第469話 爪の門③

 アレンたちは現在、爪の門の3階層にいる。

 何でも、この層で1つ目の門のダンジョン攻略は終わりらしい。

 3階層を攻略した先に門番がいるので倒せばよい。


 この3階層は空気も凍る極寒の階層だった。

 2階層からの気温の変化がすさまじく、200度近く寒暖の差がある。

 試しの門という名のダンジョンは、随分環境で攻めてくるようだ。


 攻略に時間が掛かったが、手に入れることができた情報もある。

 攻略の肝となる次の階層への脱出方法などは教えてもらえないが、メガデスは案内役という立場にしては口が随分軽い。

 次の階層へ行く空間で待機して、一緒についてきてくれなくなったが、思いついたことをいくつか尋ねることにした。

 門攻略の用語集を整理した。


【審判の門・試しの門用語集】

・審判の門:竜王の背にある大きな門。開放した先にあるのは神界。

・試しの門:爪、牙、鱗の3つの門が用意されている。各門は3階層構成。

・門番:倒すと門攻略の証が手に入る

・挑戦者:試しの門を挑戦する資格を持った竜

・乗り手:竜騎兵の才能を持った竜人

・協力者:開放者と乗り手の挑戦を補助する者

・案内役:時空神デスペラードの使いメガデス

・開放者:審判の門を開放した者


 概ね言葉通りの意味だった。

 開放者には2つの意味があるらしい。

 挑戦者と乗り手は、この審判の門を開けた時点で開放者になれる。

 それ以外の者は、その後の神界で開放者を目指さないといけないらしい。


 乗り手不在で、挑戦者はハクの状況だ。

 協力者であるアレンたちがハクの挑戦を手伝っているという形だ。


 今の状況だが、3階層に入って10日が過ぎた。

 既に新年に入って行われた5大陸会議も先月の話だ。


 ゴトゴトゴト


 巨大な陸亀の形をしたモード「トータス」になったタムタムが雪と氷で覆われた地面を走っている。

 たまに地面が脆いところもあるので要注意だ。


 魔導キューブに30枚分も石板をはめることができるので、超大型になったあと特殊用石板で形を変え、位置情報を確認しつつ、バルカン砲も搭載できる。

 全方位に魔導具のライトを取り付け、吹雪で視界が最悪の状況を緩和してくれている。

 メルルの操縦するタムタムがいないと今回のダンジョン攻略にどれだけの時間が掛かるのか分からない。

 そんなメルルはタムタムを操縦する胸の水晶部分で前方を見つめている。


 カンカンカン


 モード「トータス」なったタムタムはクレナを乗せたソリのような物を引いている。

 クレナはソリの中央にいる石Dの召喚獣を攻撃し、戦闘中以外はスキル上げをする。

 ヘルモードのアレンとエクストラモードのクレナはスキルレベルがまだまだ成長の途中だ。

 少しでも時間を見つければ、アレンもクレナもスキル上げに勤しむ。


 氷耐性を手に入れたハクはタムタムの上をはばたき、クレナの様子をずっと窺っている。


 2階層同様に階層の攻略に時間が掛かってしまった。

 この階層にいるだけで召喚獣は体力が低下していく。

 雪や嵐で、たまに氷柱も飛び交うため視界が悪い。

 2階層同様に召喚獣たちを飛ばして、空から次の階層へ探す方法は早々に諦めた。


 トータスの亀の甲羅の中央に円陣を組んでいる。

 円陣の中央にはララッパ団長制作の暖房の魔導具が置いてある。

 これがアレンたちの生命線とも言える。


「ああ、寒いわ! もうちょっとララッパ団長に温かくしてもらうように頼めないかしら!!」


 モコモコした毛皮のフードに覆われたセシルが鼻水を垂らして不満を漏らす。

 こうして10日も過ぎたのに不平不満を数時間置きに伝えてくる。


「セシル、鼻水が凍っているぞ」


 ここはとても寒い。

 鼻水も凍るし、休憩中に食べたモルモの実が食べきらずに凍ってしまう。


(そろそろ、諦めてくれ)


「何よ、乙女に向かって!!」


 ドゴッ


「ぐは!?」


 正直に伝えたところ、セシルの怒りを買ったようだ。

 全力で振るわれた肘打ちがアレンの脇腹にめり込む。


『はは。まだまだ、元気だね』


 腹を当てて暖まるモモンガの姿をした精霊神ローゼンが限界まで魔導具に近づいている。


(ん? 元気がないのか)


 精霊王ファーブルも一緒になって魔導具で暖を取っているのだが、表情が薄い気がする。

 そういえば、門の攻略が進むにつれて、随分大人しくなってしまったようだ。

 アレンが一言話しかけようとしたところだった。


『プシュー』

『プシュー』

『グルル!』


 風船の空気が漏れたような鳴き声の、ユキヒョウや狼の魔獣がアレンたちの行く手を阻む。

 大型のアイスドラゴンも上空からやってきた。

 この階層でよく見る魔獣たちだ。


「さて、魔獣たちがまた来たぞ。皆、戦闘準備だ」


 このエリアもエンカウント率高めの仕様で、氷のフィールドに特化した魔獣たちが襲い掛かってくる。

 3階層になってほぼBランクの魔獣になったのだがアレンたちの敵ではない。


『ガウウウウウ!!』


 ハクが盛大に火炎の息を吐く。

 3階層の魔獣には火属性は抜群の効果があった。


「ハクのレベルが上がったぞ。って、60でカンストか」


 最後の1体を倒したことでハクのレベルが上がった。


「え? 本当、どれどれ」


 魔獣と戦うために地面に降りていたクレナがタムタムの上に上がってきて、魔導書を確認する。


 ハクのレベルが60になり、経験値の欄が消えていた。


 【名 前】 ハク

 【種 族】 白竜

 【形 態】 幼体

 【ランク】 C

 【レベル】 60

 【体 力】 3740+2000

 【魔 力】 2460

 【攻撃力】 5020+

 【耐久力】 3740+2000

 【素早さ】 5020

 【知 力】 1780

 【幸 運】 1870

 【特 技】 火炎を吐く、切り裂く、竜の鱗〈2〉、火耐性〈1〉、氷耐性〈1〉


 各階層を進み、かなりの数を倒した結果、ハクのレベルが上がりカンストした。


 環境に対して耐性が付くのは人間と違うらしい。

 アレンたちも2階層も3階層もいたのだが、ハクにだけ耐性が追加された。

 2階層では火耐性を、3階層では氷耐性を手に入れたため、アレンたちに比べて涼しい顔をしている。


 なお、アレンには火耐性と氷耐性の最上位互換である、ブレス無効の耐性がある。

 竜Aの召喚獣をホルダーに1枚でも持っていたら、この加護で耐性が得られる。

 これは炎、氷、毒、雷、光だろうと竜系統のブレスを完全無効にする。

 環境的に暑かろうが寒かろうが一切関係ない。

 お陰で、2階層も3階層もわりかし快適だったりする。

 仲間たちに比べて余裕があるのだが、その結果セシルの怒りを買っている。

 なお、ブレス耐性なので魔法攻撃は普通にダメージを受ける。


「ねえ、これってどうなの?」


「うむ、なかなか、今後の戦いは厳しいかもしれないな」


 ハクは初めて仲間になった魔獣で、浪漫の詰まったドラゴンだ。

 このままぐんぐん強くなると思ったが、結構手前で成長限界にきてしまった。

 限界まで成長したハクはCランクのままだし、これだと魔神相手に苦戦するだろう。


(ハクにこれからの戦いは厳しいってことか)


 ハクのレベルカンストを考えていると、メルルが何かを発見する。


「あ! あそこに洞穴が見える!!」


 メルルの視界はタムタムと共有しているので、他の仲間よりも遠くが見える。

 そのメルルが氷の山に巨大な洞穴があることを発見する。

 メルルはタムタムを魔導キューブに戻して、アレンたちと共に洞穴の中に入っていく。


 1階層から2階層、2階層から3階層には床に紋章のような魔法陣があった。

 前回、前々回はこの魔法陣を踏むと次の階層に行けたのだが、今回は違う。


「おお! 入ってきた時の扉だ!!」


 クレナの言葉に皆状況を理解する。

 アレンたちが見たのは、古い遺跡の中に佇む巨大な扉と同じものだった。

 竜の絵が浮き出るように彫られており、きっとこの竜が番人ということなのだろう。


「よし、皆、攻撃態勢に入れ。爪の門の番人が出てくるぞ」


「分かった」


 アレンの言葉に仲間たちがそれぞれ自らの武器を握りしめる。


(タムタムも出すか。ここなら出せそうだぞ)


 氷山の中は広かった。

 超大型ゴーレムのタムタムでもギリギリ動かせそうだとアレンは考える。

 一緒に戦えなくても、遠距離からバルカン砲を撃ってくれるだけでも助かる。

 皆思い思いに武器を持ち、戦闘の準備を整えていると、アレンたちの前に魔法陣が現れる。


 ポン!


 突然やってきたのはメガデスだった。


『あれ? おやおや? 皆どうしたの? 戦闘の準備なんかして』


「む?」


 突然現れたアレンたちの行動にメガデスが疑問の声を投げかける。

 メガデスにアレンたちの視線が集まる。


『そっか、竜王からそんなことも聞いていなかったんだね。君たちはただの「協力者」なんだよ』


 メガデスがアレンたちの様子に納得した感を出す。

 メガデスの言葉と態度にアレンは状況を理解した。


「挑戦者のハクだけってことですか?」


『挑戦者と乗り手だけだ。他の者は神界を望む竜の道を整えるだけが仕事さ』


 ここから先には挑戦者と乗り手だけしか行けないとメガデスは笑うように告げたのであった。

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