第201話 ラポルカ要塞攻防戦①

 アレンが霊Bの召喚獣を使って、ラポルカ要塞での魔王軍との攻防戦の作戦を伝えてから1日が過ぎた。


 今日から魔王軍との攻防戦が始まる。


 魔王軍はアレンの予想通りラポルカ要塞を囲い込む形で陣形を組んだ。


 この要塞は切り立った山々に囲まれ、回り込むことも難しい天然の要塞だ。

 アレン達は3日もかけてラポルカ要塞以南にいる魔王軍を掃討し挟み撃ちを回避しようとしたが、魔王軍の力技による地形攻略によって無に帰した。


 魔王軍は夜明けとともに活動を開始した。

 既にラポルカ要塞の外壁に向けてゆっくり前進している。


 魔王軍の魔獣達が四方全ての外壁に距離を詰める中、エルフの兵達は外壁に上り、指揮官からの攻撃の合図を確認する。



 ここは、ラポルカ要塞の外壁の東側だ。

 東西の外壁は守りを想定していないため、南北の外壁と違いそこまで兵を置けない。

 それでも外壁に上がれないわけではないので、エルフ達が隊列を組んでいる。


 おぞましい形をした虫系の魔獣達がぞろぞろと、うごめく様に近付く中、若い1人のエルフが要塞内を不安そうに見る。


『戦いに集中せよ。ここはお前らの国、そしてお前らの戦いであろう?』


 すると、そんな兵の態度にはるか上空から厳しい声が降りてくる。

 外壁の外ではなく、要塞内に注意を向ける若い兵を一喝した。


(まあ、不安は分からんでもないけど)


「は、はい」


 若い兵が声がする方を見上げると、顔だけで数メートルはあるドラゴンの顔がある。


 指揮化した竜Bの召喚獣が、自分の体と同じ高さの外壁に乗っている。

 そして、兵化した竜Bの召喚獣達も同じく外壁の上に並ぶ。

 お陰で外壁の周りは異質な状況だ。


 あまりに巨躯であるため、向かってくる虫系統の魔獣が文字通り虫けらに見える。


(さて、ドラドラ、ここにいる魔獣達は外壁の上に登って攻撃するタイプだ。乗り越えられないようにしっかり焼き払うんだ)


 まもなく外壁に接するというところで、アレンは指揮化した竜Bの召喚獣に指示を出す。


『おう、兵どもよ。焼き払うぞ!』


『『『おう!!』』』


 竜Bの召喚獣達が特技を使い、一気に火を吹きだした。

 魔獣の焦げた匂いが外壁の上にも上がっていく。

 指揮化と兵化によってステータスが上がり、特技の威力が随分向上した。


 それが攻撃の合図だった。


 エルフの兵達も一気に矢を射る。


『ただの攻撃などいらぬぞ! スキルを使え! ただひたすらにだ!!』


「「「は!」」」


 将軍や指揮官級の兵もいる中、指揮化した竜Bの召喚獣が、がんがんエルフの兵達に采配を振る。


(指揮化、兵化すると性格は変わらないが、行動パターンが将軍や兵隊っぽく修正されると)


 アレンが召喚獣の行動を分析する中、クワガタのような形をした魔獣達が外骨格の中にしまった羽を広げ始める。

 数千にも及ぶ虫系統の魔獣が一気に空を飛び始める。


「い、射よ! 中に入れてはならぬ」


「「「は!」」」


 今回の戦いにおいて、エルフ軍に想定される1つの敗北のパターンがある。

 1つの敗北のパターンしかないのかもしれない。

 それは、東西南北ある外壁のうち1つでも落とされることだ。

 すると、そこから魔獣達が何十万となだれ込み要塞は確実に陥落する。


 そうやって、ラポルカ要塞の倍の高さの外壁を誇る最北の要塞は陥落した。

 要塞内に魔獣達がなだれ込んでしまうと、外壁が意味を成さなくなる。


 エルフの指揮官は慌てて指示を出す。

 敵が空中にいると、外壁の高さの優位性を失ってしまうので、最優先に打ち落とせと兵達に指示を出す。


(ドラドラ、怒りの業火を使え)


『は! 虫けらどもが、何故我が高さに並ぶ! 身の程を知れ!!』


 アレンは指揮化した竜Bの召喚獣に覚醒スキル「怒りの業火」を使うように指示をする。

 指揮化した竜Bの召喚獣が、周りから全ての光を口元へ飲み込むように集約させていく。

 そして、一瞬辺りが暗くなったかと思った瞬間に、光線のような炎を口元から吐き出した。


 上空にいる数千もの魔獣が、あまりの高熱に一瞬で屍骸も残さず消え去っていく。

 そして、うごめきながら山肌を這う魔獣達も灰になっていく。

 それでも炎の威力を殺せず、山肌の岩盤が溶岩のように溶け始める。


「す、すごい。何て威力だ」


 魔獣が焼け、岩盤の一部が蒸発したため発生した悪臭が漂う中、1人の兵があまりの攻撃の威力に息を呑む。


『何をしている。この壁を死守するのだ!』


「は、はい!」


(ふむいい感じだ。これなら東側は大丈夫だな。早々に指揮化したドラドラに覚醒スキルを使わせてしまったが、また上空に虫たちが飛んで攻めてきたら、兵化したドラドラ達に覚醒を使わせたらいいか)


 クールタイムが1日の覚醒スキルは使うタイミングが重要だ。



 アレンは西側の外壁の様子に意識を傾ける。

 そこはあまりにも異質な戦いが繰り広げられていた。


『ギチギチギチ!』


『『『ギチギチギチ!』』』


 指揮化して体長が10メートルに達した虫Bの召喚獣が、兵化した虫Bの召喚獣を従え外壁の外に出ている。

 外壁を背にだ円状の陣を組み、子アリポンを最前面に出して戦わせている。


「回復をかかすな! 絶対に死守せよ!!」


「は!!」


 外壁の上には、弓兵と同じくらいの数の回復部隊がいる。

 虫系統の魔獣と直接地上戦で戦う、虫Bの召喚獣を守るためだ。


(うしうし、回復部隊はアリポン部隊の後ろにある程度固めたからな。魔獣も外壁の外に飛び出した召喚獣を優先して殴ってくれると)


 火を吹き、魔獣を蹴散らす竜Bの召喚獣で構成する東側の外壁と違い、西側の外壁は虫Bの召喚獣達に頑張ってもらう。

 アレンの作戦の下、エルフの回復部隊が虫Bの召喚獣達と子アリポン達に対して、範囲魔法を交互に唱えていく。全員の魔力が尽きたら1個の天の恵みで全員の魔力を回復させる。


 この回復方法なら、少ない天の恵みで長時間に渡って、虫Bの召喚獣に回復魔法を掛けることができる。


 10体の虫Bの召喚獣が覚醒スキル「産卵」を2回使い、2000体の子アリポンが生まれた。

 指揮化や兵化した虫Bの召喚獣だけでなく、子アリポンもそんなに魔獣から倒されていないように見える。


(守備力は、兵化した子アリポンなら2750だからな。半端な攻撃じゃやられなくなってしまったと)


 子アリポンの守備力は、親となる虫Bの召喚獣の守備力に依存する。

 兵化によって子アリポンの守備力は大幅に上がった。

 魚バフやエルフ達の補助魔法をもらいさらに強固になっている。


 守備力が魔獣の攻撃力を大幅に上回ってしまったため、魔獣の攻撃が通らないようになったとアレンは分析する。


 最前面にいない虫Bの召喚獣達と子アリポン達は、遠くに向かってシャワーのようにギ酸を降り撒いている。

 特技「ギ酸」は、虫系統の魔獣の身を守る外骨格を溶かしてしまう。

 防御力の下がった魔獣を砕くのは、獣や竜の召喚獣ほど攻撃力のない虫Bの召喚獣や子アリポンでも十分だ。


 最前面の子アリポンが、柔らかくなった魔獣を大顎でかみ砕いていく。


 また、エルフ達も外壁の外で戦う虫Bの召喚獣達に群がる魔獣達を優先して弓で射抜いていく。防御力が下がっている上に全力でスキルを使い攻撃をするので、死体の山ができ始めている。


(ふむふむ、ドラドラと違って灰にしないからな。あまり一か所で戦うと、外壁並みの小山ができてしまうのか? それはそれで、あとで魔石やら何やら回収しやすいんだけど。少しずつ外壁に沿って移動させるか)


 若干の作戦変更も考えたが、西側の外壁も問題ないように思える。


 虫Bの召喚獣は1日100体の子アリポンを生むので、24時間で100体以上やられなければ数が減ることはない。


 今の調子なら子アリポンの数が増える速度の方が速いように思える。


(西と東の外壁はいい感じだな。ふむ、そろそろ時間か?)


 アレンは召喚獣の視線の端で日の位置を確認する。

 日の出とともに魔王軍との戦いが始まり、既に日は最も高い位置に登っている。

 戦闘開始から概ね8時間ほど経過したようだ。


「そろそろ時間だ。戦闘を維持しつつ、移動を開始せよ!!」


「「「は!」」」


 指揮官の指示により、エルフの兵達は戦闘を続けながらも、外壁に設けられた1つの階段からゆっくり降り始める。


 そして、外壁の反対側の階段から新たな兵達がゾロゾロ上り、降りる兵達の持ち場をゆっくりと埋めていく。


 こうして8時間かけて戦った兵達は外壁の上からいなくなり、新たに同数の兵達が外壁の上を満たし、変わらず戦闘を続ける。


(うしうし、練習はしていないが普通にできたな)


 アレンはこのエルフの動きに納得する。


 交代した新たなエルフの兵が外壁で戦う中、ラポルカ要塞の攻防戦は続いていくのであった。

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