第188話 ラポルカ要塞攻略③
アレンはエルフの将軍に「ここでの戦いはよろしくお願いします」と伝えて、仲間達と共にやってきた山道を戻っていく。
(さて、進軍から丸1日たったからな。ラポルカ要塞の北も南もしっかり動き始めたな)
鳥Eの召喚獣には、辺りの状況をこれまで以上に把握させている。
まずラポルカ要塞の南であるが、意図的に放置し魔王軍に占拠されている街からぞろぞろ魔獣が出てきており、塊になりつつある。これはきっと要塞の外壁を利用し、南から攻めるエルフ軍を後方から挟み撃ちにするためだろう。
そして、要塞の北では、1日中に参集できる範囲にいた魔獣は既に要塞に入城している。その上、さらに広範囲の魔獣が結集しつつある。
北も南も、あと数日あればラポルカ要塞に至りそうだ。
(相変わらず行動が早いな。しかし、魔族共は前線に出てこないと)
霊Bの召喚獣は、現在もラポルカ要塞内の大きな建物に潜伏しているが、3体の魔族が前線に出てきそうな会話や雰囲気は未だにない。
「魔王軍は相変わらず動きが早いぞ。今のところ、予想の範疇に収まってくれているがな」
「そう、分かったわ」
山道を歩きながら、アレンは仲間達に状況を伝える。
(お、あったあった。結構戻ってきたが逆に丁度いいか?)
「セシル、フォルマールは周囲を警戒。目玉蝙蝠が出たら打ち落としてくれ」
「分かったわ」
「分かった」
(よし、モグスケよ。お前の出番だ!)
アレンは中型犬くらいの大きさモグラの見た目をした獣Gの召喚獣を出す。
言葉を話せないが、役目がやって来てどこか嬉しそうだ。
「この子に掘らせるんだ。でもアレン、ここの地面硬いよ?」
仲間達には、地面から穴を掘って通路を作り、ラポルカ要塞を攻略すると伝えてある。
エルフ達には、情報が漏れたら作戦が無に帰すので、ギリギリまで黙っていた。
(地面が固いか)
この山は土や腐葉土はほとんどなく、山肌は岩盤質でとても硬い。クレナはこんなに硬くて穴が掘れるのか疑問を持つ。
「モグスケ、穴を掘れ」
『……』
獣Gの召喚獣は、一瞬アレンを見たが、特技「穴を掘る」を使い指定された大岩の近くの岩盤を掘り起こそうとする。しかし、ガリガリいって掘り返せない。
覚醒スキル「穴で暮す」を使っても、岩盤が固すぎで同じのようだ。
「ほら、無理だよ。アレン」
「クレナ、このモグスケの特技は『穴を掘る』だ。別に土の地面で穴を掘るなんて、魔導書には一切書かれていないぞ。勝手にスキルの効果を狭めちゃいけないぞ」
「え?」
そういうと、アレンは獣Gの召喚獣を強化した。攻撃力が1000増えた獣Gの召喚獣の手に生えた大きな爪に力がこもる。ガリガリとものすごい勢いで穴を掘り始めた。削除と生成を繰り返し、クールタイム1日の覚醒スキル「穴に暮す」に変え、穴掘りの速度を加速させていく。
「すごい」
「書かれていないことをできないと思ってはいけない。それだと、いつまでたってもできない」
「うん」
アレンがそこまで言えば、何が言いたいのかクレナも分かったようだ。
クレナのエクストラスキル「限界突破」を発動すると通常攻撃のみになるなんて、どこにも書かれていない。それは自身が制限を掛けているだけだという話だ。
「まあ、俺はまず書かれていることをやるところからだけどな」
穴の後ろをついて行きながら、パーティーで唯一エクストラスキルを使用できていないドゴラが呟いた。
「そうだな。まずは、『理』を知ることだ。その後、『伸びしろ』を求めることが大事だな」
「理と伸びしろか」
アレンは学園にいたとき、皆にスキルやレベルやステータスについて説いてきた。
それら理を知ることで、最も効率よく強くなれるからだ。
しかし、理に留まればそこで成長は止まる。ルールに書かれていない伸びしろは常に求めることが大事だ。ルールすら疑った先に成長の伸びしろがある。
「ドゴラ。俺の能力はこれだ。モグスケに穴を掘らせることだ。まずは、自分の能力を知ることだな」
「俺の能力か」
そう言ってドゴラは、穴を掘り進めさせるアレンの背中を見つめる。
その後も獣Gの召喚獣にどんどん穴を掘り進めさせ、時に魚Bの召喚獣に位置確認をさせながら、目的位置まで掘り進めていく。今日の戦いで、魔獣達が要塞のどこに集まるのかも分かった。攻防戦中の魔王軍の陣形を知ったので、要塞のどこに出て行けばいいかも見当をつけてある。
そして、十分に穴を掘り、あと少しで要塞内に貫通するというところで止める。
続きは明日、決戦に挑むときだ。
そうこうしていると、大軍が歩く音が聞こえてくる。まもなく日が暮れる夕方なので、両軍とも今日の戦いを終えたようだ。
アレン達は、日が落ちてから将軍達を集めた。幕を張り、かがり火がたかれる。
皆がラポルカ要塞とその南北まで抑えた簡易な模型を見つめる中、アレンはラポルカ攻略に向けた話をする。
「なるほど、そういう作戦であったか。まさか、2日でラポルカ要塞を落とすつもりであったとはな」
「はい、ルキドラール大将軍。作戦が完遂できるかも含めて未知数でありましたが、本日目途が立ちました」
魔王軍の動きがとても速い中、今回は作戦の全容が漏れないように黙っていた。
ギリギリまで作戦を伝えないことを将軍達も知っている。そして、王女であるソフィーにはある程度の作戦が伝わっていることも察している。
女王も将軍達も、ソフィーが反対しない作戦であるならと、無理をして作戦の全容を聞くことなく5万の軍を動かした。
「この作戦にもし失敗すれば、ローゼンヘイムの未来が終わるかも知れぬと」
「そうです。だから、最終的な決定は大将軍に行っていただきたいです」
「うぬ」
ネストの街から最前線にやって来たルキドラールは、最北の要塞の最高指揮官だった。
敗戦し、自らも戦闘不能の負傷を負ったため、ネストの街まで下がっていた。
天の恵みで完治したので、最前線まで復帰してきた。
「あと、ラポルカ要塞の南北の動きについてもお伝えします」
夕方までの動きを確認すると、あと3日もあれば、北からは要塞に援軍が、南からは挟撃に魔王軍がやってくると言う。
「厳しい戦いであるな」
「この戦争は最初から厳しかったです。しかし、私としては無理すべきところでもあると思います」
このまま正攻法で魔獣の数を削りながら、魔王軍と長期戦で戦う方法もある。
南からの魔王軍からの挟み撃ちについても、山道まで戻れば守りながら戦うこともできる。さらにティアモの街からの援軍もまだまだ出せる状況でもある。
しかし、長期戦になると400万の予備部隊に対抗できない。
(予備部隊400万体の魔獣を一気に動かすとは思っても見なかったぞ。そんなにローゼンヘイムが欲しいかね)
魔王軍は、北からの陸路で300万、南からは海路でネストの街に100万の軍勢で攻めてくることを、ラポルカ要塞に待機している霊Bの召喚獣を使い察知することができた。
ラポルカ要塞攻略に時間はそこまで残されていない。魔王軍も時間を稼げば勝てる状況なので、なりふり構わず辺りから少しでも多くの魔獣を集めている。
このような魔王軍予備部隊の動きについては、既に将軍達と共有済みだ。
「はは、これはまさに完全に詰められた状況であるな。しかし、選択の余地はないと。アレン殿」
「はい」
「我らはアレン殿の作戦に従わせてもらう。明日、ラポルカ要塞を落とそうぞ」
「ありがとうございます。では、詳しい作戦をお伝えします。まず、魔王軍の配置と潜入経路ですが……」
アレン達と将軍とで、夜遅くまで作戦の調整が行われた。エルフの部隊の特性と強み弱みは、将軍の方が良く知っている。
そして、翌朝になった。
(ふむふむ。倒せた魔獣は1万体と言ったところか)
目が覚め、アレンは2日連続で行った召喚獣による夜襲の戦果を確認する。
将軍との作戦中もそうだが、ずっと召喚獣を召喚し、要塞を攻め続けている。
起きている間は被害に応じて増援を出しているが、寝ている間はやられたら減ったままだ。
支度をしていると、アレンよりかなり早く起きた兵達が、既に隊列を組み始めている。
「それではアレン殿、よろしくお願いする」
将軍の1人が挨拶してくる。
「こちらこそよろしくお願いします。定刻通り出発しましょう」
「あい分かった」
ゆっくり準備をしてほしいと将軍は言う。アレンが睡眠時間すら削ってローゼンヘイムのために戦ってくれていることは分かっているつもりだ。決して急かしたりはしない。
仲間達と最後の連携の話をしながら朝食を済ませる。
(太陽の位置はこんなものか)
太陽の位置を確認し、正確な時間を魔導具で確認する。
「それでは、今日こそラポルカ要塞を奪還するぞ!!!」
「「「おおお!」」」
数万の軍勢が昨日と同じ時間に出発を始める。
しかし、5000人ほどのエルフは出発地点に待機したままだ。
指揮官が隊列を整理している。
彼らはアレンと共に行動する別動隊だ。
こうしてラポルカ要塞攻略2日目に突入するのであった。
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