第468話 爪の門②
アレンたちは、爪の門の2つ目の階層から脱出し、ヘビーユーザー島に向かった。
竜神の里でもよかったのだが、ハクがいるので騒ぎになる。
アレンたちは城のように大きくなったペロムス邸で一夜を明かした。
朝になり、月の光が消え、日の光が差し込み始めたころ、広い食堂の中で皆で食事をとる。
(っていうか、ハクが窓から思いっきりのぞき込んでるけど)
ハクはこの建物にクレナがいることを知っている。
窓から鼻息を立てながら中を見つめるのはホラーだ。
改築の際、エルフの部隊にかなり強固に作ってもらって正解だったなと思う。
エルフは土の精霊の力も借りて要塞も作ることができる。
「ちょっと、アレン聞いている? 私あんなところにずっといると干物になるわよ!」
ロザリナが、魚人には特に堪えると朝から不平不満を言う。
フィオナはどんな状況なのかとペロムスの方を見ている。
ペロムスは良く分からないけど静観しようと耳打ちしている。
「そうだな。ちょっと対策しないと辛いな。カサゴマさんに何か火耐性の強いフードがないか確認してみるよ」
「何よそれ、あれをどうやって攻略するっていうのよ!」
溶岩が噴き出る灼熱の大地にもかかわらず、一切、攻略を諦めていないアレンに絶句する。
セシルはロザリナに対してもう諦めなさいとため息をつく。
「それでどうするの? ホークでも長時間調べるのは難しいんでしょ」
「そうだな」
(いわゆる、移動中にダメージを食らうエリアだし)
昨晩、皆を帰した後、アレンは少し残って検証を続けた。
爪の門の2階層目は、階層にいるだけでダメージを受けるようだ。
1階層と同じように、鳥Aと鳥Bの召喚獣のペアで活動させてみたが、召喚獣たちが炎にやられてしまった。
地面に近ければ近いほど、被ダメージは大きい。
たまに大きく噴き出る溶岩に当たると召喚獣の体力は大きく削れてしまう。
しかも、地面は火山に溢れごつごつしており、建造物なのか岩なのか炎に包まれて分からない。
その上、この階層も大陸くらいの広さがあるのかと思えるほどの広さだ。
さすが時空神の管轄するダンジョンだと思う。
1階層と同じ方法では厳しいようだ。
反省も踏まえ、対策を練ることにする。
***
それから3日が過ぎた。
今日は試しの門2階層目の攻略をする日だ。
アレンは朝から魔導書のログを見ている。
『成長スキルが9に上がりました』
試しの門攻略の準備をしていたら、スキル経験値が溜まって成長レベルが9になった。
(ほう、出発前にスキルが上がったか。早速、デンカを成長レベル9に上げてみるか)
朝食は終わったのだが、身支度があると女性陣がまだ集合していない。
その間に虫Hの召喚獣を使って、成長レベル9の検証でもすることにする。
アレンは魔力を込めて、既に成長レベル8まで上げた虫Hの召喚獣の成長レベルを9にしようとした。
しかし、魔力の消費はない。
スキルは発動しなかったようだ。
(ほう、スキルが発動しないだと)
アレンは魔導書を確認してみる。
『召喚獣の成長レベルをランクSまで上げるために、必要な聖珠ポイントが足りません』
成長レベル8まで魔石と魔力が必要だったのだが、成長レベル9にしようとすると聖珠ポイントが必要だと言う。
聖珠ポイントを得るためには聖珠をポイントに変換しないといけない。
マクリスは月に3つの聖珠を生み出すことができる。
まだマクリスを仲間にして2か月ほどしか経過していないので、まだまだ仲間たちへの配布が完了していない。
後衛だけではなく、前衛にも有用な装備なので、あまり無駄にはできない。
現在聖珠ポイントを1ポイントも保有していないので、成長レベル9にすることができなかったようだ。
(さて、検証は必要だが、ポイントに聖珠を変換するなら試しの門の攻略との兼ね合いを考えるか)
「遅くなったわね」
いつものようにセシルが一番遅れてやってくる。
仲間がそろったので、成長レベル9の検証は保留する。
「よし、じゃあ、爪の門にいくぞ」
「うん!」
メルルが力強く返事をした。
今回、試しの門2階層の攻略は8人で行うことにした。
・アレン、クレナ、ソフィー、セシル、ルーク、キール、メルル、ハク
どうもハクの成長は大事なようなので、経験値効率も考えて人数は8人に抑えたい。
1人の時は取得経験値10割なのだが、8人までは取得する経験値を8割に抑えてくれる。
魚人の2人はどうもこれから攻略するフィールドに弱そうなので、S級ダンジョン組のキールとメルルに変更だ。
なんか最近、状況によって仲間の構成を頻繁に変更する機会が増えたなと思う。
『ここは爪の門。審判の門を開け開放者を望む者よ。2階層への挑戦をするか』
ハクも連れて、爪の門の前に立つと、いつものように竜の絵が話しかけてくる。
『イク!!』
ハクが大きく声を出して返事をすると視界が変わり、辺りの気温がぐっと上がる。
ハクも前向きに門攻略に臨んでくれているようだ。
「まだなんか少し暑いわね」
「ああ、まあ、ここはそれほどでもないけどな」
アレンたちは水色のフードを着ている。
これは魔法具師のカサゴマに頼んで、プロスティア帝国から取り寄せた特注のフードだ。
ハクとアレンを除く全員がこれを装備している。
水色で透明度がかなり高く、シースルーなフードなのだが、火耐性、ブレスなどのかなりの耐性がある。
『あれ? もう諦めたんじゃないの? って、なんて格好しているんだい』
3日ぶりだねとメガデスがアレンたちの元に寄って来る。
時空神デスペラードの使いということもあり、メガデスは暑くもないし涼しい顔をしている。
精霊神ローゼンも精霊王ファーブルも似たような感じだ。
このまま広い空間の出口に向かう。
空間を出た先は10数メートルの回廊となっており、その先は相変わらずの灼熱の地獄だ。
「ここだと堪えるわ。ソフィーお願いできるかしら」
新調したフードであっても、かなり堪える。
「ええ、水の精霊お願いします」
『はい。分かったわ。ソフィー』
落ち着いた口調で合羽を着た姿で現れた少女は水の精霊だ。
今まで雨の中を、合羽を着ていたかのように、体は水で濡れておりポタポタと零れ落ちていく。
しかし、熱した地面が暑すぎるのか雫が落ちた先から蒸発する。
圧倒的なまでの灼熱の地獄の中、2つの聖珠を装備し魔力を増大させたソフィーの全魔力が失われていく。
水の精霊ニンフがソフィーの全魔力を消費し、上空に雨雲を作り大量の雨を降らし始めた。
勢いはどんどん増していき、バケツをひっくり返したようなスコールに雨量は上がっていく。
降った先から雨は地面に当たる前に気化していくのだが、精霊の圧倒的な力により溶岩の熱を奪っていく。
「いい感じだな。このままよろしく」
ソフィーに回復薬を使い魔力を回復させつつ、移動できる場所を押し広げていく。
冷えた溶岩のように真黒な世界が広がっていく。
『うひょおおおお!! ここが試しの門か!! 初めて来たぜ!!』
メルルの前に浮いている魔導キューブが何やら騒がしい。
魔導キューブ越しでダンジョンマスターディグラグニが試しの門の中の空間に感動しているようだ。
(試しの門も一種のダンジョンだからな)
齢5000歳にして、ディグラグニは初めて試しの門の中に入ることができたのだろう。
キューブ状にも関わらず、ディグラグニの興奮が伝わってくる。
もしかしたら、今後のダンジョン制作に大きく影響するのかとアレンは考える。
【年齢リスト】
・メルス10万歳※
・精霊王ファーブル8000歳
・竜王マティルドーラ8000歳
・精霊神ローゼン5000歳
・ダンジョンマスターディグラグニ5000歳
※メルスは魔王軍の侵攻により天使としては死んでいる
「メルルの方は準備いいか」
「聞いていたとおり、測量の魔導具を設置したよ」
メルルは段取り良く魔導技師団のララッパ団長にお願いして作ってもらった測量の魔導具を設置している。
自らは降臨させたゴーレムのタムタムに乗り込んだ。
ゴーレムの中に乗ったメルルは涼しい顔をしている。
ゴーレムの中にいると熱は遮断できるようだ。
ララッパ団長に作ってもらったのは、計画的に巨大な都市などに使う測量の魔導具の改良版だ。
ここは世界地図や大陸用の地図用魔導具では測れないダンジョン内だ。
しかし、位置関係を知るくらいなら測量の魔導具で測れることができる。
この転移した先を起点に位置関係と移動した場所の記録をすることで、無駄なくこの階層を攻略しようと考えた。
なお、この測量の魔導具は、耐熱加工と魔導コア3つ使ってとんでもない範囲を測定できるようにした。
メルルの前方に現れたディスプレイ状の画面には、メルルが先ほど設置した魔導具が点滅している。
『何しているのかな?』
首をかしげるメガデスがアレンに尋ねてくる。
「攻略するのに必要なものを揃えました」
聞かれたので簡単に説明をした。
(ララッパ団長には無理して貰ったな)
タムタムの水晶部分に乗っているメルルの正面にパネル状の画面が表示される。
画面には、さきほどメルルが設置した測量の魔導具が点滅している。
メルルは魔導具に乗って、水の精霊が鎮火してくれた地面の上を飛び回って見せる。
「おお! 地図が埋まっていく感じだ! いけるよこれ!!」
『ハイ、シッカリウメテイキマス!』
メルルの言葉にタムタムも反応する。
まだ何日かしか経っていないが、随分タムタムも成長したようだ。
測量の魔導具が元になっているが、地図が色塗りされていく。
するとその時だった。
ズドオオオオオオオオオン
近くの巨大な火山が大噴火を起こす。
衝撃波と共に、大小さまざまな溶岩を天高く噴火させた。
「マクリス、フリーズキャノンだ! セシルは氷魔法を!!」
『分かったのら~! フリーズキャノン!!』
氷の巨大な槍を噴火する火山めがけて放つ。
メキメキと火山は氷に覆われ氷山に変わっていく。
「ブリザード!!」
それから少し遅れて、セシルの詠唱が終わったようだ。
大小様々な大きさでアレンたちの元に降り注ぐ、溶岩やらをセシルが撃ち落としていく。
召喚獣の加護で飛翔するアレンとタムタムに乗ったメルルが体を張って凍った岩を弾く。
今回の作戦はメルルが先導する形で、この何も目印のない場所の地図を効率よく埋めていく。
次の階層にいくための紋章のような魔法陣がある箱状の建物を探すためだ。
メキメキ
(ん? ほう、上位魔神も倒したフリーズキャノンの力に抗うことができると)
マクリスの「フリーズキャノン」で氷山になった火山の裾野からゆっくりと氷が消えていく。
このままだと元の火山に戻りそうな勢いだ。
「マクリスは、定期的に周辺の火山を凍らせろ。絶対に噴火させるな」
この階層には無数の火山がある。
近くの火山を凍らせながら移動する必要がある。
『分かったのら!』
「ソフィーとセシルも鎮火と冷却に集中してくれ。キールは回復魔法を多めに使ってくれ」
外に出している召喚獣やゴーレムのタムタムの体力が次第に削れていくので、忘れず回復魔法をかけるようにアレンは言う。
「ああ、ここはすげえところだな」
キールは絶句しながら、範囲の回復魔法を振りまく。
今回、パーティー内で副リーダーの座にあるキールを呼んでしまった。
当面の間、S級ダンジョンは各将軍に活動は任せると伝えてある。
『グルアアアア!!!』
移動するとすぐに、火竜や火鳥などの魔獣が襲ってくる。
ソフィーやメルル、マクリスを除く皆で魔獣を狩る。
(火鳥は火竜の1割しか経験値がない。火竜だけ来い)
2階層になり、魔獣のランクがCからBにあがったようだが。
しかし、それでも今のアレンたちの相手ではない。
火系統の魔獣が襲ってくるのだが、瞬殺する。
「ん? なんだ、あれは?」
鎮火して漆黒になった地面に煌めく琥珀色の何かを見つけた。
キールの物欲センサーに引っかかったようだ。
皆が駆け寄ると、ソフトボール大の大きさの物体が地面に埋まっている。
中央に何か竜の瞳のような物が見える。
「これって、もしかして」
アレンは魔導書に拾い上げた琥珀色の物体を収納する。
『竜目岩を収納した』
魔導書に何が収納されているかログを確認すると、たしかに竜目岩が収納されたとある。
魔導書に入れた物は名前がつく。
効果などは分からないが、名前が知りたいだけならこういう使い方もある。
「おい、どうなんだ! 良いもんなのか!!」
(おい、キール、顔が近いぞ)
お金大好きキールは、俺が見つけたんだぞ感を強く出してアレンに迫る。
「竜目岩だな。オリハルコンの錬金素材が落ちているぞ、って、結構な数だな」
「おお!!」
アレンは鳥Eの召喚獣を召喚して、覚醒スキル「千里眼」を発動する。
鎮火が済んだ地面にキラキラ輝くものが点在していることが分かる。
(なるほど、この試しの門内には素材やお宝があると。きっと竜目岩は前回の門攻略の際に竜人たちが集めて売ったのだろう)
オリハルコンすら錬金できる特殊な錬金素材だ。
なお、オリハルコンだけではなくミスリルでも鋼鉄でも錬金でき、大いなる武器や防具の追加効果をもたらす。
大規模な部隊が門の攻略をしたとメガデスは言っていたので、結構な量の竜目岩が手に入ったのだろう。
錬金素材として消費されていく中、今となっては竜神の里にほとんど残っていない。
だからセシルたちが数日間探しただけでは見つけることができなかった。
「オキヨサンたち、竜目岩を回収してきてくれ。鎮火していないところには近づくなよ」
『はい。ヒヒヒ』
地面を浮くことができ、回収に向いた霊Aの召喚獣たちを召喚し、竜目岩を回収させ収納に納めるように指示をする。
どうやら、竜目岩以外にもヒヒイロカネやアダマンタイトの鉱石、魔法具や魔導具にも使える素材も結構落ちていることが分かる。
この試しの門はただ階層を上がり門番を倒すだけのダンジョンではないようだ。
今後のアレンのパーティー、アレン軍の強化に繋がりそうだ。
そうして10日が過ぎた。
2階層の結構な範囲のマップを埋めたところで、大きな岩に入り口のようなものがあることを発見する。
中に入ると、紋章のような魔法陣が地面で光っていた。
『すごいね。こんなに被害も出さず短時間で攻略するなんて初めてだよ』
案内役のメガデスもアレンたちの結果に驚いている。
こうしてアレンたちは爪の門2階層を攻略したのであった。
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