第709話 獣神無限爆散拳
十万を超えるステータスの世界で、5秒以内に次の攻撃をしないとコンボの判定は継続しない。
圧倒的なステータスの中で戦いは進んでいく。
アレンたちが100連コンボを達成した時、霊獣ネスティラドも攻撃のタイミングを図っていたようだ。
沼地に手を深くめり込ませていたのだが、単純に自重で沈んでいたわけではなかった。
沼地有りの環境に合わせ、両手を隠すように霊力を十分に練っていた。
鳥Eの召喚獣の特技「鷹の目」を使い、蓄積した霊力が腕の上部へと上がっていく中、沼から霊力でわずかに輝き始めていることにアレンは気付く。
(地形を利用するなんて!? 貯めた霊力を沼地に手を沈めて隠すとは! だからスキルを使わずにペロムスを狙っていたのか!!)
ネスティラドはペロムスを通常攻撃の手刀で攻め、さらに踏みつぶそうとした。
この時に、霊力を使ったスキルを使用しなかったのは、自らの両手に霊力を練るためであった。
『メルル、ハク、いけるか!』
「あわわ!? ちょっと待って!!」
『速やかに発射準備をすすめます!!』
鳥Fの召喚獣を使ったアレンの指示に、メルルは後退弾の次弾装填をタムタムと共に急ぐ。
メルルとハクは攻撃キャンセルのスキルや特技があるのだが、それぞれ大小のクールタイムがあるため、交互に攻撃してきた。
メルルがダメならとハクが大きく息を吸い込んだ。
(この構えは! 間に合わないか!! 仕方ない!!)
アレンは攻撃のタイミングと攻撃キャンセルの限界を見切っている。
既に霊力が練られ、発動した状態で、ハクの距離からの攻撃のキャンセルは間に合わない。
『飛べ!!』
次点の作戦を仲間たちに指示した。
「はい!」
「こうよね!!」
後衛であるソフィーやロザリナが沼地に倒れた巨木の上に立っていたのだが、まるで大縄跳びのように、その場を蹴り上げ一斉にジャンプした。
「ほい。掴まれ!!」
「うあ!? ありがと、フォルマール!!」
前衛はもちろんのこと、目の前に迫るフォルマールは沼地にへたり込むペロムスの首根っこを掴んで飛び上がる。
フォルマールは次弾の準備を止め、このまま地面にへたり込んでいるペロムスの救出を優先した。
一様に退避行動したため、地面にいるのはネスティラドしかいない。
『ぐ!? だが、無法掌底!!』
アレンたちが中空に飛ぶ中、ネスティラドは沼地となった地面目掛けて拳を叩きつける。
衝撃波が拳を中心に広がっていき、戦闘で倒れた巨木を粉砕し、数十メートルと広がっていく。
スキル「無法掌底」の効果は地面にいなければダメージは受けないものの、バフ解除の効果はネスティラドを中心に半球(ドーム)に広がるため、随分距離を取っていた後衛、後衛の位置で上空に浮くマクリスとクワトロには効果がない。
ただし、バフが存在しないタムタムにも影響しないのだが、ブレスだけではなく、物理攻撃も行うハクやマグラは半球内にいてしまった。
(ちっくそ! 前衛、中衛が完全にバフが解除されたな。このままだとコンボは切れてしまう。ハクが近すぎたか。攻撃を躱したおかげでシアの100連コンボ達成条件は解除されていないな)
シアの拳の霊力が四散することなく留まっているのは、神技「獣神無限爆散拳」の発動条件が解除されていないからだ。
【デバフの種類とコンボの対象条件】
①デバフ効果のみはコンボ対象外
②物理攻撃とデバフ効果はコンボ対象
③魔法やブレス攻撃とデバフ攻撃はコンボ対象外
デバフには3種類あり、攻撃時についでにデバフを与えるタイプと、物理や魔法などの攻撃で対象の体力を削ることなくデバフのみ掛けるタイプだ。
①のデバフのみの方がデバフ効果は大きいが、②や③は対象の体力も削ったり、攻撃ついでなので避けづらくダメージを与えた分早く倒せるというメリットもある。
だが、敵からの攻撃ならコンボの継続が無効になるのは②のみだ。
攻撃対象から受けるなら②はコンボのカウントが終了するが、①と③は終了しない。
現在、仲間たちが攻撃を畳みかけ100連コンボを達成し、ネスティラドがスキル「無法掌底」を発動したタイミングだ。
仲間たちが地面に降りるタイミングでネスティラドは右腕の霊力が溢れる。
(バフを全て消してステータス下げた上で、スキル叩き込もうとしようとか鬼畜過ぎる。ハクよ、いっけえええええ!!)
『ぐおおおおおおおおおおおお!!』
『駿円斬界!!』
ハクの特技「轟く」が何とかネスティラドのスキル「駿円斬界」よりも先に発動できた。
だが、ネスティラドの動きは止まる様子がない。
(攻撃キャンセルが効かない。ハクのステータスは下がったから、ネスティラドに効果が発揮されなかったのか。「竜の魂」は暴走するから使用させていないし攻撃力不足か)
ネスティラド自体、ルークのデバフでステータスが幾分下がっているものの、バフが完全に消えたハクの力で止めることはできないようだ。
知力装備に身を固めたアレンの中で全てがスローモーションのように流れる。
この攻撃はバフがあっても止めることはできない。
その場で飛び上がり着地したばかりのタイミングで避けれそうにもない。
このタイミングで鳥Aの召喚獣の覚醒スキル「帰巣本能」が間に合うのかも分からない。
ネスティラドが円状に右腕を振るう中、避けることも逃げ出すこともできない状況でまるで全てが終わった予感がする。
『あきらめるな。ガルル! まだ、コンボの発動条件内だ。獣神無限爆散拳!!』
獣神化したシアが吸い込まれるようにネスティラドの右腕に向かっていく。
「おい! バフも切れた状態で!!」
「そうだよ!!」
ドゴラが思わず声を荒げ、クレナも同調する。
バフの無いステータスでスキル「駿円斬界」を受けるなど自殺行為だと仲間たちの表情に悲壮感が増していく。
ゴッ
グシャ
神技を発動したシアの拳とスキルを発動したネスティラドの手刀がぶつかった。
圧倒的なステータスによってシアの全身に衝撃が伝わっていき、神聖オリハルコンの鎧がいたる所で粉砕される。
ブシュッ
『ふん、馬鹿め! 消え失せよ!!』
さらに、シアは衝撃で神器であるナックルで覆われた拳が砕け、攻撃を受けた衝撃で全身から血が噴き出した。
圧倒的なステータス差による、ネスティラドは勝利を確信しているようだ。
「シア!!」
ドゴラが思わず大声で叫ぶ。
ネスティラドのスキル「駿円斬界」ならシアの肉体など肉片も残らないと思われた。
『グルル!! 打ち込んだぞ。我らパーティーの勝利だ!!』
だが、血が噴き出すシアはニヤリと口角を上げる。
ナックルを当てた部分が超新星爆発する瞬間の星のように光り輝く。
ベキッ
バキベキボキッ
巨大なダムの堤体に小さな亀裂が生じると、決壊するかのようにダメージは10メートルの巨大な腕全体に広がっていく。
とうとう腕は強力な拳の一撃で陥没するかのようにダメージで、大きな凹みが無数にできたかと思うと、とうとう根本から粉砕される。
『な、何だと!? 儂の腕が!! ぐ、がは!!』
右腕が爆散したが、ネスティアドへのダメ―ジは終わらない。
(発動できれば、死ぬまで食らう無限の攻撃か)
神技「獣神無限爆散拳」の効果は既に検証が終わっている。
この神技は、強力な拳の一撃を全身に受け、対象が死ぬまで攻撃は無限に続いていく。
右腕から受けたダメージは、肩、胴体、頭部、左腕、足とどんどん広がっていく。
全身が陥没する程のダメージで血が噴き出していく。
『だが、儂は儂は探さねばならぬ』
(それでも探さねばならぬものがあるのか)
肉片が全身から弾け飛び、それでもネスティラドは必死に立ち上がろうとする。
力を込めた先から足が吹き飛び、バランスを崩す。
それでも必死に左手を地面に当て、体を起こそうとした。
「ちょっと!? 立ち上がるわよ!! 止めを刺してよ!!」
必死に抗うネスティラドを見てロザリナが勝負を決めろと言う。
『……』
攻撃を受けたシアは無言で立ち、静かにネスティラドを見つめている。
既に勝敗はついたと確信しているようだ。
『き、貴様!! がは!?』
バンッ
シアに向かって攻撃しようとするが、左腕は振り上げたところで爆散する。
「……もう十分であろう。静かに眠ってくれ。あなたの探し物は余が探そう」
『ぐおおおおおおおおお!!』
ブンッ
『アレンたちは霊獣ネスティラドを倒しました』
(え? これだけ? ワイの経験値は? レベルアップは?)
シアの言葉にネスティラドは雄たけびを上げ、無限に続く攻撃によって、粉々に消し飛んでしまった。
あれほどの敵を倒した結果、仲間たちは唖然とする中、キールが前衛たちの下へ駆け寄っていく。
アレンだけが魔導書にのったログにレベルアップの表記がないことに驚き固まってしまう。
「おお、やったのか。そうだ、オールヒール」
シアを中心に仲間たちの体力を完全回復する。
「へへ! 今度こそやったぜ」
「そうだね。皆の勝利だね。ハクもメルルも作戦通りだった」
ルークは勝利を喜び嬉しそうにネスティラドが居た辺りを飛び跳ねる。
クレナはネスティラドの攻撃を絶妙なタイミングでキャンセルしたハクとメルルを労う。
『ぎゃう!!』
ハクは胸を張り勝利を喜び、メルルはタムタムから降りて、クレナやシアたちの下へ駆け寄る。
「アレン様の作戦が上手くいきましたわ。流石ペロムスさん、素晴らしい動きでした」
「いや、フォルマールに助けられたし」
「そう。フォルマール、あとでお話があります。何故、アレンの指示を聞かなかったか教えてくださいね」
「ソフィアローネ様の身を守ること。それが私の全てです」
転移後、陣形を組む際、ソフィーを逃がそうとしたフォルマールを叱責したいようだ。
和気あいあいとする中、1人、顔を真っ赤にした者がいる。
「おい、シア。何勝手に無茶したんだ! あいつを倒せなかったらお前死んでたんだぞ!!」
仲間たちが思い思いにようやく手にした勝利をかみしめる中、ジャガイモ顔のドゴラが顔を真っ赤にしてシアに詰め寄ったのであった。
あとがき
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