第521話 羅神くじ①

 アレンは亜神級の霊獣を倒して手に入れた霊晶石をさらに2つ魔導具袋から取り出した。


(精霊の園と原獣の園に行かないといけないからな)


 アレンの仲間には精霊の園に縁のあるソフィーやルーク、獣神ガルムに縁のあるシアなど、しっかりと神の加護をもらい、もっと強くなってもらわないといけない者がいる。


 待たされた10日ほどの間、アレンは亜神級の霊獣を狩り進めた。

 このシャンダール天空国にはアレンたちが戦った霊獣ネスティラドのいる霊障の吹き溜まり以外にも吹き溜まりがいくつかある。

 中には、神界人も近くにおらず、竜人たちも管理ができていない吹き溜まりもある。

 吹き溜まりは絶えず増え続けているらしい。


 ただし、ネスティラドと同様の亜神級を超える神級の霊獣はいなかった。

 メルスの話でも神級になるほどの存在で、霊獣に道を踏み外す者はほとんどいないらしい。


 待っている間にこれだけ転職ポイントが手に入るならとレベルアップと仲間たちの転職を目的に霊獣を狩り始めた。

 最初に倒した霊獣ダニエスとは別に、倒した亜神級の霊獣は7体、大天使級の霊獣は21体に上る。

 その結果、94ポイントを消費して、仲間やアレン軍にいて魔法具を作るカサゴマや魔法技師団のララッパ団長を転職させた。


【転職した仲間(消費転職ポイント)】

・セシル(10):魔導王★★★★⇒魔導帝★★★★★

・キール(10):聖王★★★★⇒聖帝★★★★★

・ソフィー(10):大精霊使い★★★★⇒精霊師★★★★★

・フォルマール(10):弓王★★★★⇒弓帝★★★★★

・メルル(10):魔岩王★★★★⇒魔岩帝★★★★★

・ルーク(3):呪霊使い★★★⇒呪霊童子★★★★

・ロザリナ(10):歌王★★★★⇒歌帝★★★★★

・イグノマス(10):槍王★★★★⇒槍帝★★★★★

・ペロムス(1):商豪★★⇒大商人★★★

・カサゴマ(10):魔法匠★★★★⇒魔法極★★★★★

・ララッパ(10):魔技匠★★★★⇒魔技極★★★★★


 なお、半月前に転職したルークはかなり早いペースでの転職となった。


 また亜神級の霊獣を狩りまくって、ディグラグニとファーブルとハクの信仰値が100億貯まった。

 ディグラグニとファーブルは亜神から神に至り、ハクは変化がなかった。

 信仰値以外に足りないものがあるのかもしれない。

 神に至ったことを、ディグラグニはバウキス帝国に、ファーブルはダークエルフの里ファブラーゼに伝えてある。


(亜神のレベルアップの幅がケチり始めた件について)


 アレンのレベルは140から185に上がった。

 この圧倒的なレベルアップがネスティラドに挑戦した理由なのだが、それでも多少戦いになる程度にしかならない。

 野良ボス認定のネスティラドはとんでもなく強い。


 1つ問題があり、レベルが150を超えたあたりから、亜神級の霊獣を倒してもレベルアップの数値が減ってしまった。

 大天使級に限っては、貰えるのが経験値になってしまった。

 転職ポイントは変わらず貰えるのだが、霊獣を無限に狩ってもレベルが際限なく上がるわけではないようだ。


【討伐時の転職ポイント】

・大天使級の霊獣1体当たり3ポイント

・亜神級の霊獣1体当たり10ポイント


【アレンのレベル150以下の場合のレベルアップ数値】

・大天使級の霊獣1体当たりレベル1アップ

・亜神級の霊獣1体当たりレベル10アップ


【アレンのレベル150を超える場合の経験値等】

・大天使級の霊獣1体当たり経験値100億

・亜神級の霊獣1体当たりレベル5アップ


「ほ、ほう。まだ霊晶石を持っておったのか」


「ご報告が遅れて申し訳ありません。神界で行きたい場所があったため別途用意しました」


 丁寧な口調と態度で跪くアレンは、わざわざ持ち札の全ては晒さないぞという意味を含ませた。

 商人ペロムスの商売許可は、短期間に資金を集めるためにどうしても必要で優先事項として高くなった。


(願いの全てを語るにも、霊晶石を全て出すわけにはいかないな)


 天空王は、霊晶石を材料に交渉をしてこようとするアレンの考えが良く分かったようだ。


「これは、ルプト様より聞いていた以上だな」


「さ、左様でございますね。これほどとは」


 天空王は隣にいる宰相らしき者に話を振る。


「これほどでございますか?」


 アレンは疑問のある口調で2人の話に入ろうとする。

 どうやら、予想された展開のようだ。


「アレンよ。第一天使ルプト様より、承った言葉を伝える。心して聞くがよい」


「はは!」


 天空王はアレン宛ての伝言を、創造神エルメアの第一天使にして、メルスの双子の妹のルプトから預かっていたようだ。

 頭を下げて黙って聞くことにする。


「『神界を目指すアレンよ。神々の神域に入りたいのであれば、霊獣を倒し、羅神くじを引くがよい』とのことだ」


(それだけ。らしんくじだと?)


「は、はあ」


 聞いてみたがよく分からなかった。

 もう少し詳細の説明が欲しいと頭を少し上げる。


「そうだな。理解できないだろうな。持ってくるがよい」


「は!」


 アレンたちが入ってきた後方の扉が開かれ、台車に乗せた大の大人がやっと抱えられるような大きな樽のようなものが入ってくる。


 跪くアレンたちと天空王の間に台車に乗せた小樽が運ばれてきた。

 何だろうと皆、頭を上げ、小樽を見つめる。


「私から説明をする。これはルプト様の指示で作った羅神くじが入った樽だ。霊晶石と交換でくじを引くことができる」


 何の話だと思うが黙って宰相と思われる者の話をよく聞くことにする。


 宰相の話ではこの神界には様々な神々がいる。

 その神全ての神域に入る許可がくじで引いて決めることができる。

 引いたくじを船に取り付けると、引いたくじの神域を指し示す「羅針」になるという。


(羅針と羅神を掛けているのか。えっと、たしか、シャンダール天空国も巨大な国に見えて、神界全体の1%未満なんだっけか)


 北アメリカ大陸程の広大な国に見えて、シャンダール天空国は神界全域に比べたらそれほど広くはない。


 メルスから聞いた話も総合して、アレンは宰相の話を理解する。


 この神界には、「園(その)」と呼ばれる巨大な大陸であったり、「庭」といったそこそこの大きさの大陸、大小の「島」、さらに大小の神殿が点在している。


 そこには1柱、または複数の神々が存在し、神域と成している。

 

 宰相の話では船は貸すが、伺いたい神域の神の名が刻まれた「羅神」を手にし、船の「羅神盤」に装着し道を指し示す必要があると言う。


(もしかして、謁見まで10日以上かかった理由がこれか。ルプトの命令でこんなものを作っていたのか。たしか、神って200柱以上いたような)


「その樽には全ての神の名が刻まれていると言うことでしょうか?」


「そうだ。創造神エルメア様も、闘神3姉妹様方、武具8神様方のお名前も刻まれておる。亜神級の霊晶石1つで1回くじが引ける」


【小樽に入った羅神くじの種類】

・創造神エルメア1本

・上位神9本(獣神ガルム、大精霊神、闘神3姉妹など)

・神245本(四大属性神、武具8神のうち剣神を除く7神など)


(うは! 縁がないからどうやって入ろうと思っていた神々のところにも行けると!!)


 神界には精霊の園や原獣の園以外にも行きたい場所がいくつかあった。

 それが、戦神、武神、剣神の3柱の上位神であったり、上位神である剣神がまとめる槍神や斧神といった武具8神の方々だ。

 魔王と戦う上で、是非会って強化したいと考えている。


「ちなみに、神域にいらっしゃる複数の神全て引き当てる必要があると言うことでしょうか?」


「そういうわけではない。その中の1つの柱の羅神を引けば、船は神域に入ることができる。だが、その中で全ての神々に会えるかは、神域におわす神様次第ということになる」


 ルプトから詳しく聞かれるぞと言われているのか、宰相は丁寧に教えてくれる。


「では、3回くじが引けると」


「何を言っておる。さきほど、ペロムスとやらの商売を認めたではないか」


(ぐぬ、そこはまけてくれないのか。おっと、引く前に大事なことがあったな)


「ちなみに引いて出たくじは樽の中に戻さない、ということでよろしいのでしょうか」


 くじは引いたら戻すのか、戻さないのかで求める確率は数がとんでもないことになる。


「ぬ? それは、どうであったかな」


(何だ、決めていないのか)


 宰相はポケットからメモ紙のような物を出すが、そのようなことは書かれていない。

 宰相は天空王にどうしようか伺いの視線を送った。


「まあ、良いではないか。たくさんの神々がいらっしゃる。くじは引いたら戻さないでいこうではないか」


 引いたくじを戻すのかどうかは大事な事のように思えるが、天空王にある程度の裁量権は与えられているようだ。


【羅神くじの概要】

・全部で255本のくじの中から1つの羅神を引くことができる

・くじの内訳は、創造神1本、上位神9本、神245本

・船の羅神盤に羅神を装着すると該当の神の元に移動できる

・亜神級の霊晶石なら1回、大天使級なら10個で1回、神級なら1個で10回くじが引ける

・一度引いたくじで引いた羅神は戻さなくて良い

・神域にいる神々のどれか1つの羅神が引けたら、該当の神域に入ることができる

・神域に入れたからと言って、何かが約束されているわけではない


 アレンは魔導書にメモを取る。


「ありがとうございます。では、9回分のくじを引きたいと思います」


 これ以上の交渉の必要はないとアレンは判断した。

 魔導具袋に入れてある亜神級の霊晶石7個、大天使級の霊晶石20個を取り出した。

 これで9回分のくじが引けるだろうという。


「な!? なんて数の霊晶石か!!」


 宰相は驚きのあまり、床に尻を着いてしまう。


「……これは、ルプト様のおっしゃる通りだ。今回、神界に足を踏み入れた下界の者は、神界の霊獣を狩りつくすだろうと」


 天空王は膨大な数の霊晶石を見つめ、冷や汗を流す。

 このどれもがこの数千年間、強さのあまり狩られることがなかった霊獣たちから手に入れたものだ。


(なんだ、その言い草は。「者たち」じゃなくて「者」ってことは俺個人を狙い撃ちしてるんじゃねえか。まったくそのつもりだが)


 第一天使ルプトがアレンの神界の行動を予見しての今回の仕様のようだ。


「では、私がくじを引かせていただきます。こういうのは得意なのです」


「うむ、無礼を許そう。今後の神界での活動を自らの運で手にするがよい」


 立ち上がったアレンに、天空王は無礼講だと言う。


「ちょ、ちょっと、アレンのどこが得意なのよ!」


 セシルが、アレンがくじを引くのは反対だと言う。

 学園のダンジョンの宝箱、S級ダンジョンの隠れキューブなど、アレンの「引き」が良かったためしはない。


「は? 何を言う。ステータスは嘘をつかないのだ。テミさんも補助スキルをお願いします」


「うむ、分かった」


(捨てずにとっておいて正解だったぜ)


 指輪や首飾りを運上昇の物に装備を変える。

 テミが幸運アップのスキルをかけてくれる。

 アレンはカードも幸運上昇に切り替え、圧倒的な幸運を手に入れた。

 

「さて、引きますか」


 アレンは仲間たちの不安を他所に、両手を広げないと抱えられないほどの小樽を持ち上げる。


(神頼みでくじか。正月に引いたな)


 アレンは前世で正月には初詣に行って、1年の運勢を知るため、くじを引く習慣があった。

 神に会うためにくじを引くとは、不思議な転生人生だと思う。


 持ってみると、それなりのサイズの羅神と呼ばれる物体が樽の中に入っていることが分かる。

 樽の上部に羅神1本が出るほどのサイズの穴がある。

 振って1本出せばいいのだろう。


 ジャラジャラ


 アレンが樽の上部を下に向けると、中で羅神がぶつかる音がした後、一本の銀色の棒のようなものが出てきた。

 太さ数センチ、長さ30センチメートルほどの棒だ。


「こ、これは商神マーネ様であるな」


 宰相が床に落ちた羅神をアレンも樽を荷台の上に置いて確認する。

 羅神には「商神マーネ」と書かれてある。


「ハズレね……。私、魔法神イシリス様の羅神がほしいわ」


 セシルは明らかにがっかりする。


「ちょうど、ペロムスもいることだし、せっかくだから商神様にも会うと良い。御利益があるかもしれないぞ」


「アレン、ありがと」


 そう言って、ペロムスに商神の羅神を渡した。


 気を取り直してくじを引く。


「お、歌神ソプラと書かれてあるぞ」


 銀の棒には歌神ソプラと書かれてある。


「え? 本当!! 私それほしいわ!!」


 ロザリナが立ち上がって、アレンの手元から羅神を奪い取る。


「また、はずれね……」


「ロザリナが喜んでいるだろ。おっと、これは占神タルロット様か」


「お? それは私が頂こう」


 テミが自分の職業の神だからと羅神が欲しいと手を伸ばす。

 アレンは渡してあげることにする。


 セシルが何だか切れそうだ。

 3回引いて、今のところ、精霊の園にも原獣の園にも、魔法神イシリスのいる場所にも行けそうにない。


「さて、次はと、こ、これは!!」


「え? もしかして、イシリス様!!」


 アレンが床に転がった羅神を拾うと、驚いた顔をする。

 セシルがまさかほしい物が出たのかと立ち上がり、手に取って見てみると、そこには「笑神マンザイ」と書かれてある。


(ぐぬぬ、良いの出ないな。って、セシル?)


「ちょっと、すまない。もっと良いの引くから待っていてくれ」


 立ち上がっているセシルは、下を向き、何やら小刻みに震えている。


「……ぼ、没収よ」


「え?」


「やはりアレンにくじを引かせてはいけないわ。皆、くじをアレンから奪って!!」


「分かった。アレン、諦めろ」


「仕方ないな。悪く思うなよ」


 ドゴラとシアも立ち上がる。

 セシルの言葉に同意見と言わんばかりに仲間たちが一気に動き出した。

 アレンはワラワラと取り押さえられ、くじから引き離される。


「お、おい! 俺がリーダーだ! セシル、これはクーデターだぞ!!」


「黙りなさい! あなたには十分機会を与えたわ!!」


 泣きっ面のアレンはドゴラやシアに押さえつけられてしまい身動きができなくなった。

 天空王たちは何を見せられているのだろうと茫然とするのであった。

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