祖父母は孫(?)に会いに行く(2)

 その後、長男の話を聞いてみると。

 

 曰く、アルム神様により転生するはずだったのがシャトルワースの者により転移させられてしまったこと。

 曰く、城に囚われていたのを一人で脱出したようだ、ということ。

 曰く、イザークが今、まさに彼女を追ってくれているとのこと。


 半信半疑で話を聞いていると、ベッドの脇のサイドテーブルから、ジーナが嬉しそうに小さな手鏡を取り出し、その鏡を見て「まぁっ!」と驚きの声をあげた。

 何事かと思うと、彼女が私たちに鏡の面を見せる。

 それはただの手鏡ではなかった。

 鏡の中には、私自身の顔ではなく、小柄な少年がなぜかイザークとともに話をしている様子が映し出されている。まさか、トーラス帝国の国宝、『遠見の鏡』!?


「追いついたようだな」

「よかった……これで、少しは安心ね」


 二人の嬉しそうな顔と、手鏡に映し出されている少年の姿に困惑する。


「おい、これはどういうことだ」

「アルム神様から賜った物ですわ」


 手鏡を抱きしめながら微笑むジーナ。

 彼女の言葉に、私も妻のアリスもどう答えていいのかわからず、言葉にならない。


「あなた、イザークの顔、ご覧になった?」

「ああ、まさか、あいつがこんな顔をするとはな」

「フフフ、もしかしたら、もしかするのかしら?」


 二人は楽し気に話しているが、相手は少年ではないのか? まさか、あいつ、そっちの気が、などと考えて難しい顔で二人を見つめていると、ジーナはおかしそうにクスクスと笑う。


「お義父様、こう見えて、ちゃんと女の子なんですよ」

「なんだと」

「髪が短いのは痛々しいですが、彼女はれっきとした女性なんですよ」


 息子たちの言葉に、唖然とすると同時に、年端も行かない女の子供の髪を、このように短く切った者に怒りを覚えた。


「ああ、早く会いたいわ」


 目に涙を浮かべながら、鏡を見つめ、撫でるジーナ。そんな彼女を大事に肩を抱く息子の姿に、私とアリスは目を合わせると大きく頷いた。


「では、我々もその娘を迎えに行こうではないか」

「そうね、私も直接、孫の顔を見たいしね」

「お、お義母様」

「ま、待ってください。まずはイザークからの連絡を貰わねば、どこに向かっているのかわかりませんから」

「ああ、そうかっ、アハハハハ」


 呆れたような息子に、思わず笑いが出る。


「なぁに、大丈夫だ。ジーナ。イザークだけではない、リンドベル家全員で、あの子を守るからな」


 ジーナの言葉を全て信じられたわけではない。しかし、目の前で見せられたあの鏡、そして、それによって生きる気力を持ったジーナの様子を見れば、自然と我々がすべきことは見えてくる。

 私たちは翌朝、イザークからの伝達の青い鳥からもたらされた情報にともない、向かう先が決まった。


 ―――オムダル王国。


 末の双子たちも、警護依頼を受けて向かっていたはず。我々の都合のいいように進むことに、アルム神様の思惑を邪推してしまう。それでも。


「アルム神様のご加護がありますように」


 私たち夫婦は、真っ青な空に向かい祈った。

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