第359話

 私たちは、オムダル王国の王都から少し離れた森の入口に立っている。距離があるせいか、ここから見る王都は、随分と小さく見える。少し先には、王都へ向かう大きな街道があるのか、馬車が数台、走っている。

 なぜ、王都の中じゃないのか、というと、ハロイ教の調査のためにオムダル王国内にいるカークさんと合流するためだ。なんとカークさん、王都ではなく、隣の公爵領にいるのだとかで、急ぎ、王都に向かってくれているらしい。


「なーんか、いやぁな感じがするんだけど」


 王都を見ていて思わず、顔をしかめたくなる。

 王都の全体が、なにやら、薄っすらと灰色の靄がかかっているようにみえるのだ。特に一番背の高い建物……おそらく王城と思われる……のてっぺんには、まるで富士山の上にかかった傘雲みたいに厚い雲のようなものがかかっている。高いって言ったって、せいぜい十階建てのビルくらいだろう。その高さで雲がかかるとは思えない。もう、怪しさ満点だ。見ているだけで、なんというか、気持ち悪い感じ。


「ねぇ、イザーク兄様、あの城の上の雲って、見える?」

「うん? 雲?」


 もしかして、この世界の季節的なもので、そういうこともあるかな、とか思って聞いてみたんだけど。


「あれ、見えるよね」


 指さして見るけれど、イザーク兄様には見えない模様。


「……オズワルド、お前には、見えるか?」


 今回は、護衛も兼ねて、オズワルドさんも同行している。これでカークさんと合流したら、最初に出会った頃を思い出しそうだな、とちょっと思う。


「いえ……私には特に異常は見られませんが」


 オズワルドさんも目を眇めて見ているけれど、彼にも見えないみたいだ。


「えぇぇ。私には王都自体も靄がかかって見えるんだけど、それも二人には見えてないの?」

「靄?」

「いや、普通に問題なさそうだけど」


 思わず、むーっと腕を組んで見ていると。


『美佐江、あれは瘴気の靄だろう』


 風の精霊王様が、不機嫌そうにそう答えた。


「え、瘴気?」

『魔物が生まれるには、魔素の影響が大きいというのは覚えているな?』

「ええ」

『今見えているアレは、その魔素の一歩手前のものだ。あれがもっと濃く、人の目で黒く目視できるようになったら……その場にいる生き物は全て魔物に変わる』


 な、なんですと!?

 思わず、あんぐりと口を開けて、驚く私。イザーク兄様たちも、驚きで固まっている。


「なんで、そんなものが王都に?」

『知らん、しかし、ハロイ教の教団本部に、前から物騒な存在がいたのは知っていたがな』

「ぶ、物騒って……」

『そのモノの名前は知らん……我ら精霊とは相反する存在としか言えん』


 何よそれ。精霊の対になるものって、何?

 もしかして、悪霊とか、そういう類のモノだったり? 

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