第442話 Sランクの召喚獣
封印が解除され、アレンはとうとう魚Sの召喚獣を召喚することに成功した。
(今回は神界スタッフとペロムスに感謝だな。マクリスが召喚獣になった経緯はメルスに似ているのか。聖獣石が俺のものになったみたいだし、これからも似たような形で召喚獣の封印を解いていかないといけないのか?)
明らかに神界の協力があったような気がする。
邪神教の教祖たちとの戦いの時は火の神フレイヤに助けられた。
今回は水の神アクアだけではなく、それ以上に裏方の神界の天使たちの力を借りたのかもしれない。
それだけに邪神の復活を何としても阻止する。
レベル100アップの討伐報酬などのメッセージや、聖獣石を収納してから必死に流れてくるログを見ても、神界のそんな強い意志を感じる。
アレンの思考をよそに、頭上にゆったりと魚Sの召喚獣が現れた。
姿は以前の真っ白な30メートルほどのイルカではなかった。
100メートルにもなる迫力ある白鯨だ。
前世でいくつかクジラの種類を知っているが、シロナガスクジラのような雄大な見た目をしている。
クジラは魚のジャンルに入るようだ。
カエルが虫であったりする召喚獣の系統なので、今更何かを言うまい。
『なのら~!!』
ゆったりと泳ぐ魚Sの召喚獣の口調は、聖魚マクリスそのものだ。
ログで流れた経緯を見ても魚Sの召喚獣はマクリスが水の神アクアと新たな契約を交わした結果で間違いないだろう。
第一天使メルスが神界でキュベルに殺され召喚獣となった。
聖魚マクリスが召喚獣になるのもあり得ないことではないと考える。
ほかの召喚獣の封印の解き方についても、なんとなく分かってきたような気がする。
『見たことのない召喚獣を出したね。それで、この状況が変えられるって思ってたりしているのかな?』
キュベルが「それがどうしたの」と言わんばかりに状況を確認する。
見たことのない召喚獣に警戒するものの、この状況を打破できるとは思えなかった。
現状として、変貌した上位魔神と対等に戦っているのはメルスのみだ。
エクストラモードのクレナとドゴラ、ヒヒイロカネゴーレムのメルルはぎりぎり戦っている。
それ以外の者は命を守ることで精いっぱいだ。
戦闘中の上位魔神が3体いる状況でアレンは仲間たちの守りを優先している。
1体の召喚獣を出して何ができるのかという話をキュベルがした。
そして、巨大になっていく邪神はまもなく変貌が終了する。
軽い口調からもキュベルは勝利を確信しているようだ。
「もちろんだ。すまないが、お前らごとき、1体の召喚獣で戦局が変えられる。後ろのウシガエルもろとも、この場にいることを後悔させてやる」
『な!? う、ウシガエル! なんて言い方だ!! 君はもう少し英雄らしい口調を覚えたほうがいいよ!!』
邪神に対しての口調が気に食わなかったらしい。
キュベルは地団駄を踏んで、憤慨している。
それでも、アレンの挑発にふざけて答える辺りが、邪神を復活させ、魔王軍の主力をつれてきた余裕の現れなのだろう。
(お前のふざけた口調もこれまでだ! となってほしいものだな。分析を進めるぞ)
アレンは魔導書に記載された魚Sの召喚獣のステータスと特技、覚醒スキルを確認する。
【種 類】 魚
【ランク】 S
【名 前】 マクリス
【体 力】 40000
【魔 力】 50000
【攻撃力】 40000
【耐久力】 40000
【素早さ】 40000
【知 力】 50000
【幸 運】 40000
【加 護】 魔力5000、知力5000、魔力超回復(毎秒1%回復)
【特 技】 ロイヤルガード、シューティングスター、ホワイトアウト、フリーズキャノン、飛翔
【覚 醒】 ロイヤルオーラ、聖珠生成、〈封〉
圧倒的なステータスと加護、豊富な特技と覚醒スキルが表示されていた。
(遂に素のステータスが大台の6桁に達したか。特技5個に、覚醒スキルは3つか。さすがSランクといったところだな。っていうか、飛翔ってことは地上にいてもマクリスは空を飛べるのか)
この状況を打破すべくスキル名から戦闘を組み立てていく。
分析を誤れば、パーティーは全滅する。
大胆に、それでいて正確にマクリスが何ができるのか知らないといけない。
「帝都北部戦闘組にロイヤルガードかかっていないからな。かけなおして」
ヘルミオスたちにはロイヤルガードがかかっていない。
『ロイヤルガードなのらあああああ』
メルルやメルスや勇者ヘルミオスパーティーに真っ白に輝く泡が取り巻いていく。
(効果は聖魚していたころと変わらないと。っていうか、効果範囲が広すぎひん?)
帝都パトランタ北部では南下しながらもアレン軍、勇者軍共同戦線が魔王軍と戦っている。
帝都パトランタ北まで、遅延戦略をとっているため、魔王軍が帝都に達するまでまだまだ20キロメートル以上先だ。
精霊王の祝福並みの効果範囲で優に100キロメートル以上あるようだ。
帝都北部で戦う仲間たちの動揺を鳥Fの召喚獣が捉える。
効果は変わらないが、効果範囲は格段に広がったようだ。
『これは召喚獣の補助です。引き続き守りに徹しながら戦ってください』
アレンは兵たちが動揺しないように鳥Fの召喚獣の覚醒スキル「伝令」を使って伝える。
アレンの仲間たちにも、守りに徹して守備体系が崩れないよう指示を出す。
アレンは召喚獣による仲間たちへのフォローを忘れることなく、最善手でスキルの分析を進めていく。
(さて、次はと。魚系統なんで補助系かな)
魚系統の召喚獣はバフ、デバフをメインに役割を担っている。
『ホワイトアウトなのらあああああ』
次に特技「ホワイトアウト」を使うように指示をする。
召喚獣になったマクリスだが、素直に指示を聞いてくれるようだ。
メルスも嫌だと前面に顔や態度に見せることがあるものの指示には必ず従ってくれる。
この辺は召喚獣になる誓約のようなものが働いているのかもしれない。
「ホワイトアウト」を使うと雪状のものが吹雪のように半径100キロメートルに現れ、そして消えていく。
(ホワイトアウトって北海道とか雪国で、目が見えなくなるほどの雪嵐だっけか。仲間たちのステータス効果はないな。この感じは敵の攻撃が当たりにくくなるデバフ系の効果か。軍を持つ俺にはかなりありがたい効果だぞ)
仲間たちのステータスを見ても変化はない。
万を超えるアレンの知力をもって、鳥Eの召喚獣の覚醒スキル「千里眼」を発動させ、魔王軍の攻撃を分析する。
ゴーレム隊への攻めが随分弱く、そして緩くなったように思える。
これは特技の名前からも、目くらましのような効果で、クリティカル率を下げるデバフ効果がある。
魚Aの召喚獣の特技「煙幕」に近い効果なのだろう。
上位魔神の攻撃もクリティカルがあまりでなくなったように思えるが、帝都北部では顕著に効果が分かる。
帝都北部でのアレン軍、勇者軍共同戦線の兵たちは敵の攻めが緩くなって明らかに守備体系を維持しやすくなったように感じる。
ロイヤルガードとホワイトアウトによって、撤退しながら戦っていたのが膠着状態に変わりつつある。
撤退する速度が緩くなり、かなり安定してきた。
この場にいる上位魔神たちには帝都北部ほどの目立った効果はないようだ。
(さすが魚系統の特技ってところだな。ふむ、これなら前衛を連れ戻しても良いか?)
魚系統は基本的にバフ系の特技を得意とする。
聖魚マクリスは聖獣から召喚獣になったが、この理の中にあるのだろう。
Sランクの召喚獣の分析を進めていく中、上位魔神たちにも動きがある。
『ふん、目障りだ。ラモンハモン1体ずつ片づけるぞ』
『『ああ、そうだな』』
「へば!?」
ビルディガがラモンハモンに声をかけて、クレナを倒すため共闘することにする。
ラモンハモンの物理攻撃を受けて、クレナが調停神ごと吹き飛ばされる。
吹き飛ばされた先で体勢を整えるクレナたちに対して、ラモンハモンがビルディガと共に追撃をしてとどめを刺そうとする。
(おっと、もう少し検証したいんだが、まあ仕方ない。ラモンハモン、貴様が一番邪魔だな)
敵側に回復魔法が使える者がいると戦いはひたすら長くなってしまう。
アレンはラモンハモンに狙いを定める。
「フリーズキャノンをラモンハモンに使え!」
特技の名前からも明らかに攻撃系のスキルであることが分かる。
聖魚マクリスが使っていたアイスジャベリンは姿を消し、フリーズキャノンが特技欄を埋めていた。
『フリーズキャノン!!』
アレンの叫び声と共にマクリスが特技「フリーズキャノン」を発動する。
『『がは!? ぬぐぐぐ!!』』
マクリスが口を開くと魔法陣が現れ、先がとがった三角錐状の氷の刃が、口元から発射される。
クレナを狙っていたラモンハモンは直撃を受け、体でフリーズキャノンの氷の柱を受け止めたままはるか先まで吹き飛ばされていく。
バキバキ
変貌して両側で8本になった手で氷の柱を砕いてしまった。
「攻撃を止めるな!」
『おう! なのらああああ。フリーズキャノン!!』
『同じ攻撃か。当たらなけらばどうということもないわね!!』
『ああ、ラモン姉さん!! すべて避けてくれる!!』
マクリスはラモンハモンに狙いを定めた。
しかし、物理攻撃も魔法攻撃も得意なラモンハモンは、強力な魔法球を瞬時に発動し軌道をそらす。
巧みな体さばきでよけ始めた。
その間にクレナはビルディガの攻撃に集中する。
この世界では魔法は発動させれば必ず当たると言うわけではない。
当たらなければダメージは受けないし、当たり所が悪ければ大ダメージを受ける。
属性なども関係して、同じ魔法の攻撃であっても、ダメージの幅はとても広い。
(メルスは属性付与を早く、氷を弱点属性にしてくれ)
『さっきからやっている』
アレンの狙いは最初から回復役もこなせるラモンハモンであった。
しかし、魔法も物理もこなせるラモンハモンは魔法耐性が高いようだ。
メルスの属性付与をはじき返している。
(残りはロイヤルオーラとシューティングスターか。ロイヤルオーラの効果を発動させるか。バフな気がするし)
覚醒スキルは一度発動するとクールタイムがあるので、できれば特技から分析したかったが、仲間たちがまだまだ苦戦している。
覚醒スキルのロイヤルオーラを発動させることにする。
最初に発動させた方が良かった感もある。
『ロイヤルオーラなのらあああああああああ』
「え?」
アレンがあまりの輝きと効果に驚愕して声が漏れてしまった。
マクリスの叫びと共に金色に輝く光の泡が世界を満たした。
100キロメートルとか200キロメートルとかそんなちゃちじゃない異常な効果が光の輝きと共に広がる。
アレンたちは圧倒的なステータスの上昇に動揺した。
帝都パトランタの住人も帝都の北部に陣を引く兵たちも、さらにその北部にいるアレン軍もヘルミオス軍もそうだ。
【魚Sの召喚獣マクリスのロイヤルオーラの効果】
・体力、魔力10パーセント上昇
・攻撃力、知力5000上昇
・全攻撃ダメージ30パーセント上昇
・クールタイム50パーセント減少
効果が発動してすぐに、帝都パトランタ北部の戦況が変わり始めた。
弓を飛ばし、魔法を放っていたのだが、その威力が圧倒的に上昇する。
数で圧倒する魔獣たちが共同戦線の攻撃に耐えられず、後退し始めた。
本当に守りながらの戦いかというほど、アレン軍、勇者軍が前線を押し返し始めた。
アレンたちの仲間もそうだ。
たった1つの覚醒スキルの発動による輝きと共に戦況が一気に良くなった。
「次はシューティングスターもお願い」
『シューティングスターなのらあああああああ!!』
マクリスの特技が発動すると、ラモンハモンの胸に六芒星の印が現れた。
まるで、「的」を作ったかのように見える。
(これはまるで、狙いはここだよと言っているようなものだな)
「アレン殿、お陰で属性付与が効いたぞ」
知力が圧倒的に上がったメルスがラモンハモンの耐久属性を氷属性弱点に変えたと言う。
「じゃあ、もう一度フリーズキャノンいってみようか」
分かりやすい効果であってほしいと思いながらも、アレンは先ほどから躱され続けた特技「フリーズキャノン」を発動させるように言う。
『フリーズキャノンなのらあああああああああ!!』
大きな掛け声と共に、円錐状の氷晶がマクリスの巨大な口から発射される。
『これはまずい。ラモンハモン避けて!!』
アレンたちにかけられた圧倒的なバフの効果からもキュベルはすぐに受けたらいけないことが分かったようだ。
魔力球をぶつけ軌道をそらし、圧倒的な体術によりフリーズキャノンを避けようとする。
8本の足に力を籠め、発射された氷晶の軌道上から外れるよう瞬時に移動した。
しかし、氷の柱はあり得ない角度で曲がりラモンハモンを追尾し始めた。
100メートル以上後退したところでとうとうラモンハモンの胸の星マークに当てることができた。
『こ、こんなもので最強の魔神であるこの私たちが!!』
『そうだよ。僕らは究極の魔神。僕らの力は六大魔天にも達するってシノロム様が言ってくれたんだ! ぐぬぬあああああ! そ、そんな!?』
フリーズキャノンの氷の柱を砕いてやると言わんばかりに、8本の筋肉質な腕で受け止めた。
氷の柱に触れた胸と手からメキメキとラモンハモンが凍り始める。
「なるほど。体力を削りきって倒すスキルか。さて、まずは1体だな」
円錐状の氷の柱の先端が胸に突き立てられ、全身という全身を真っ白な結晶になるほどの氷漬けにしたあと、勢いが止まらない氷の柱によって粉砕する。
ラモンハモンは体の全てが粉砕され、水の中に溶けるさまに慈悲など一切感じられない。
『ば、馬鹿な。ラモンハモンが魔法一撃で!!』
あり得ないことが起きたとキュベルが仮面の下で驚愕している。
『上位魔神を1体倒しました。レベルが112になりました。体力が625上がりました。魔力が1000上がりました。攻撃力が350上がりました。耐久力が350上がりました。素早さが650上がりました。知力が1000上がりました。幸運が650上がりました』
(む? まだ封印は解けないか。後上位魔神は残り3体いるしな)
レベルが5つ上がり、圧倒的なステータスの上昇を感じるが、ログにはスキルの封印解除は表示されない。
まだまだ経験値アップの対象がいるなと次の相手に狙いを定める。
『んのらああああああああああああああ!!』
まるで反撃の狼煙を上げんとばかりに叫ぶマクリスの咆哮が、上位魔神たちに向けられる。
緊張して体が強張る上位魔神たちは、たった一撃の魔法でラモンハモンを倒したことを脅威に感じているようだ。
『ちょっと、ふざけすぎた力だね。って、おお、力の開放が終わったようだ!』
マクリスが更なる追撃をという状況の中で、とうとう邪神の変貌が終わったのであった。
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