第178話
イザーク兄様の言葉に、皆、無言になる。
「……あちらから、何か連絡がきてますか? エドワルドお父様」
最初にまともになったのは、私。意外にみんなのほうがショックが強かったみたい。私もびっくりだけどさ。
「い、いや。正式な申し出などは、まだ来ていないが」
「これって、召喚状みたいなのが出たら、行かないと駄目?」
「……そうだな。国王からの命令とあらば、断るわけにはいかない」
「婚約も、ですか?」
「……それは、どうだろうね」
そう答えたのはヘリオルド兄様。難しい顔をしながら、腕をくんで考え込んでいる。
「一応、王家の中ではミーシャは『聖女』として認識はされているけれど、他の貴族たちは、と言うと微妙なのだよ。この前のカリス公爵の連れてきた娘のこともあって、教会で認められた、という言葉の方が強いんだよ」
私としては、そんなん認められなくてもいいと思ってたし、求められれば、私でよければ聖女の力、みたいなのが発揮したっていいと思ってはいた。実際、この前の謁見では、その場に来ていた貴族たちの前で見せつけたわけだし?
一応、エドワルドお父様たちも、念のためにと帝国にある教会本部にいらっしゃる教皇様に手紙を送ってはいるらしいけれど、なにぶん、配達に時間がかかる。
伝達の魔法陣は、互いに知り合いでないと送れないからねぇ。それに内容が内容だ。ちゃんとした書面でお伝えしないと、駄目ってことなのだろう。
「その、リシャール様でしたっけ? なんで急に婚約とかいう話になったんですかね」
イザーク兄様に目を向けるけど、兄様もわかってなかったみたい。
「もう。ちゃんと調べてから、行動起こしましょう? イザーク兄様?」
「あ、うん」
しょぼんとする大型犬に、ちょっとだけ和む。他の面々も、なんだか苦笑いしてるし。
「まぁ、お前も焦ったんだろう、リシャール様は、ミーシャと年齢も近いしな」
「は? 全然、近くないですよ!? エドワルドお父様。忘れてません? 私の実年齢」
「あ、いや、そ、そういえば、そうだったな」
私が身を乗り出して注意すると、エドワルドお父様が身を反らして、逃げ腰になる。
「もうっ。リシャール様じゃ、息子みたいなものじゃないですかっ」
「いや、並んで立つ分には、十分お似合いだと思うんだが」
ヘリオルド兄様の言葉に、部屋の中の空気が一気に下がる。アリス母様とジーナ姉様、パメラ姉様の凍てつく視線に、ヘリオルド兄様が固まる。
「ヘリオルド」
「あなた」
「兄上」
三人が立上り、兄様に詰め寄る様は……兄様でなくてよかった、と素直に思うくらい、怖かった。
「だからっ!」
突然、イザーク兄様が声をあげた。
「だから……私が名乗りをあげたのです……私であれば……まだ、許されるのではないかと……」
顔を真っ赤にして、そう言ったイザーク兄様に、ちょっとだけ胸がキュンとしたのは、内緒だ。
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