ヘルモード ~やり込み好きのゲーマーは廃設定の異世界で無双する~

ハム男

第1章 開拓村農奴編

第01話 プロローグ

 男の名は山田健一。35歳のサラリーマンだ。独身である。


「終わったがな、たった3年でサービス終了とか」


 男は1人、1K8畳の部屋で呟いた。今は土曜日の真昼間だ。外に出かけることなくパソコンの画面を見て嘆いている。


 パソコンの画面にはファンタジーな城の風景とともに、右下には「FIN」とおしゃれに表示されている。オンラインゲームなのか、お疲れさまでしたとゲームのキャラたちがお別れのしぐさをしている。


「いや、まあこれもヌルゲーだったな。ヌルヌルのヌルだ。終わってよかったかもな。時間やお金の犠牲も少なくて済んだと思えばな」


 これまでにボーナスや給与をガチャやら課金アイテムにつぎ込んできたが、サービス終了に悲しみは感じていないようだ。


 3年前に始めたネットゲームであったが、設定も攻略も易しすぎて不満であった。不満に思いながらもいつかバージョンアップしてやり込み要素を追加してくれると信じて続けてきた。


 だがユーザー数が増えなかったのか、ゲーム配信会社はサービス終了を決定したのだ。


「お? 何々、新しいサービスを開始しますって?」


 ゲームを終了させ、ゲームの配信会社のホーム画面を見る。

 そこには、新たに始まるゲームのリンクがあった。リンクの先は新しいゲームの紹介ページのようだったので、クリックする。


「何々、え…」


 健一は驚愕する。そこには彼を絶望させるような文言が並んでいた。


・ログアウトしている間にも勝手にレベルアップ!

・職業は簡単にリセットできるよ!

・戦闘は勝手にAIがやってくれるよ!!

・今ならレジェンドアイテムが必ず出るガチャが3回引けるよ!!


「絶望的にヌルゲーだ。これではヌルゲーではなく、もはや放置ゲーだ。いつからこうなった…」


 男は両手で顔を覆い、古き良き時代のゲームを思い出す。それは20年前初めてネットゲームに触れた時のことだった。

 

 レベルアップにも四苦八苦し、1つレベルを上げるのにも1か月かかることは当たり前だった。半年かけて上級職にクラスチェンジしたときの感動を今でも覚えている。

 死ぬとデスペナルティーがあり、装備は床に落ち、経験値は20%も失う。

 ボスのHPは信じられないくらい高く、50人のレイド戦でも1時間以上殴らないと死なない。3時間かけたこともある。連射に耐えかねて、よく壊れるので予備のキーボード常備は必須だ。

 しかも、必死に倒しても落とすアイテムは1個だけ。そのあと50人による殺し合いが始まる。


 何百時間どころか、何万時間もかけて熱中したネットゲームも10年以上前にサービスは終了した。

 

 あのころの感動を求めて、いくつものゲームをやってきた。


 しかし、時代は変わった。人は求めてもいない、やり込み要素を嫌い始めたのだ。大手も新規のゲーム配信会社もヌルゲーにシフトしていった。

 レベルはサクサク上がり、武器も防具もスキルも簡単に手に入るようになっていった。


「他のゲームを探すか」


 今やっているゲームの配信会社に見切りをつけ、やり込み要素の高いゲームをネットで探す。

 検索バーに「ゲーム 廃設定 やり込み」と入力し、求めるゲームを探す。

 すると、配信会社の表示もなく、ゲームタイトルもないサイトが検索結果の最も上位に表示されたのである。

 

「お!? 何々、終わらないゲームにあなたを招待しますって?」


 終わらないゲーム、遊びつくせないゲームなど好奇心をくすぐる文言が画面に溢れている。


「なるほど、西洋風の剣と魔法のファンタジーな世界か。とりあえずやってみるか、えっと、設定はこのサイトの画面で直接やるのか」


 健一は興味がわいたのかとりあえずやってみることにした。

 ゲームはダウンロード形式ではなく、サイト内で各種設定をするようなので、設定画面に移動する。

 

「まずは難易度、イージーモードからあるぞ。ノーマル、エクストラ、ヘルと。イージーモードなんて甘えだろう」


 どうやら、ゲームの難易度はユーザーが設定できるようだ。難易度による相違点の説明もしっかりある。


・イージーモード

 ノーマルモードの10倍の速度でスキルの入手、スキルの成長が可能である。

 エクストラスキルを3つまでガチャで引くことができます。

 ゲーム初心者の方、レベル上げなんて嫌いだよという方に大人気のモードです。


・ノーマルモード

 通常モードです。

 エクストラスキルを1つまでガチャで引くことができます。

 一番人気のモードでそれなりに育成することができます。

 どのモードにするか迷った場合はこのモードを選択しましょう。


・エクストラモード

 スキルの入手、スキルの成長がノーマルモードの10倍かかります。

 しかし、ノーマルモードでは到達できない域まで育成が可能となっています。

 通常スキルを1つガチャで引くことができます。

 ゲームに慣れた人、ノーマルモードでは易しすぎて不満のある玄人の方に最適なモードです。


・ヘルモード

 レベルアップ、スキルの入手、スキルの成長がノーマルモードの100倍かかります。

 成長限界はありません。ガチャは引けませんので、職業で選択したスキルのみ初期に入手することが可能です。後悔先に立たず。絶望があなたの前に現れることでしょう。

 もし絶望を越えることができたなら、あなたはきっと1つの真理を発見できること間違いなしです。作成スタッフの遊び心で作ったモードです。


 ノーマルモード、エクストラモード、ヘルモードと設定の難易度を上げていくと、スキルは入手しづらく、レベルも上がりにくくなっていく。

 しかし、成長限界が緩和されどんどん上昇していく設定になっているようだ。


「ヘルモードと。職業を選べるのか」


 ヘルモードを迷わず選択する。

 次に職業の選択画面に切り替わる。ゲームでよく見た職業がある。

 剣士、格闘家、盗賊、商人、魔法使い、賢者、剣聖、聖女、大魔導士と選択式になっている。

 この職業も難易度があるようだ。職業をクリックすると難易度の表示が現れる。


「職業は結構多いな。これも下の職業にいくほど、育成の難易度設定が高くなっているぞ。勇者や魔王まであるのか」


 より下に書かれた職業のほうが、レアで強い設定のようである。そして職業の扱いやすさが難度となって星印で表示されている。

 剣士や格闘家の難易度は星1つとある。

 剣聖や大魔導士は星3つのようだ。

 勇者や魔王は難易度が星5つもある。


「なんだ? 剣士と剣聖だと剣聖のほうがいい気がするが、なぜ選ばせるんだ?」


 剣士の上位版が剣聖と当然考えられる。なら誰でも剣聖を選ぶだろう。

 とりあえず、剣士を選択してみて確認をする。選択すると画面が変わり、次に階級の選択になる。


「平民、男爵、伯爵。なるほど階級はガチャで決まるのか。国王まであるぞ。剣聖でも同じか?」


 異世界ものの小説に出てきそうな階級が選択できるようになっている。

 健一は異世界ものの小説をいくつも読んだりしていたので、すんなりと階級が理解できる。

 やり直しボタンで職業選択の画面に戻り、剣聖を選び直す。


「農奴、平民、男爵しか選択できないぞ。なるほど、強い職業を選べば育成が難しくなっていき、階級も低くなっていくのか」


 勇者を選択してみると農奴と平民からガチャによる確率で決まるようだ。

 ガチャの確率も表示されており、運で階級は決まる。強い職業ほど低い階級になりやすいようだ。

 高い能力に成長できる職業ほど低い階級からのスタートになるということが理解できた。


「どれにしてみるかな。剣士も魔法使いもやってきたしな。今回はヒーラーに挑戦するかな。そういえば魔王はやったことないな。農奴で魔王ってなんか面白そうだな、ん? まだ職業があるぞ」


 どれを選択しようか迷いながら、一番下の選択肢だと思っていた魔王を選ぼうとすると、さらなる職業の選択肢があることに気付くのである。


「召喚士? 召喚士は魔王より難しいってことか?」


 職業選択の一番下は召喚士であった。召喚士の難易度は星8つと表示されている。

 とりあえず、召喚士を選択すると、階級は農奴しか選択肢がないようだ。


「召喚士か。あまりやったことないけど神龍とか召喚出来たらカッコいいだろうな」


 男は数々のゲームをやってきた。ネットゲームだけではなく、家庭用のソフトゲームも数多にやってきたのである。国民的に人気のあるゲームの中で、召喚士がギリシャ神話に出てきそうな召喚獣を召喚していたことを思い出す。


「よし、召喚士だ、階級は農奴っと。選択はこれで全部か?」


 モードは『ヘルモード』、職業は『召喚士』、階級は『農奴』を選択したが、これ以上の選択はないようだ。

 見た目とか、性別の選択はないのかなと思い画面の隅々までみるが、1つのクリックボタンしか見あたらない。

 開始しますか?という大きなクリックボタンだけが画面に表示されている。クリックするとメッセージが表示される。


『召喚士はまだ、試験運用が終わっておらず、ユーザーがいません。それでも開始しますか?はい/いいえ』


「あ? テストはまだってことか? じゃあなんで選択できるんだよ。でも逆に面白いな。なるほど俺がテストしてやるよ!」


 健一はためらわず『はい』を選択する。画面が光り、1K8畳の部屋から誰もいなくなる。

 現実世界から山田健一はいなくなってしまったのだ。





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ヘルモードをご覧いただきありがとうございます。

とても長い小説になっておりますので、フォローしてご覧いただけると幸いです。

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