第330話
部屋の中に入ってみれば、壁一面に手書きの魔物の絵と、それの説明が書かれた紙が貼りだされていた。
今までの冒険者ギルドでは、こんなの見たことがない。せいぜい、文字としての情報がまとめられた本が一冊置いてあるくらい。分厚くて、重くて、手にしただけで諦めそうになった。そのせいもあって、私はほとんど見たことはなかったけど。なにせ、双子たちが生きる魔物事典だったから。
しかし、この大陸には私と兄様しかいないし、この大陸特有の魔物とかがいても、わからない。これは、かなり貴重な情報だ。
「す、スゴイね」
「ここまで丁寧な絵は、初めて見たな……」
イザーク兄様も驚きを隠せないようだ。
私にしてみると、あちらの世界で見た写実的な線画と同程度か、それより若干劣るくらい。それでも、こちらの世界のものにしては、十分、素晴らしい絵ではあるのだ。
「見事だろ?」
呆然と見ていた私たちに、売店のところにいた人族の若者が、得意げに声をかけてきた。
「これ、あなたが描いたの?」
「ち、違う、違うっ」
随分と自慢げに言うから、そう聞けば、慌てて全否定してきた。
どうも、かなり昔、このギルドに所属していた冒険者の一人が描き残してくれたものらしい。だいぶ前のことで、情報としては古いが、魔物の種類としては、変わっていないのだとか。大陸を渡ってくる冒険者たちのために、と貼りだしてくれているらしい。
ここまでの情報を貼りだしているのは、ここのギルドだけだとかで、このギルド所属の若者はかなり得意げだ。確かに、これだけの代物、自慢したい気持ちもわからないでもない。
「これ、複製することとか出来ないの?」
「複製?」
「あー、模写する人とかいなかったのかなって。せっかくだったら、各地のギルドにもあったら便利だろうなって」
そう。せっかくだったら、あちらの大陸でも利用できればいいのにって思うのだ。
だって、よくよく見れば、似たような魔物の情報が多い。こういうの、初心者には助かると思う。
「うーん、他でも見ないのは模写をしようっていうヤツがいなかったからだろう。ま、ここまでのは、なかなか出来ないだろうしな」
確かに。
私もやろうとしても、諦めそうなくらい上手いのだ。残念。画才がないっていうのは、こういう時、悔しい。
「最新の出没情報とかは、掲示板を見るといいぞ、お嬢ちゃん」
「……ありがとう」
見た目が若くなっている自覚はあるんだけれど、自分の息子くらいの子に『お嬢ちゃん』と言われると、苦笑いになる。
一応、こちらに来て二年目くらいになる。
それなりに背も伸びている(約二センチくらい)。そう、ちゃんと成長しているのだ。それでも、こちらの世界の人々に比べると小柄なせいか、子供に見られてしまう。
そんな私の気持ちがわかってるのか、イザーク兄様が生温い眼差しを向けながら、頭を撫でてくる。
――ちょっと、おばちゃんの頭、撫でないで。
と、内心ムッとしながら思ってしまったのは、秘密だ。
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