第186話 ラポルカ要塞攻略①

「これで全員ですか?」


「うむ、アレン殿の言うとおりにしたぞ」


 今は100万体の魔獣の軍勢とティアモで攻防をしてから4日目の朝だ。

 アレン達はティアモの街の外壁の外で、兵や将軍達と一緒にいる。


 今日はこれからラポルカ要塞の攻略に向かう。


 この3日間の霊Bの召喚獣による潜入活動により、アレンは魔王軍の予備隊がやって来ることを知った。

 どうやら400万体全軍投入されるようだ。

 ネストの街への海洋からの襲撃と、ローゼンヘイム大陸北からの挟み撃ち作戦が、これから敢行される。既にネストの街に向けて海洋を進軍していると言う。


 南北から挟み込む形で、北からの襲撃にティアモの街が耐えられないかもしれない。そんな中でのネストの街の防衛戦はさらに難しい。急いでラポルカ要塞を攻略しなくてはいけない状況であることを知った。


 ローゼンヘイムに来てからの個別の戦いには勝ってはいるが、戦いのペースは、依然圧倒的な数の違いと作戦の早さにより、魔王軍側に握られているとアレンは感じる。


 将軍達からは事前に、20万の軍勢を用意するのに5日、それから進軍してラポルカ要塞に到着するのに10日かかると聞いたが、どうもそれでは間に合わない。


 到着してからも、ラポルカ要塞を攻略し、要塞としての機能を取り戻すにも日数が掛かる。その間に魔王軍に攻められておしまいだ。


 兵達が慌ただしく動く中、アレンは将軍に兵達の構成を確認する。

 兵達はアレンの前に隊列を組んで待っているわけではない。


「総勢で5万ですね? 弓豪と精霊魔導士は何人くらいでしょうか?」


「そうだ。総勢5万で、弓豪は3700人、精霊魔導士は3900人ほどだ」


(ふむふむ、星2の弓と魔法はローゼンヘイムに7600人ほどいるってことか)


 アレンはティアモを守った日から、30万のエルフの軍勢をティアモに結集し、進軍するまでに5日かかると言われた。守った日からの数え方なら、6日目に進軍できると言うことだ。


 その日程だと時間がかかりすぎるので、5万人でいいので3日で進軍できるようにしてほしい。それまでに露払いをしておくと将軍達に伝えた。


 「たった5万でラポルカを落とすと言うことか!」と言われたので「そうです」と答えた。


 露払いとは、ティアモの街から逃げて行った20万の軍勢を狩るという話だ。

 完全に四散した魔獣を狩ることは厳しかったが、18万体ほどの魔獣を3日で狩った。エルフの斥候部隊に魔石の回収をお願いし、殲滅を優先したおかげでほとんど狩ることができた。


「では、我も魔導船に乗り込むとしよう。アレン殿、先導をお願いする」


「はい」


 そう言うと将軍達も、兵達が乗り込んだ魔導船に乗り込む。


 アレン達を残して、5万人のエルフの兵達が11機の魔導船に乗り込んだ。

 

 最初の将軍の話では陸路を進軍するという話であったが、ラポルカ要塞ぎりぎりまで魔導船で移動して、1日ほど進軍して攻略することにした。これなら魔導船での移動に丸2日もかからない。そこから陸路で移動するなら、ティアモの街から出発して3日もあれば要塞に着く。


 1機に5000人は乗れるので、10機あれば兵達を全員乗せられる。1機分多い理由は、兵糧や武器など野戦を想定した兵站を支える物資がぎっしり詰められているからだ。


「よし、俺たちも行こう」


「「「おう!」」」


 鳥Bの召喚獣に跨って、アレン達は魔導船軍を先導する形で前に進んでいく。


「フォルマール、頑張ってね」


「分かった」


 一番前を飛ぶアレンと一緒に乗るのはフォルマールだ。


 鳥Bの召喚獣を2人乗りしているのだが、フォルマールを前に座らせている。アレン自身は天の恵みを生成中だ。時々鳥Eの召喚獣の覚醒スキル「千里眼」を使い、半径100キロメートル以内に魔獣がいないか確認する。


「右前方下に目玉蝙蝠がいるから射抜いて」


「分かった」


 フォルマールは淡々と返事をする。スキルを使い、1キロメートル離れたところから索敵用の目玉蝙蝠を倒す。


 魔導船が脅威であることは魔王軍も認識しているため、優先して落としにかかると聞いた。魔導船が落とされてしまえば、数千人の兵も、貴重な物資も、そしてとても貴重な魔導船そのものも失ってしまう。


 なお、この100機以上ある魔導船のほとんどは、ギアムート帝国からエルフの部隊の派遣料として頂戴したと聞いている。命の危険のある中央大陸北部の前線に数百人のエルフを派遣するのは、ただでは済まない。


 索敵用の目玉蝙蝠を倒し、空に飛んでくる魔獣も狩りながら前進をしていく。


(やはり、超長距離の攻撃はフォルマールが一番だな。セシルの射程距離の数倍はあるしな)


 【名 前】 フォルマール

 【年 齢】 68

 【職 業】 弓使い

 【レベル】 60

 【体 力】 1322

 【魔 力】 716+1000

 【攻撃力】 1730+1600

 【耐久力】 1140

 【素早さ】 727+600

 【知 力】 482

 【幸 運】 783

 【スキル】 弓使〈6〉、遠目〈6〉、遠的〈6〉、強弓〈6〉、必中矢〈6〉、足踏〈2〉、弓術〈6〉


 【エクストラ】 光の矢


・スキルレベル

 【弓 使】 6

 【遠 目】 6

 【遠 的】 6

 【強 弓】 6

 【必中矢】 6


 指輪は魔力+1000、攻撃力+1000を装備している。


 弓使いには「遠目」というスキルがあり、かなり目が良い。

 魔導船に乗った弓使い達も遠目を使って、自軍の魔導船の護衛に当たっている。


「やはり、落とした街にいる魔獣は攻めてこないみたいだな」


「そうなのか?」


「ああ、少し寄って来ているから近づいてきたら撃ち落として」


 ティアモの街とラポルカ要塞の間には、いくつか魔王軍に落とされた街がある。わざわざ近くを通ったりしないが、それでも特に反応がないようだ。魔獣達も落とした街の守りに徹しているように感じる。

 警戒をしつつ、貴重な魔導船が墜落してもたまらないので、落とされた街の魔王軍を刺激しないように少し距離を取って進んでいく。



(さて、飛んでくる敵は、帰りのために狩っておかないとな)


「アレン殿」


「ん?」


 アレンが、魔導船の安全確保のために鳥Eの召喚獣を使って索敵をしていると、前に座っているフォルマールから振り向かずに声が掛かる。


「アレン殿はローゼンヘイムをどうするおつもりか?」


「え? 魔王軍を全て倒すつもりだけど?」


「いや、その後だ。それだけの力を持っているのだ。これからどうするつもりなのかという話だ。ぜひ聞いておきたい」


(ん? 何か重たい話なのか?)


「ん? あれ? 聞いていなかった?」


「ん? 何の話だ?」


「たしかフォルマールがいた時に学園都市でも話したと思うんだけど。次は、バウキス帝国のS級ダンジョンに行くよ。もちろんフォルマールもだぞ」


(貴重な超遠距離攻撃スキル持ちの上に星4つが約束されているんだからな。ローゼンヘイムに残りたいかもしれないが、今後も付き合ってもらうぞ)


「……そうだったな」


 フォルマールもアレンと一緒にいて10ヵ月以上になる。ずっと同じ拠点で寝食を共にしてきている。考えられない速度でダンジョンを攻略し、そして10日かそこらでローゼンヘイムに対する魔王軍の侵攻を止めて見せた。


 フォルマールは、アレンが今後、ローゼンヘイムをどうするのか聞いておきたかった。しかし、問いの答えは落ち着いて考えれば分かることであった。アレンはこういう奴だったなと思い至り、自らの問いを反省するフォルマールであった。


 フォルマールがどうしても2人きりの時に聞きたいことがあったようで、その後もいくつか思い出したかのようにポツリポツリ語りだす。意思疎通が足りなかったなとアレンは反省をする。パーティーリーダーとして、もう少し仲間とコミュニケーションを取っていこうと思った。


 そして翌日の昼頃、無事予定のラポルカ要塞まで移動距離1日分手前のところに到着する。ここは敵に落とされた要塞の近くなので、兵も物資も速やかに降ろされる。


「えっと、セシルはここから北東に少し行ったところに1万の軍勢がいるからプチメテオお願い」


「分かったわ。アレンは来ないのよね」


「ああ、魔導船が無事ティアモの街に戻るまでは確認するよ」


 将軍達やアレンの仲間が見つめる中、アレンは地面に置いた地図に印をつけていく。鳥Eの召喚獣で半径100キロメートルの範囲にどれだけの軍がいるか確認した。ラポルカの要塞外に4つほどの集団を発見する。


 大体1~3万の部隊を複数待機させているようだ。ラポルカ要塞を攻略するのに集中したいので、セシルに今日の分の小隕石をお願いする。


 一部の兵を残してほとんどの兵と物資を下した魔導船が、ティアモの街に帰っていく。アレンとフォルマールは付いて行く形だ。


 無事ティアモに到着できるように護送する予定だ。


 そして、翌日の深夜、アレン達は鳥Bの召喚獣の覚醒スキル「天駆」を使い、ラポルカ要塞近くまで行軍したエルフの軍隊に合流するのである。


 夜が明けた次の日、ラポルカ要塞攻略が始まるのであった。

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