第425話 商人ペロムスの消失①

 アレンは離宮にいるセシルたちに状況を伝える。


「ペロムスがいないってどういうことよ?」


『言葉通りだ。どこにもいない。もしかして、そこからでも分かることがあるかもしれないから調べてみてくれ』


「分かったわ」


 ペロムスが宮殿からどこにもいなくなっていた。


 アレンはペロムスと共に宮殿で活動をしている。

 宮殿内では、どこかに行っては駄目のようなことは、ほとんどなく自由に行動できる。


 アレンは8時過ぎに一緒に宮殿に向かい、10時過ぎにペロムスと別れた。


 アレンがペロムスと別れて、S級ダンジョンの最下層にいるクレナやドゴラたちに装備品を渡す。

 そして、ルド将軍やドベルグにシノロムについて聞いていた間に、ペロムスは行方不明になってしまった。


(やばいな。ペロムスには一応あれこれ装備品と回復薬は渡しているんだが、時間がないぞ)


 ペロムス1人でも、その辺の騎士たちに負けることはない。

 Aランクの魔獣であっても今のペロムスなら、逃げることはできるだろう。


 【名 前】 ペロムス

 【年 齢】 16

 【職 業】 豪商

 【レベル】 60

 【体 力】 1662+600

 【魔 力】 1421

 【攻撃力】 948

 【耐久力】 1185

 【素早さ】 1362

 【知 力】 1866+600

 【幸 運】 2193+600

 【スキル】 豪商〈4〉、計算〈4〉、鑑定〈4〉、交渉〈4〉、若衆〈1〉、剣術〈4〉

 【エクストラ】 天秤


・スキルレベル

 【豪 商】 4

 【計 算】 4

 【鑑 定】 4

 【交 渉】 4

・スキル経験値

 【計 算】 1200/10000

 【鑑 定】 6000/10000

 【交 渉】 4200/10000


【ペロムスの主なアクセサリ】

・指輪①:耐久力5000

・指輪②:素早さ5000

・首飾り:耐久力3000

・耳飾り①:物理ダメージ軽減7パーセント

・耳飾り②:魔法ダメージ軽減7パーセント


【ペロムスの主な防具】 

・アダマンタイトの短剣:攻撃力2000(※魔導具袋)

・アローシャークの衣:耐久力4800


※魔導具袋は道具袋のように見えるが、収納の魔導具。

 魔導技師団が作成したもので、アレンのパーティー全員が所持している。


 武器は宮殿で持ち物検査を受けるため魔導具袋にいれている。

 ペロムスが装備する役人の服の下には、耐久性能の良いの「アローシャークの衣」を装備させていた。

 毒殺も防止するために香味野菜などの状態異常を防ぐ、草Cの召喚獣から生成した回復薬も毎日使用している。


 ペロムス本人自身も戦闘職ではない豪商の才能だが、レベルカンスト済みだ。

 宮殿内で活動する騎士たちよりもよっぽどステータスが高い。

 よっぽどのことがあっても、その場から逃げ出してルークや精霊王ファーブルに助けを求めるくらいできるだろう。

 一応、星2つの剣豪のイワナム隊長もルークたちと共にいる。


(ステータス的にペロムスは死んでいないと。捜索しつつ夜まで帰りを待つか。いや、明日にはペロムスが死んでしまう)


 アレンの魔導書はペロムスの生存を確認する。

 ペロムスの体力は満タンで無事なようだ。


 アレンは、外の明るさと魔導具の時計から正確な時間を確認する。


 光の届かない海底にあるプロスティア帝国であるが、日中と夜間が地上と同じ時間帯に存在する。

 帝都パトランタを支える全長100キロメートルを超える水晶花の花弁が日中のみ、光を放つからだ。


 ペロムスに掛けた魚Aの召喚獣の覚醒スキル「擬態」はその他のスキルと同じく、1日しか持たず、切れたら人族に戻ってしまう。

 こんな海底で人族に戻ったらあっという間に死んでしまうだろう。


 ルド隊長やドベルグからの話も総合するに、ペロムスは何かに巻き込まれたということだ。


「もしかして、アレン様。魔王軍の手に攫われたということでございますか?」


『恐らくだ。その辺の騎士にやられることはない。まだ生きているようだが、全然見つからない』


(このステータスならイグノマスからだって逃げられるはずだ)


 アレンが、ルド将軍やドベルグに聞いた話と、ペロムスの防御面から推測できることを説明すると、ソフィーが1つの結論を出す。


 生きているのに、宮殿にはいないとなると魔王軍に攫われた。

 それしか考えらなかった。


 シノロムの存在、封印された海の怪物、そして消えてしまった水晶の種。

 今回の一連の動きは、内乱も含めて魔王軍の手によるものの可能性が高い。


 シノロムは魔王軍の手先であった。

 ペロムスを魔王軍が攫う理由はないと思われるが、きっと何かに巻き込まれたのだろう。


 アレンがロザリナの裏工作をしている間に、ペロムスには、水晶の種のありかを探すように頼んでおいた。

 S級ダンジョンに行く前、ペロムスは水晶の種を格納する倉庫を担当する役人に会うと言っていたが、どの役人かまでは聞いていない。

 何人かの役人に声をかけていると、たしかに数時間前、ペロムスに会ったという役人がいた。


 今、アレンがいるのは、その倉庫の中だ。

 荒らされた様子はないし、ペロムスがいないか手掛かりになるようなものは落ちていない。


「それでこれからどうするの? 暴れるなら、私たちも参加するわよ」


 セシルが今後のことを聞く。


『そうだな。しかし、それは最後の手段だ』


(花柱はこれが成長しきった感じか)


 明日の朝9時から歌姫コンテストが始まる。

 夕方には終わる歌姫コンテストだが、既にこの巨大な水晶花は形を変え、花柱を伸ばし終えた。

 1キロメートルの高さにそびえる花柱の上で、コンテストは行われる。


 なお、この帝都パトランタはマリアナ海溝もびっくりの水深100キロメートル以上の深い海の底だ。

 この世界には果てしなく深い海底が海のあちこちに存在する。

 水圧がどうなっているのかはアレンは分からない。


 明日は水晶花が年に1回、水晶の種を放出する日だ。

 花柱は水晶花の花弁よりも輝いているように見える。


「アレン様、私たちはアレン様の決断を尊重します。それでよろしいですね、ラプソニル皇女殿下」


 カルミン王女はラプソニル皇女に確認を取る。


「もちろんです。ですが、プロスティア帝国の臣民には危害が出ないようにお願いします」


 ラプソニル皇女はあくまでもプロスティア家の皇族として、臣民の身が一番大事なようだ。


『ありがとうございます。あれこれ、事後処理が出るかもしれませんが、なるべく迷惑が掛からない形にします』


 そう言って、鳥Gの召喚獣から、今から何が起きるのかの説明をする。


 アレンは倉庫から出ていく。

 目指すはイグノマスのいる宮殿の玉座の間だ。


 イグノマスとの謁見を担当の役人に求めると夕方近くなら問題ないと言われた。


 限界まで召喚獣の枠を空け、魚Dの召喚獣を召喚し、探索を開始する。

 ペロムスに聞こえるよう鳥Fの召喚獣を使い、覚醒スキル「伝令」で呼びかけ続ける。


 そうこうしているうちに謁見の時間になった。

 ペロムスは結局見つからなかった。


「どうしたんだ? アレク。急ぎ伝えたいことがあるということだが? お金が集まったのか?」


 アレンがやってくると玉座にはすでにイグノマスは座っており、用件を催促される。

 相変わらず、皇帝の風格はなく、元平民出なことが伺える。


 その用件に明日歌姫コンテストを控えている中、何事だとアジレイ宰相はけげんな顔をしている。


「も、申し訳ございません。是非、イグノマス皇帝陛下に急ぎ伝えないといけないことがあります」


 アレンは演技でとても差し迫った表情でイグノマスに伝え、そして頭を深々と下げた。

 アレンは知力を極限まで上げ、頭を下げながらも天井近くに潜ませた魚Dの召喚獣を使い、イグノマス、アジレイ宰相の言動をつぶさに観察する。


「それで?」


 用件を早く言えと改めてイグノマスは言う。


「実は、ベク獣王太子がアルバハル獣王国に戻られました」


「な!? それは真か!」


「はい。地上にいる私の同僚がその情報をいち早く私に伝えてきました」


 自分はバウキス帝国の担当だが、アルバハル獣王国の担当の者から急ぎ伝達するように言われた。


「お、おい、そこの者。クレビュールにすぐに確認するのだ!!」


「は! 速やかに」


 アレンの言葉を完全には鵜吞みにしないようだ。

 クレビュール王国に急ぎ、魔導具を使い連絡するように近くにいる役人に言う。


 アジレイ宰相の指示、役人は返事をし、玉座の間から出て行った。


(これはやはり、ベクはプロスティア帝国にいるのか)


 アレンはイグノマスとアジレイ宰相の態度から、姿を見せないベクはやはりプロスティア帝国にいることを知る。

 一応、ベクがプロスティア帝国にいないか、イグノマスに直接確認するため考えていた作戦を敢行した。


 イグノマスとアジレイ宰相の反応を見るために嘘をついたのだ。


 今の態度からもベクはイグノマスたちとつながっているようだ。


 2人の焦りはベクがアルバハル獣王国に戻ったと、これからの地上制覇の予定が変わってくることを意味する。

 ベクがそれでもプロスティア帝国側ならまだよい。

 しかし、もしも、ベクがプロスティア帝国の内情を知りながらも、敵対するのであれば、地上侵攻の難易度は格段に上がる。


 そういった2人の焦りが表情や態度からもはっきりと分かる。

 しばらく待つと確認するよう伝えた騎士が戻ってくる。


「どうであったのか?」


「は! やはりベクがアルバハル獣王国に戻ったのは事実のようです。現在、アルバハル獣王国では、ベクの処遇をどうするのか検討中です」


「……真なのか」


 アジレイ宰相はクレビュールに確認をとった役人の言葉に絶句する。


(ベクが自らの保身のためにプロスティア帝国の情報を売ると考えるのが普通だからな)


 ベクはアルバハル獣王国に戻った。

 内乱を起こした責任を取らされるが、自らの保身のために、これからプロスティア帝国が攻めてくるという情報を交渉材料にすると考えられる。


 なお、プロスティア帝国の役人から魔導具で連絡を受けたクレビュールの役人は、アレンの鳥Gの召喚獣だ。

 そのため、普段プロスティア帝国と連絡をするクレビュールの役人の声色をまねて、アレンが嘘八百を並べ立てた。


 なお、アレンはプロスティア帝国でやり過ぎたときすぐに逃げられるよう、クレビュール王国の王城に鳥Aの召喚獣を使い、「巣」を作成している。


「随分話が違うぞ。シノロム導師はこの話を知ってんのか?」


「申し訳ございません。先ほど、顔を見せました。すぐに事情を説明するように。誰かシノロム導師を呼んでまいるのだ!」


 2人の態度からも焦りが感じられる。


(よし、やはりシノロムがすべて画策していたのか。っていうか、シノロムって宮殿内にいるのか)


 アレンが召喚獣を使いくまなく探したが、シノロムはいなかった。


 今度は騎士たちが一斉に玉座の間からいなくなっていく。

 2人はベクの居場所を知らないが、シノロムは知っているように見える。


 それからしばらく待つと騎士たちが戻ってきた。


「も、申し訳ございません。今はどこにも」


 ぞろぞろと戻ってきた騎士たちが口々にシノロムはいないと言う。


「ぬ? こんな時にどこにおるのだ!!」


 アジレイ宰相がわなわなしながら、戻ってきた騎士に罵声を飛ばす。


「むう。シノロムはいないか」


 考えるのが苦手なのか、どうすんだとイグノマスはアジレイ宰相を見る。


「この件は、私たちだけにして貴族たちには伏せましょう。アレクも良いな!!」


「は! 畏まりました。ちなみにペロニキが朝から姿を見せないのですが」


「ペロニキだと? 今はそんなこと気にする場合ではないだろ!」


 アジレイ宰相に怒られてしまった。


(さて、分かったことと結局分からないことが出てきたな)


 アレンはこれからの行動を考える。


 アレンの知力から2人の表情を先ほどから見ているが、イグノマスとアジレイ宰相はペロムスの行方を知らない。


 しかし、このやり取りで、ベクがイグノマスたちとつながっていたことは分かった。

 そして、裏でシノロムが画策していることもだ。

 そのシノロムが今回のプロスティア帝国とアルバハル獣王国の内乱の計画を立てたと可能性が高い。


 そして、そのシノロムはドベルグの話では、魔王軍の中で研究員をする立場のようだ。


 全てのピースが埋まっているわけではないが、これから起きることを考えなくてはいけない。


「アレクよ。お前は、分かっているな? 俺たちと共にいれば良い思いをさせてやる。頭も回るようだから、これからもよろしく頼むぞ」


 イグノマスから自分らにつけと念を押されてしまった。


「ありがとうございます」


 とりあえず、礼は言っておく。


「そうですね。まずは、明日の歌姫コンテストを成功させねば。ベクやシノロムの件はそのあとでもよいかと」


 アジレイ宰相はとりあえず、プロスティア帝国を1つにするため、歌姫コンテストを成功させようと言う。


「そうだな。明日には俺はラプソニルを妃に迎え、真の皇帝になるのだ」


 そう言って、玉座から立ち上がり、イグノマスが両手を天に掲げる。


(完全に脳筋スタイルだな)


 これ以上の問答は時間が惜しいとアレンは考えた。

 シノロムの行方を2人が追えない以上、ペロムスの行方も分からない可能性が高い。


 アレンは頭を下げ、玉座の間から出て行ったのであった。

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