第575話 霊力回復リング

 キールが6回目の羅神くじでとうとう魔法神イシリスを引いた。

 セシルが体全身で喜ぶ中、天空王が口を開く。


「くじは引き終わったな。下がるがよい」


「はは!!」


 アレンが、喜ぶセシルに代わり返事をする。

 アレンたちは城の中にいくつか設けられた転移装置を利用しながら魔導船の発着場へと向かう。

 魔法神イシリスが、神界人に提供した魔導具のお陰でこんな広く巨大な城でも発着場まであっという間だ。

 今回は、くじの内容によって、ララッパ団長たちが向かう先が変わるので、発着場で待ってもらっていた。


「ルンルンッ」


 セシルはニコニコ顔で笑みを零し、魔法神イシリスの羅神くじを片手で握りしめ、スキップしながら進む。


「喜びが声に出ていますわね……」


「そうだな。キールのお陰だな」


 気持ちが声に出るセシルにソフィーが困惑気味だ。


「おい、アレン、何睨んでるんだ……」


「いや、最後に引いたから、汚名を返上することができなかったからな」


 アレンの視線にキールが困惑気味だ。


「……それにしても、すごい引きだったな」


 ドゴラが、キールの念の全てを込めたとも言える、今回の6回の羅神くじを思い出す。

 セシルのプレッシャーがすごかったのか、はずれは1つもない驚異的な結果となった。


【キールが引いた羅神くじの内容】

・槍神ガイダルク

・薬神ポーション

・獣神ガルム

・風の神ニンリル

・踊神イズノ

・魔法神イシリス


 魔導船の外でララッパ団長も操舵士ピヨンも待ってくれていた。



「ああ、総帥。戻って来たわね。どうだった?」


「無事に魔法神イシリスのくじを引けました」


 アレンは決して「誰が」とは言わない。


「それで、魔法神のとこに行くのか?」


 レペがこれからの予定を聞いてくる。


「そうですね。とりあえず、ララッパ団長はこれを持って、魔法神イシリスの神域を目指してください」


「了解よ。皆、仕事が来たわよ」


「へい!」

「へい!」

「へい!」


 ガララ提督のパーティーもそうだが、ドワーフは人族以上に組織だった行動をすることが多いなと思う。

 点検を済ませて、出発できるよう準備を始めた。


 アレンは仲間たちやレペを見ながら今後の話をする。


「魔法神イシリスの神域にまず行く。次に獣神ガルムのところだな」


「そっか。ついたら起こしてくれや」


 欠伸をするレペは魔導船の中で寝ることにしたようだ。

 船に1人、乗り込んでいく。


「イグノマスは待ってる間に神界闘技場に送るから、槍神のところで修行をしてくれ」


 同じパーティーなので、年上のイグノマスやフォルマールにも敬語不要だ。


「ああ、そうなるな。困ったら呼んでくれ」


 プロスティア帝国へ行った際、掴まれて牢獄にぶち込んだことがあるのだが、イグノマスはパーティーというものを大事にする様だ。

 結構義理堅い性格をしているのかもしれない。

 困ったら助けると言って、槍神の下へ修行に行くと言う。


「俺たちはどうするんだ? 大地の迷宮か?」


 斧神の羅神くじが出なかったので、ドゴラは今一番、神の試練が厳しそうな大地の迷宮に行くぞと言う。


「ドゴラ、とりあえず、神の試練次第だな」


「いよいよ、魔法神イシリス様の試練ね。腕が鳴るわ」


 獣神ガルムのいる原獣の園ではレペを除く十英獣たちやシアが修行をしている。

 ドゴラとキールを大地の迷宮攻略組に入れるのか、このままアレンやセシルに同行させるのか、これから行く神の試練次第だと言う。


 エクストラモードや神の加護などが欲しければ、神の試練を越えなくてはならない。

 笑顔だったセシルの目に気迫が籠った。


(あとはあれから10日近く経っているし、霊石は回収しておくか。そろそろなくなるぞ)




***


 魔導船はすぐに出発し、羅神くじが示す魔法神イシリスの下へ向かった。

 アレンは守主を目指すアビゲイルの下へ向かい、10日ほどで貯めた霊石を回収した。

 船の中の休憩室にニコニコしながら、アレンは転移する。

 転移してきた先には、セシルとソフィーが待っていてくれていた。

 キールはレペ同様に休憩中で、ドゴラは鍛えているようだ。


「あれ? 何か機嫌が良さそうね」


「ああ、既に2つの部族を取りまとめているみたいだな。10万個も霊石が回収できたぞ。これでさらに創生スキルが捗るぜ」


(1日で集めることができる霊石が順調に増えていってるな)


 創生スキルのスキルレベルを上げるためには、膨大な量の霊石と霊力が必要だ。


 また、10日ほど前、神域で手に入れた島ほどある大岩を提供しまくって、販売を依頼していた竜人族の族長ソメイは既に岩の販売と部族の統合に動き始めていた。


 既に9つある竜人の部族のうち2つの部族を従えることに成功していた。


 アレンは族長ソメイに仕える守人長アビゲイルに対して、武器、防具、魔法具を貸し与え、人間世界での転職まで協力した。そのお陰で、岩を提供する前から竜人の中で一目を置かれる存在になっていたのかもしれない。


 アレンは気付かなかったが、族長ソメイを取り巻く噂が既に広まりつつあったのかもしれない。

 種族をまとめ上げ、組織が巨大になった族長ソメイと守人長アビゲイルは、全力でアレンのために霊石の収集に当たってくれていた。


 アレンは自らの魔王軍打倒のためにしたことなのだが、思いのほか竜人たちは感謝があるようだ。

 霊石収集に時間を掛けてくれている。


 アレンは自らの分析を魔導書に記録している。

 改めて、創生スキルに必要なものを確認する。


【スキル経験値と創生スキルレベルで創生可能な召喚獣】

・スキル経験値なしとスキルレベル1で、鳥Hの召喚獣を創生可能

・スキル経験値1万とスキルレベル2で、草Gの召喚獣を創生可能

・スキル経験値10万とスキルレベル3で、石Fの召喚獣を創生可能

・スキル経験値100万とスキルレベル4で、魚Eの召喚獣を創生可能

・スキル経験値1000万とスキルレベル5で、霊Dの召喚獣を創生可能

・スキル経験値1億とスキルレベル6で、竜Cの召喚獣を創生可能

・スキル経験値10億とスキルレベル7で、天使Bの召喚獣を創生可能

・スキル経験値100億とスキルレベル8で、【-】Aの召喚獣を創生可能


【霊石と草Fの召喚獣と霊力回復の関係】

・霊石2個で、霊力2000消費し、霊力1000回復する草Fの召喚獣の特技

・霊石1個で、霊力1000消費し、霊力500回復可能

・霊石2個で、霊力が秒間100回復する草Fの召喚獣の覚醒スキル「旬の味覚」を創生可能

・草Fの召喚獣の覚醒スキル「旬の味覚」で1時間に霊力36万回復

・草Fの召喚獣の覚醒スキル「旬の味覚」で1日15時間創生スキル上げに時間を掛けたら霊力540万回復


【ソフィーの神技「生命の泉」と霊力回復の関係】

・神技「生命の泉」で1時間に霊力360万回復(秒間1000回復)

・神技「生命の泉」は神技「精霊神の祝福」を使用し、1日2回~5回使用可能(装備品によるクールタイム削減効果による回数幅あり)


【霊力が無限の場合、スキル経験値と霊石の関係】

・スキルレベル4までスキル経験値100万必要なので、霊石1000個必要

・スキルレベル5までスキル経験値1000万必要なので、霊石1万個必要

・スキルレベル6までスキル経験値1億必要なので、霊石10万個必要

・スキルレベル7までスキル経験値10億必要なので、霊石100万個必要

・スキルレベル8までスキル経験値100億必要なので、霊石1000万個必要


【霊力と創生スキル経験値の関係】

・霊力で召喚スキル全て使用可能

・創生スキルは霊力のみで発動可能

・創生スキルは創生スキルを使用しないとスキル経験値は増えない



(霊力も霊石も足りなすぎなんだが。さらに言うと時間も足りひん。後くじ運も。まずはくじ運よこせ)


 神界まで来て農奴時代の魔石がない、魔力が足りない、の頃と同様の思いをするなんて思ってもみなかった。


『終わらない世界を』


 アレンは前世で健一だったころ、こんなキャッチコピーをインターネット上のサイトで発見して世界にやってきたのだが、今のところやりつくしたと思えたことは一度もない。


 どこに行っても、何を覚えても、更なる願望とも試練とも言うべき挑戦がアレンを待っていた。


「霊石がたくさん入ったからスキル上げを頑張るぞ。手伝ってくれ」


「ええ、もちろんよ」


「アレン様、畏まりましたわ」


 アレンの言葉にセシルとソフィーが返事をする。

 部屋の中央に魔導書から出した土を引いて、草Gの召喚獣を同時に10体創生する。


「精霊神の祝福を……。生命の泉も発動させます」


 朝起きて発動してくれたソフィーが、クールタイムが終わったため、本日2度目の神技を発動してくれる。


 お陰で最大霊力も霊力自然回復も進むので、10個のうち5個だけセシルが魔導書に収納していく。


 こうやって、霊石だけでスキル経験値を稼ぐのに必要な霊石は膨大になるのだが、ソフィーのお陰で数は半分で済みそうだ。


「でも、これじゃあ、まだまだスキルレベルが上げきるのって厳しいんじゃないの」


「そうだな。皆が霊石を集めてくれたおかげで新しい召喚獣が開放されたんだが、それ以上はかなり厳しくなってきたな」


 アビゲイルやメルルたちがアレンのために霊石の収集を急いでいる。

 お陰で神界に来て魚Eの召喚獣を開放することができた。

 あれこれ分析は進めているので、今度実戦で試してみようと思う。


 創生のスキルレベルを5にするには、スキル経験値が1000万必要だ。

 アレン軍による大量の魔石集めができる地上とは違い、霊力が全回復する薬もなく、霊石が本当に足りない。

 それ以上に、霊力の回復手段が少なく、全霊力に比べて、回復量がとても少ない。


「あれ、消費霊力を下げてくれる装備とかあったら便利じゃない。あとは2回発動とか」


「セシル、消費霊力を下げても、貰えるスキル経験値が減っては意味がないんだ」


 地上のダンジョンでは稀に魔力を抑える指輪なども手に入った。

 アレンたちが活用していないのは、スキル経験値がその分減ってしまうからだ。

 それなのに貴重な装備枠を1つ埋めてしまう。

 長期戦などの戦いでは役に立つが、経験値稼ぎでは不向きだと言う。


「なるほどね。じゃあ、魔法神イシリス様が何とかできるかもしれないわね」


「そういうことだ。目指すは霊力回復リングだ」


(俺にも魔法神に会う理由があるってことだな)


【魔法神イシリスにお願いしたいリスト】

・霊力回復リング

・最大霊力が上がる魔法具

・全霊力回復薬


 アレンは念を込めて、魔導書に欲しいものをメモする。

 こういう、妄想を膨らませメモすることも、前世でのゲームで楽しかった時期かもしれない。


「もう、あれこれ言って、魔法神様を怒らせないようにね」


 セシルは変わらないアレンに呆れるのであった。

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