第466話 入門資格

 かなり弱めのフラグを竜王から伝えられ、アレンたちはその足でヘビーユーザー島に足を運んだ。

 そこでアレンたちはハクの前で途方に暮れていた。


『ギャアアアア! マンマガイナイトヤアアア!!』


 何かに理由をつけて門の前に連れて行こうとしているのだが、「いやいや期」に入ったのかハクは転げるように駄々をこねる。

 ハクの言う「マンマ」とはクレナのことなのだが、S級ダンジョンにいてこの場にはいない。


「ちょっと、これはクレナをダンジョンから呼び戻そう」


「それが良さそうね」


 セシルも同意する。

 クレナが必要だと言うなら呼べば良い。

 鳥Aの召喚獣の特技「巣ごもり」で転移して、すぐに連れてくる。


「マンマアアア!!」


 体長が15メートルに達し、常人ならつぶれるかもしれないほどの巨躯でクレナにもたれ掛ってくる。

 クレナが愛情をもって世話をした結果、随分なついてしまったようだなとアレンは思う。


「よし、これからにダンジョンに一緒に行くよ」


 クレナがハクに手を差し出した。

 ハクの前足のかぎ爪がクレナの手に触れる。


『ウン! マンマトイッショ!!』


 クレナへの説明が難しかったため、「ハクと一緒にダンジョンに行くぞ」とだけ伝えてある。

 ハクも同意してくれたことだし、これで試しの門に行けるぞと思った時だった。


 ブン!!


 またもや、アレンの同意なく魔導書がアレンの前に現れた。

 ステータスが上がったり、スキルの発動などによりログが流れると魔導書が現れる。

 この時も銀色の文字が魔導書の漆黒の表紙に書かれていた。


『ハクが仲間に加わった』


「ほう。クレナは引換券だったのか」


 前世で、強力な竜を仲間にするために仲間にしないといけないキャラがいたことを思い出す。

 クレナはそれに当たるようだとアレンは感慨深くなる。


「ちょっと、何よこれ」


 アレンが余計なことを考えていると、セシルが現実に戻す。


「なるほど。ハクは俺たちのパーティーにはいったようだ」


 何事だと言う仲間たちに、状況を説明する。


「おお、仲間、ハクは仲間だ」


『マンマトナカマ!!』


 クレナもハクも嬉しそうだ。


「ふむふむ、ステータスも完全に載っているな。ハクは俺たちの14人目の仲間だったのか」


 【名 前】 ハク

 【種 族】 白竜

 【形 態】 幼体

 【ランク】 C

 【レベル】 1

 【体 力】 200

 【魔 力】 100

 【攻撃力】 300

 【耐久力】 200

 【素早さ】 300

 【知 力】 10

 【幸 運】 100

 【特 技】 火を吐く、切り裂く

 【経験値】 0/100


 アレンが魔導書の仲間のステータス欄にハクのステータスが載っている事を確認する。


(ふむ。白竜なのにCランクで随分弱いな。まだ幼体で餌はこっちで全部用意していたからな。ステータス的に前衛で、知力は10なのか)


 ハクのステータスはかなり低いことが分かる。

 S級ダンジョンに向かう前に倒した先代白竜は、全長60メートルほどの大きさで、ステータスは1万近くあったと記憶している


 魔獣としてのランクもCと低く、知力は特に低い。

 職業やスキル経験値の表示はなく、種族が表示される仕様のようだ。


「なんか弱っちいわね。大丈夫かしら?」


「まあ、魔王討伐にドラゴンの加入はつきものだからな。これからの成長に期待だな」


「何よそれ。初耳よ」


 セシルはアレンの新たな常識に触れる。


 前世で無双するドラゴンを仲間にしたゲームをアレンは覚えている。

 圧倒的な体力、攻撃、耐久力、そして強力なブレスを特技に覚えていた。

 どのように成長するのか分からないがハクのこれからに期待しかない。


 アレンたちはこの足で、試しの門に向かうことにした。

 クレナが合流したので7人にハクの1体でのパーティーとなった。

 この状況に合わせてのパーティー構成変更もどこか前世の記憶が蘇る。


 鳥Bの召喚獣に乗って遺跡の前に降り立つ。

 3つの遺跡があるのだが、少し前に全ての遺跡に行ったのだが何も起こらなかった。


 ハクが小さく思えるほど巨大な遺跡の内部に入っていく。

 遺跡の中は箱状になっており、前回に来た時同様に中央に巨大な門があるだけだ。


 竜王とその使いの話ではこれが「試しの門」のうちの1つなのだろう。

 扉と思っていたが門だった。

 まあ、どっちでもいいのだが、試しの門というのだから門なのだろう。


「これが竜王の言っていた試しの門ね。何か起きるかしら」


 初めて見る巨大な門をセシルが見上げている。

 遺跡内の門には巨大な竜が浮き出るように描かれている。


『審判の門を望む竜よ。我が門を挑戦するか?』


 以前来たときは何も起きなかったが、門に描かれた竜が言葉を発した。

 どうやら竜王の言った通りハクを連れてくると試しの門は反応を示した。


「はい。よろしくお願いします」


 断る理由はないのでアレンが挑戦に同意する。


「え? 何よ、これ!?」


 その瞬間、ハクも含めたアレンたちは良く分からない空間に視界が変わった。

 どうやらこのとても広く石畳で出来た無機質な場所に飛ばされたようだ。

 セシルは何が何だか分からず騒ぐ中、アレンは辺りを見回し状況を確認する。

 100メートルに達したゴーレムやドラゴンでも自由に移動できそうだ。

 なお、この場にメルルはいない。


「キューブ状の物体はいないと。ダンジョンっぽいがダンジョンなのか?」


「……アレン。ここが試しの門の中なの?」


「そうだな。セシル。とりあえず、散策するか」


 セシルや仲間たち、そしてハクも全員いる。

 一緒にこの空間に飛ばされたようだ。


 ダンジョン感ある風景だが、案内役のキューブ状の物体はどこにもいない。

 そういえば、ここは何万年も何十万年も前からある聖域だとか。


 齢5000年のダンジョンマスターディグラグニが生まれる遥か前から存在する審判の門を開くために存在する場所なのだろう。

 ダンジョンとは違う仕様になっているのか、キューブ状の物体は存在しないようだ。


 薄暗い何の変哲もない空間だが、出口が遠くの方に見える。

 出口と見えるのは、出口の輪郭が分かるような光源があったからだ。


「あら、何かが近づいてきますわね」


 光る何かが近づいてきたのでソフィーが警戒する。

 やや透明な虹色に輝く翅(はね)がある小型の竜だった。

 もう何メートルもしない場所まで小型の竜は近づいてきた。


『あれれ、久しぶりの挑戦者だね。3000年ぶりか~。前回の挑戦から結構空いたよ~』


 かわいい口調の竜に対して、アレンたちは警戒するか迷ってしまう。


「パピヨンドラゴンか?」


(妖精竜ともいう。初めて見たが、話ができるのか。聖竜なのかな。強そうに見えないけど)


 アレンが幻想的な小型の竜に対して話をする。


 先日、5大陸同盟会議が始まる前にラターシュ王国の王城の一室で読んだ、聖獣や聖竜を思い出す。


 この世界には「何とかドラゴン」と名の付く魔獣もいれば、「何とか竜」と呼ばれる魔獣もいる。

 どちらも竜系統の魔獣なのだが、神聖視する呼び名は竜の方が多いらしいとか。


 今回、目的がたくさんあるアレンは、この小型の竜の「格」を探る。

 普段なら竜を見ると、他の魔獣の数倍から数十倍に達する経験値を考えるのだが今は違う。


 審判の門を超え、神界に行く以外にアレンには目的がある。

 現在、マクリスである魚Sの召喚獣しか封印を解除できていない。


 上位魔神に対しても圧倒的な力の差を見せつけた召喚獣のマクリスだが、これから魔王や魔王直属の配下の六大魔天と戦うには不安が残る。

 さらに、マクリスはそもそも魚系統という補助系の役割の強い召喚獣だからだ。


 攻撃主体で火力が期待できるのは、獣と竜で、この里は竜神の里だ。

 聖獣石を使って里にいるかもしれない聖竜を捕まえたら、竜Sの召喚獣の封印が解けるという期待がある。


 神界に行くために竜神の里に行かないといけないと知った時から、聖竜を何とか召喚獣にできないか考えている。


『違うよ。僕は時空神デスペラード様の使いさ。名をメガデスと言う。まあ、神界へ続く道の案内をしている者だよ』


 竜の顔をしたメガデスは怪しく微笑んだ。


「これは神の使いメガデス様でいらっしゃいましたか」


 案内してくれるなら是非もないとアレンは思った。

 丁寧な口調にモードを切り替え、頭を下げ対応する。


『ふふ。君は若そうなのにって、ん?』


 見た目の割に恭しく対応するアレンにメガデスは気を良くした。

 しかし、その後ろにいるハクを見て愕然とする。


『ギャウ!』


(ワンみたいに言っているな)


 ハクの周りを怪訝な顔をしながら飛ぶメガデスに対して、尾を振って楽しそうに反応する。


『今回の「開放者」は色竜の幼体か。ちょっと、挑戦するには早いんじゃないのかな』


(開放者だと?)


 久々に開放者という言葉を聞いた気がする。

 こんなに幼い竜が挑戦するところではないらしい。


「試しの門を挑戦するには厳しいですか?」


『絶望的だよ。「乗り手」もいないようだし、全滅すること間違いなしさ。この試しの門をその辺のダンジョンと一緒にしない方がいいよ』


 何でも100年は早いらしい。


(乗り手? よく分からない言葉が色々出てくるな)


 メガデスの言葉が何を意味するのか分からない部分がある。


「全滅ですか。前回はどれくらいの規模での挑戦ですか?」


『前回は少し空いて3000年前かな。この時は成体の古代竜と乗り手、協力者合わせて12000人くらいだったかな。それでも、審判の門は開くことはなかったけど』


(白竜よりも格上の古代竜と12000人で全滅ってことか。かなり厳しいってことは分かった)


 竜王の投げやりな感じでヒントをくれた理由が何となく分かってきた。

 攻略はそこまで期待していないのかもしれない。


「どうしましたか?」


 メガデスが何かに気付いたようだ。


『いや、まあ、厳しい戦いになるけど。それにしても、ふ~ん。面白い構成だね』


 アレンが考察する中、メガデスはアレンたちや精霊神や精霊王をのぞき込むようにジロジロと見る。

 かなり値踏みをしているような気がする。


「挑戦はできそうですか?」


 かなりの難易度は分かったが、試しの門内に入れたので、このまま挑戦させてほしいと思う。


『門には入れたんだ。死んじゃっても自己責任だし挑戦はするといいよ』


「ちなみに、いくつか聞いてもいいですか?」


『もちろんだ。答えられることなら答えるよ』


 アレンとメガデスの会話が続く中、飽きたハクが後ろの方でクレナとじゃれつき始めた。


 最初に、門外に出る方法についても確認する。

 いくつか戻れる地点が用意されており、メガデスに頼めばいいらしい。

 前回の攻略で竜人たちが全滅したらしいが、随分優しいんだなとアレンは思う。

 この場所も元居た場所に戻れる地点になっているとか。

 入ったら最後、二度と戻れない仕様になっていないようだ。


「あと気になったことがあるんですが」


(これが一番気になる。というか、これを聞かずに挑戦はできない)


 仲間たちもクレナを除いてみんな同じ気持ちのようだ。

 竜王と会ったあたりから、ずっと気になっていたことがある。


『まだあるの? 随分用心深いんだね』


 何でも教えてくれるようだ。


「この白竜の幼体は何か特別な存在なのですか? 3000年ぶりの挑戦と聞いていましたが、それまで挑戦できなかったとありますが」


 疑問に思ったことは聞いておく。

 この神の使いメガデスは随分口が軽そうだ。


『ああ、そういうことも聞いていないんだね。この白竜の幼体には「神器」があるよ。どうやらエルメア様はこの子に神器を授けてくれたようだね。今は幼体すぎて空の器のようだけど』


 神器という言葉にアレンも含めた仲間たち全員の顔に緊張が走る。


「ちょっと、くすぐったいよ」


『ギャウギャウ!!』


 アレンたちが黙ってしまった分、クレナとハクの騒がしさがこの空間に響く。

 クレナは今晩飯抜きの刑に処すことにしよう。


「神器を持った竜種が神界へ行く挑戦が、3つの試しの門ということですか」


(ふむふむ、なんとなくわかってきたぞ)


『まあ、今はそんなところだね』


 メガデスは含みを持たせた言い方をする。

 竜種のためだけの門ではなさそうだ。


「では、このまま試しの門の挑戦を始めたいと思います」


 入門資格も聞いたし、安全に脱出もできるようだ。

 アレンたちの試しの門の挑戦が始まったのであった。

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