第187話 ラポルカ要塞攻略②

 アレンがフォルマールと共にエルフの軍と合流できた次の日の朝。


「全軍前に進め!!」


「「「は!!!」」」


 早朝から準備を始めたエルフの軍は、9時前には隊列を組み進軍を始めた。


 目指す先はラポルカ要塞だ。既に前日の行軍で、わずかに視界に捉えられるところまで近づいている。


(下から見ると結構な切り立った山だな。山は岩盤で出来ているのか? まさに天然の要塞だ。これは必ず奪還しないとな)


 今回の行軍で、アレン達は最後尾にいる。


 このラポルカ要塞がある場所は、2つの切り立った山が中腹で合わさるような形をしている。そして、その中腹に作られた巨大な要塞がラポルカ要塞だ。自然環境も合わさり、かなり強固になっている。

 出入り口となる大きな門は南北の2つしかなく、当然のごとく現在は固く閉ざれている。


 山道の道幅はそれなりにあるので、相応の列数の縦隊を組んで行軍する。


(おお、かなり近づいてきたな)


 行軍していくと、最後尾にいるアレンにも、ティアモの街の3倍に達する巨大な外壁の全容が見えてくる。

 外壁の上では、魔獣達がひっきりなしに移動しているが、まだまだ米粒のようだ。


 ズウウウン


 ズウウウン


 石Bの召喚獣の行軍中の足音が響く。アレンがラポルカ要塞の外壁を見るのも、魔獣を見るのも、先頭を往く石Bの召喚獣たちの隙間からだ。


 今回、エルフ軍の最前列には1列4体の石Bの召喚獣を2列行軍させた。

 2列の8体を、エルフの軍隊が十分に外壁に近づくために盾とする。


 10メートルに達するその巨大な石Bの召喚獣に、エルフ達が一瞬驚いたがすぐに受け入れたようだ。その理由は、これまでの攻防戦の勝利について聞いているからかもしれない。アレンの召喚獣についても話を聞いていたのだろう。もしくは、守るべき国と女王陛下のためなら些細なことだと判断したのかもしれない。


(開けたところに出てきたな)


 ラポルカ要塞は、2つの山の中腹の少し開けたところに鎮座している。


 山道から外壁周りの開けた場所に出た兵達は、隊を広げながら進軍を続ける。石Bの召喚獣も8体が横1列に変わるが、まだ外壁の上にいる魔獣達は攻めて来ないようだ。


「アレン、まだ攻めて来ないわね」


「ああ、セシル。魔王軍的にここで攻めても旨味がないんだろう。もう少しお互い近づかないとな」


 ノーマルモードの1つ星であっても、レベルもスキルもカンストすれば、エルフの弓の射程距離は1キロメートルに達する。当然、弓を使える魔獣の射程距離もその程度はある。


 しかし、距離が近づけば近づくほど、当然威力も命中率も上がる。まだ十分な距離がある時点で、お互いに攻撃は開始しなかった。


 それから更に進軍したところで、外壁の上で銅鑼のようなものが鳴る。

 外壁まで100メートルのところで、外壁の上の魔獣達が一斉に矢を構えた。


 100メートルも離れているため分かりづらいが、ここにいるのは全てBランクの魔獣であり、外壁上の骸骨の姿をした魔獣は大の大人の数倍の巨体だ。矢のサイズも人の身長より長い。


 魔王軍は、エルフの部隊が十分に準備を整える前に攻撃を開始する。


 爆音とともに魔獣の弓隊が巨大な矢を放ち、その後方から火の玉が飛んで来る。

 石Bの召喚獣が必死に盾を使い防御する。


「精霊魔導士と精霊魔法使いは防御のため、石壁を作れ!」


「「「は!!!」」」


 石Bの召喚獣は不死ではない。やられたら消えるし、石Bの召喚獣を避けるように山なりに攻撃されたら、エルフにも攻撃が届く。また、エルフの軍隊側が攻められるように、それなりに間をあけて立っている。兵たちは守りを固めるため、何層にも渡って防御の壁を生成する。


「我らも攻撃をするのだ、我らの要塞を奪った魔獣共を打ち滅ぼせ!」


「「「は!!!」」」


 弓部隊も魔法部隊も一斉に攻撃を開始する。

 外壁はエルフ用のサイズで作ってあるため、魔獣には小さすぎるようだ。標的が大きくはみ出しているので、必死に狙い攻撃をしていく。また、こちらも山なりの攻撃を行い、外壁の後ろの部隊にも攻撃をする。

 エルフの兵は魔力を温存せずに、スキルや魔法を使う。魔力を消費し全力で攻めるのに十分な数の天の恵みを作り、エルフ側に渡している。


 外壁の後ろについては、アレンが鳥Eの召喚獣を使い、どこにどの程度の魔獣がいるか逐一報告する。その情報は、図面を使い将軍達に速やかに伝えられていく。目に見える以上の情報をエルフ軍側に提供をしていく。


 当然、索敵の目玉蝙蝠は最優先で撃ち落としていく。

 目玉蝙蝠だけは1キロメートル以内に入った時点で、どんなに遠くても最優先で攻撃させる。


(この要塞には既に30万体の魔獣がいるからな。1日で魔獣の数を3倍にするとか行動早すぎなんですけど)


 アレンはラポルカ要塞に潜入させた霊Bの召喚獣から得た情報を整理する。


 このラポルカ要塞には現在30万体の魔獣がいる。昨日まで10万だったのだが、エルフの進軍について魔王軍がいち早く情報を聞きつけたようだ。要塞を挟んで南北に数万単位で無数に配置していた部隊が援軍となって参集した結果、1日で前日の3倍の数になった。お陰で城壁の上は夥しい数の魔獣で埋め尽くされている。


(なんで、攻められている側の要塞に十分な数の兵がいるんだよ)


「弩が来るぞ! 皆防御壁に身を隠せ!!!」


「「「は!!!!」」」


 アレンの考えを余所に、戦場の様相は変わり続ける。

 外壁の上に巨大な弩が配置される。


 これはエルフ達が対大型魔獣用に配備したものだ。魔獣達は奪った武器もしっかり活用をするようだ。


 爆音とともに大きな矢が放たれる。


(ミラー、全反射しろ!)


『……』


 無言で石Bの召喚獣は丸い光沢のある盾を掲げる。


 狙われた石Bの召喚獣の盾に矢の衝撃が伝わる。しかし、威力は一気に殺されていく。

 完全に勢いを失った、鏃がつぶれた矢が石Bの召喚獣の前にドスンと落ちる。そして、


 ドオオオオオオオン!


 ダメージは石Bの召喚獣の盾が全て吸収し3倍の威力になって広い範囲に光る衝撃波となって弾き返す。


 石Bの召喚獣は特技が「反射」、覚醒スキルは「全反射」だ。敵の攻撃を受け、2つのカウンター技を同時発動したのだ。

 特技「反射」は耐久力を補助も込みで2倍にする。そして、受けたダメージと同じダメージを攻撃した相手に弾き返す。


 覚醒スキル「全反射」は耐久力を補助込みで3倍にする。そして、受けたダメージを3倍にして、そのダメージを前方の広範囲に弾き返す。クールタイムは1日だ。


 特技、覚醒スキル共に、石Bの召喚獣の体力がなくなり倒されてしまったら発動しない。


(相変わらずの威力だな。数百体は倒したかなって。これでも外壁は無傷と)


 威力3倍にした攻撃を分散して弾き返すのではない。全ての範囲に3倍の威力をまき散らすので、外壁の上にいた魔獣達が吹き飛んでいく。


 しかし、アレンはその下の魔獣達が乗る外壁に注目をする。

 弩の3倍の威力は外壁にも及ぶのだが、鳥Eの召喚獣で確認しても、壊れたところなどなく頑強そのものだ。


 アレンは、ローゼンヘイムにやって来て、街や要塞がどうやってできたかの話をソフィーから聞いたことを思い出す。


 ローゼンヘイムには1000年に1度、大精霊使いが誕生する。土の精霊の力を借りて、数々の城壁や街の外壁、要塞を作ったと言われている。

 大精霊使いの力は絶大で、作られた外壁は風化することもなく強固なまま在り続けると教えてくれた。


 魔王軍は今回の戦争で、最北の要塞を攻め落としたが、要塞の外壁はほとんど無傷であると言う。外壁は壊せないので、数の暴力で乗り越えてきた。


(これなら北部からやってくる魔王軍の予備兵と戦えるか。ってもうこんな時間か)


 昼になり、日が最も高い位置にある。魔導具で時間を確認すると12時を少し回ったところだ。


「あ、あの。アレン殿、やはりこの人数では無理であったと。一時作戦を再検討せぬか?」


 ネストの街でも会ったルキドラール大将軍が、アレンの顔色を窺いつつ、作戦の変更を進言する。


 前世における攻城戦では、攻めは守りの3倍の兵力がいるという話がある。この異世界においても守りの方が優位であるということは常識だ。


 5万の軍勢で30万体もの魔獣が守る鉄壁の要塞を攻め落とすのは、あまりにも無謀ではという意見は、目の前の光景を見れば当然だ。


「ルキドラール大将軍。いえ、全く問題ありません。少し魔獣が増えて驚きましたが予定どおりです。このまま夕方前まで攻めて、出発した位置に戻って来てください」


(心配させてしまっているな。確認事項が完全に埋まっていないしな。夕方には作戦の全容を伝えるから許してほしい)


 将軍達にも、女王にも、短期間でラポルカ要塞を落とせるとしか伝えていない。

 それでも信じて5万の軍を出したのは、アレンが誰にもできない実績を上げ続けているからだ。


「わ、分かった」


 アレンは当たり前のように作戦続行を伝える。


「ああ、それから前日から伝えているとおり、エクストラスキルを使わないよう言い含めておいてください。勝利は間もなくです」


「そ、そうなのだな? 我らは勝てるのだな?」


「当然です。ここで勝たねばローゼンヘイムに未来はありません」


 ルキドラール大将軍は答えを求めるようにソフィーを見てしまう。

 彼女はアレンの言うことを聞くようにと言う意味を込めて強く頷いた。

 アレンの仲間達は、誰もがアレンの言葉と勝利を疑っていない、そんな眼差しであった。

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