドアをノックした。


『入れ』


 兄様の普段と違う仕事モードの声に、ちょっとだけビクッとする。


「あの、ヘリオルド兄様?」


 ドアの隙間から顔を覗かせる。執務用のデスクに座る兄様が、私の声に驚いたのか、急に顔をあげてびっくりした顔をしている。


「ミーシャ!? この時間に珍しいな」


 嬉しそうな顔の兄様に、ちょっとだけホッとする。中にはセバスチャンさんも一緒に書類の整理をしているようだ。


「今、お話できます?」

「ああ、いいぞ。中に入りなさい」


 素直に中に入って、ソファに座る。どこからかメイドさんが紅茶を出してくれた。私はそれを飲むことで、少し落ち着くことが出来たと思う。ふと目をあげると、ヘリオルド兄様が目の前に座っていた。


「さて、どうしたんだい? いつもなら店にいる時間じゃないかい?」


 そう言われて、ハッとする。そうだった。まぁ、予約だとかそういうのはないから、開いてなければ、また来てくれる……よね? たぶん。

 それよりも、なのだ。


「あの、ヘリオルド兄様には、イザーク兄様から何か連絡来てませんか?」

「うん? ああ、昨夜、ヴェルヌス伯爵のお嬢さんが突撃してきた、という報告ならギルバートのほうから来ているが。そうだったな? セバスチャン」

「はい。すぐに詳しい調査をするように指示はしましたが」

「あ、うん、そっか。うーん、じゃぁ、兄様にはまだ相談とかしてないのか」

「どうかしたのかい?」


 ヘリオルド兄様が心配そうな顔で聞いてくる。

 ここで、イザーク兄様の手紙を見せていいんだろうか。なんか、もめ事になったりしない? とも思ったんだけど。でも、このままじゃ、埒が明かないよなぁ、とも思うわけで。


「あのですね。実は今朝なんですけど……イザーク兄様から届いて……」


 私は、手紙をテーブルの上に置く。


「見てもいいのかい?」

「……はい」


 兄様は手紙を受け取り、中を見ると……固まってしまった。


「えと、兄様?」

「……ヘリオルド様、大丈夫ですか」


 私とセバスチャンさんの声で、ハッと我に返る兄様。と、同時に顔が怖いことになっている。あ、ヤバイ。これ、イザーク兄様、殺されるわ。


「……セバスチャン、父上たちにサロンの方に来ていただけるように声をかけてくれるか」

「……かしこまりました」


 う、もしかして、私、余計なことしちゃったかしら。

 私は背中に冷や汗をかきながらも、ちびちびと紅茶を飲み続けるのであった。

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