第210話 魔神レーゼル戦③

 魔神レーゼルは倒せていなかった。

 凶悪な姿に変貌を遂げ、アレン達に向かって歩みを進めてくる。


 アレンはとっさに天の恵みを使い、魔神レーゼルに吹き飛ばされ地に伏したヘルミオスの体力を全快させる。


「開放者になればエクストラスキルを使う必要はない。そういうことだな?」


『ぬ? そうだ。なるほど、今の態度が素の貴様か。騙しておったのだな』


「だましていたのはお互い様だ。魔神の癖に死んだふりをしていやがって」


『ふん。勝てばいいのだ。そうだろう?』


 ヘルミオスのエクストラスキル「神切剣」を受けて、魔神レーゼルは意識を失っていたわけではない。油断を誘い襲おうとしていたようだ。


 しかし、アレンはずっと魔導書を見ながら死亡確認をしていた。


(とどめを刺すって俺が言ったから死んだふりを止めたっぽいな)


 そしてアレンは1つの大きな勘違いに気付いてしまった。

 ノーマルモード、エクストラモード、ヘルモードと、いくつかモードがある。

 そして、エクストラスキルと呼ばれる、ノーマルモードが使える特別なスキルがある。


 疑問が2つあった。

 1つは、何故エクストラモードとエクストラスキルは名前が似ているのかということ。

 もう1つは、何故アレンはエクストラスキルが使えないのかということだ。


 魔神レーゼルの話に全ての答えはあった。


 ノーマルモードはエクストラモードの力を一瞬だけ借りることができる。

 これがエクストラスキルと呼ばれるもので、魔神レーゼルが「エクストラの門」と呼んでいる。そして、開放者とはエクストラモードになった者のことなのだろう。


 エクストラモードなので、エクストラスキルは使えない。

 使う必要がない。


 そして、エクストラモードはエクストラスキルを自由に使うことができるモードのことだ。


 アレンで言えば、高速召喚や指揮化がそれにあたる。


(勇者も、エクストラスキルの使用は、通常の魔力消費、スキルの使用に似ているって言っていたな)


 それは2つ目の疑問点の、アレンがエクストラスキルを使えない理由になる。

 ヘルモードでは成長過程でエクストラスキルと呼んでいたモノと同じレベルのスキルを体得することができる。だからわざわざスキルとは別欄で表示する理由はなかった。


「何千年も生きているのに、子供に騙されるんだな。魔神になると成長が止まるのか?」


『もう良い。時間稼ぎなど。全ては無駄なことだ。死ぬがよい』


(もう少し話をしようとって。おお! 戻って来た!!)


 魔神レーゼルはアレンが無駄話をして時間を稼ごうとしていることに気付いたようだ。

 天の恵みを使い回復したヘルミオスが前線に復帰する。

 

「すまない。皆、行くぞ!」


「「おう!」」


『そう、全ては無駄なことだ。我らが受けた絶望を思い知れ!!』


 クレナとドゴラも応戦するが、凶悪化する前以上に力の差がはっきりする。

 既にクレナとドゴラの攻撃は、避けることも躱すこともやめてしまったようだ。


 魔神レーゼルの体に当たるアダマンタイトの武器はキンっと硬い音がするだけだ。


(やばい、みがわりさせても召喚獣が一瞬で消えてしまう)


 石Cの召喚獣で仲間が受けるダメージを軽減しているが、何体も出してみがわりで仲間のダメージを肩代わりすると、一気に光る泡になって消えてしまう。


(やばい、これは無理だ。やはり神切剣のエクストラスキル以外では魔神に負けていると言っていた通りの結果か。魔神レーゼルも本気を出しているからな。このままじゃ逃げられないぞ)


 ヘルミオスが参戦したが、力が違いすぎてかなり厳しい。

 ヘルミオスの攻撃だけには、魔神レーゼルも防御をするなど反応は示しているが、全く相手にならない。


「ソフィー!」


「は、はい。アレン様」


「すまないが時間がほしい。大精霊を顕現してくれないか」


 攻撃の手数が足りずこのままではじり貧で全滅だ。それを避けるため、アレンはソフィーにエクストラスキル「大精霊顕現」を使うように言う。


 指揮化したBランクの召喚獣より、大精霊の方が圧倒的に強い。

 ここは大精霊が盾になっている隙に逃げ出したい。


「あ、あの。さっきから出そうとしているのですが、ちょっとうまくいかなくて……」


「は?」


「す、すいません。最近こういうことはなかったのですが」


(ふぁ? ここにきて大精霊を出せないとか。居留守か? おい出て来いよ)


 ピンチは重なるときに重なるものだと思う。

 以前はたまにあり、最近はほとんどなくなった、ソフィーのエクストラスキル「大精霊顕現」の不発だ。


「分かった。出せるように頑張ってくれ」


「は、はい」


 ソフィーと会話している間にも戦況はずっと悪くなっていく。

 

 とても重い一撃を必死に堪え戦ってきた、ヘルミオス、クレナ、ドゴラだが、その前線は崩壊寸前だ。

 凶悪化した魔神の相手にはならないようだ。


 前衛の仕事は中衛や後衛を守ること。

 しかし、その前衛の3人がとても相手にならない。


 クレナが吹き飛ばされ、空いた隙に魔神レーゼルが中衛の位置にいるアレンに迫る。


「ミラー防げ!!」


 とっさに指揮化した石Bの召喚獣を、アレンと迫ってくる魔神レーゼルの間に召喚する。


『ネフティラから聞いたぞ。こいつは相手の攻撃をはじくのであったな』


 そう言うと、魔神レーゼルは回り込むようにアレンに迫る。

 魔神レーゼルに完全に石Bの能力が漏れている。拳を腹に叩きこまれる。


「がふっ!」


 血を吐き出し、アレンが地面をバウンドしながら吹き飛ばされていく。


(能力がやはりバレていたか。なんか遠距離攻撃使わないなと思っていたんだ)


 ずっと、魔神レーゼルが、強力な魔法などの遠距離攻撃を使うのをアレンは待っていた。

 しかし、ほぼ魔法を使わず、肉弾戦のみで戦う魔神レーゼルにもしやと思った。

 魔法を跳ね返されるのを警戒していたようだ。


 吹き飛ばされながらも天の恵みで体力を回復する。


 回復している間にクレナが全快し、前線に復帰する。

 しかし、だからといって状況は変わらない。


(さて、決断のし時だな。俺の命と引き換えなら、魔神をここに留めておくくらいはできるだろう)


 アレンは倒れ回復しながらも、命と引き換えにしてでも魔神から仲間を逃がす選択を選ぶ。


 その時だった。

 ドゴラがアレンと同じように、アレンの横に吹き飛ばされてしまった。


「ドゴラ! 大丈夫か!?」


 天の恵みを使いドゴラの体力を全快する。


「ああ、問題ねえ」


「良かった。あれだ。残念だが厳しそうだ。俺が……」


「なんか懐かしいな?」


「ん?」


「開拓村でよ。クレナの体力がとんでもなくて、俺もアレンもへとへとになったよな? こうやってクレナの庭で横になって空を眺めたな……」


 ドゴラがいきなり開拓村の話を始める。

 騎士ごっこに夢中のクレナの相手をしてボロボロになったアレンとドゴラが一緒に開拓村の空を眺めた。


「あ? 何を言っているんだ?」


「アレンはあの時から不思議な奴だと思っていた。すげー奴だったんだよな?」


「だから何を言っているんだ?」


(おいおい、変なフラグを立てるのはやめてくれ)


「俺が時間を稼ぐからその隙に逃げてくれ。村の親父に学園に行ってから一度も帰らずにごめんって言っておいてくれねえか? アレン、約束したからな」


 それだけ言うとドゴラは立ち上がり、クレナとヘルミオスが必死に戦う魔神レーゼルに向かって走り出す。


「お、おい。ドゴラ!!!」


 もうアレンの声も届いていない。


「うああああああああぁぁあ!!!」


 ドゴラは叫びながら全力で魔神レーゼルに向かって走って行く。

 

 もうエクストラスキルがどうとかは、ドゴラの頭から無くなっていた。


 心配していた村にいる親父のことはアレンがしっかり伝えてくれるだろう。今後のことも、未来のことも何もかもドゴラの頭から抜けていく。思考の全てが消え、頭が空っぽになっていく。


 握り締めるアダマンタイトの斧が何だかいつもより軽い。ただただ、魔神レーゼルにこの斧を叩きこむことだけをドゴラは考える。


『ふん、雑魚が、そろそろ死ね』


 人間の玉砕覚悟の叫びを鼻で笑う。突っ込んでくるドゴラに向けて魔神レーゼルが拳を握りしめる。


 魔神レーゼルまであと10歩まで走りを進めたところでドゴラの体に変化が現れる。

 ドゴラの体が陽炎のように屈折し始めた。


「くらええええええあぁぁあ!!!」


『ぬ?』


 あまりの気迫のドゴラに対して右側2本の腕で防御をした。

 防御などしなくても問題がないだろうが念のためだ。


 そして、飛ぶように向かってくるドゴラが全ての力を斧に込め、全身全霊の一撃を繰り出す。


『がは!! ば、馬鹿な!!!』


 魔神レーゼルの凶悪な2本の腕が一瞬で粉砕される。

 さらに袈裟懸けに肩からメリメリとめり込んでいく。残された右側一本の腕で必死に引き抜こうとするが、あまりの威力に引き抜けない。


 さらに深くめり込み、胸にまで届いたドゴラのエクストラスキル「全身全霊」の一撃で、魔神レーゼルが膝を地面に突く。


「死ねえええ!!!」


『雑魚が、調子に乗るな!!』


「ぶはっ!!!」


「「「ドゴラ!!!」」」


 魔神レーゼルが2本失って1本になってしまった右側の腕で手刀を作り、ドゴラの腹を突く。ドゴラが装備しているアダマンタイトの鎧は砕け、爪が背中から突き抜けるまで達する。


 血まみれになって吹き飛ばされるドゴラであった。

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