第76話
エイミーさんに呼ばれたギルマスは、マイクの話に言葉もなく立ち尽くしている。
おいっ! ぼーっとしてる場合じゃないだろっ! と、私なら怒鳴ってるけど、そこは大人しくしておく。イザーク様がいるしね。
二つのパーティのうち、マイクの所属している『疾風の刃』(名前だけはカッコいい)は魔の森の外で待機していて、もう一つの方は森の中で偵察しているらしい。動きがあり次第、『疾風の刃』が逐一、連絡に走るとか。なんでも、逃げ足だけには定評があるらしい。それって、評価としてはどうなの? と思わないでもない。
「伝達の魔法陣を使えば、楽なんじゃないの?」
思わず言葉にする私。だって、魔術師というわけでもないイザーク様だって使えてるんだし。普通にそう思うんだが、イザーク様が苦笑いしながら教えてくれた。
「あれは、王都にある魔術師学校、もしくは騎士学校のような専門的な学校で、基礎魔術の魔法陣について学ばないと、使えないんだ」
「何それ」
思わず言葉にしてしまう。もしかして、私も使えないってこと? 慌てて、ナビゲーションを開いて確認する。おう……やっぱり無いわ。今まで、連絡したい相手とかいなかったから、考えもしなかった。目の前でやってるの見ても、スゴイって感心するだけだった自分に、お馬鹿だったと思ってしまう。
「……後で、詳しく教えてください」
「ああ、わかった」
予想では、斥候で行ってる人たちは、地元の叩き上げってことなんだろう。その学校っていうのも、簡単には行けないのかもしれない。
マイクはその中でも一番足が早いってことで任されたらしい。二番手の走者が来る前に、オクトのギルドに救援要請出さなきゃダメじゃん。
「おい、いつまでボケッとしてるんだ。さっさと、オクトに連絡を入れろ」
冷ややかなイザーク様の声に、慌てるギルマス。う~ん、様にならないな。他の冒険者も呆れてる。ギルマスの姿が見えなくなったとたん、ザワザワとあちこちで声があがる。
「しかし、今からオクトに連絡を入れたところで、移動に三日はかかるぞ」
「だいたい、オークがこっちに来るとは限らないんじゃ」
「下手にちょっかい出さない方がいいんじゃ」
聞こえてきたのは、後ろ向きな発言。そりゃね、自分たちに力がないって自覚してるってことなんだろうけど、そういう問題じゃない。
「そんなことを言っているうちに、オークが大群になって襲ってくるぞ」
イザーク様の冷ややかな声に、室内は無言になり、空気もどんよりする。
どうしたものか、と考えていると、突然、バーンッという大きな音と共に出入り口のドアが勢いよく開いた。
「うちの孫は、どこだっ!」
怒鳴り声と共に現れたのは、私と同世代くらいのおっさん冒険者だった。
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