第686話 魔法神イシリスの報酬①
アレンは試験管内に浮いている1つになった日のカケラと月のカケラを見る。
2つのカケラが1つになり、試験管の中で輝き始めた。
(そういえば、クエストの報酬は「日と月のカケラ」だったな。最初から1つになる予定だったのか。ん? 何だ?)
ピピピッ
試験管の下にはいくつかの配線が繋げられており、その1つと下部で接続された魔導板には、魔法神イシリスが用いる神学文字で、何やら文章が大量に上から流れ始める。
文章が魔導板を埋め尽くすと、自動的に下へ上へとログが流れていく。。
この文字は魔法神イシリス専用の文字で、魔法使いが魔法を発動するために覚えないといけないと言う。
「古代の歴史……」
「ん?」
「古代の歴史が流れていくわよ! 100万年前の戦争の歴史よ。獣神ガルム様は武神オフォーリア様の神域を破壊したとあるわ!!」
魔導士として生まれたセシルは、魔法神イシリスの文字が理解できるようだ。
(ん? いつから読めるようになった。魔法神イシリスの神学文字は暗記科目のはずだ。ああ、そうか……。マグラの角か)
アレンの認識では、魔法神イシリスの使う文字は人間世界一般では使用されていない。
だが、魔法使いたちは魔法神イシリスの力を借りるため、神学文字を利用し、詠唱して魔法を発動する。
記号の羅列に意味などを求めず、機械的に覚えているのだから、幾何学的な神学文字を暗記したとしても読めるようにはならない。
アレンは1ヵ月ほど前、竜神マグラの角を手にして、セシルの神技「古代魔法」を手にすることができた。
深淵に触れることによって、神学文字への理解がかなり進んだようだ。
「凄いわ。完璧な検証結果よ。これなら最強の古代魔法が完成するわ!!」
セシルと同様にララッパ団長は、必死に羊皮紙に書かれた資料と魔導板の情報を照らし合わして、驚愕して震え始めた。
(神技無しで神学文字を、ここまで理解しているララッパ団長には驚愕だな)
「本当ですか? すごいわ!! 私こそ最強の魔導士に!! ぐふふ~」
全てを自分のものにする気で満々のセシルは、頬を試験管に張り付かせて、涎が今にも溢れそうだ。
貴族である気品も優雅さも微塵も感じない。
「もちろんよ。ヨイショっと」
試験管の足元に置かれた台に上って、試験管上部の蓋を開け、日と月のカケラを回収する。
「もうよろしいんですか?」
「欲しいのは情報だからね。これは必要なんでしょ」
「助かります」
日と月のカケラは未だに召喚できぬ【ー】Sの召喚獣に必要なものらしい。
アレンは日と月のカケラを魔導書に収納する。
「次は獣神ガルム様の尾ね……」
『情報……分析。検証後、実験して……』
「はい。魔法神イシリス様」
コミュ障の魔法神イシリスがボサボサ頭の髪で隠れた表情を見せないまま、ララッパ団長に獣神ガルムの尾を突き出してくる。
神学文字が可愛く見える単語だけの要求を、ララッパ団長は完全に理解したようだ。
(シアが頑張って手に入れてくれたふっさふさの尾だ)
シアが獣神ガルムから手に入れた貴重な尾をもったララッパ団長は、次の実験をすべく動きだす。
入手方法が気になって聞いてみたら「食いちぎった」と言われて、握りしめる尾を見て震えが止まらない。
尾を手に入れる経緯を思い出している場合ではないことをアレンは思い出す。
大地の迷宮で竜神マグラから狩りとった「竜神マグラの角」の報酬である「神技」を手にするまでかなりの時間を要した。
報酬を与えるよりも魔法神と団長が手にした素材による実験や研究を優先したためだ。
【魔法神の欲しい物リスト】
・エクストラモード:霊獣ネスティラドの心臓
・神技:竜神マグラの角
・加護:日と月のカケラ
・神器:獣神ガルムの尾
(家に帰るまでが遠足。報酬を貰うまでがクエスト)
「申し訳ありません。魔法神イシリス様。クエストは達成しましたので報酬であるイシリス様の加護と神器を頂きたいです」
『う?』
魔法神が指先を口元に当て、首をかしげて見せる。
アレンたちが魔法神の欲しい物を手にしてきたのは、報酬があるからだ。
「そうですわね。実験には時間を要します。魔法神イシリス様、報酬は最初にお渡しした方がよろしいかと」
『分かった。報酬が欲しい者は誰? まずは加護』
楽しいゲームを始めようとしたら宿題を命じられた子供のような表情になる。
口先を尖らせ、今忙しいのにが顔面に出ているが、必死に飲み込んでいるようだ。
セシルが一歩前に出て跪いて口を開いた。
「私です。何卒、魔法神イシリス様の求めし深淵を共に覗くことを……」
パアッ
(セシルが最後まで言えなかった件について)
魔法神イシリスが両手を突き出すと、腕の周りを描くように幾何学的な神学文字が現れる。
神学文字は指先からセシルの下に向かい、回るように全身を包み込んでいく。
ゆっくりと描く円の半径が短くなり、セシルに触れると、幾何学的な神学文字が体の中に吸収されていく。
「ふぁ!? 凄いわ。魔力が凄い勢いで私の中に!!」
セシルは両手を顔まで上げて驚愕する。
指先に力を込めると、魔力と共に吸収されたはずの幾何学的な神学文字が浮かび上がってきた。
『次は神器……。あれ、この辺りに』
魔法神イシリスは驚愕するセシルを尻目に、研究室の素材が山積みされた一角に向かう。
無造作に魔獣の牙や丸められた羊皮紙が宙を舞う。
「イシリス様、神器「原魔の杖」ならこちらのかき混ぜ棒です」
研究室を散らかし始めた魔法神を団長が制止する。
『そうか』
ララッパ団長が日と月のカケラを入れた試験管とは別の試験管の足元に置かれた台に上がり、溶液に半分以上浸かった杖を取り出した。
団長が魔法神に恭しく渡すと、無造作に受け取り、そのまま突き出すようにセシルに。
杖先には目のような球状の物が付いており、真理の全てを見透かしてくれそうだ。
「あ、ありがとうございます」
下から両手で丁寧に受け取ると、ノルマは済んだとばかりに、魔法神は再度踵を返し、団長に指示を始めた。
「これが魔法神の神器か。メルス、鑑定してくれ」
『分かった』
アレンはメルスに武器枠である天使Bの召喚獣「虫眼鏡」で特技「鑑定」を発動させる。
「おお、素晴らしい効果だ」
アレンはメルスと意識共有しているので、鑑定結果が頭の中に流れ込んでくる。
ステータスを魔導書に整理すると、セシルが覗き込んできた。
「ちょっと、私にも見せなさいよ!!」
【名 前】 セシル=グランヴェル
【年 齢】 16
【加 護】 魔法神(加護特大)
【職 業】 魔導帝
【レベル】 60
【体 力】 3005+30000(加護)+2400(スキル)
【魔 力】 4347+30000+2400
【霊 力】 36374
【攻撃力】 2295+30000
【耐久力】 2318+30000
【素早さ】 4051+30000+2400
【知 力】 4429+30000+2400
【幸 運】 3631+30000+2400
【神 技】 魔力蓄積、知力強化、古代魔法
【エクストラ】 小隕石
【スキル】 魔導王〈6〉、無〈6〉、火〈6〉、雷〈6〉、光〈6〉、深淵〈2〉、神技発動、組手〈5〉
・装備一覧
【武 器】原魔の杖 体力10000、魔力30000、知力30000、魔法攻撃ダメージ30パーセント
【 鎧 】グリモワールローブ 耐久力20000、魔法耐性(極大)
【指輪①】知力5000、知力5000
【指輪②】知力5000、知力5000
【腕輪①】攻撃魔法発動時間半減、クールタイム半減、魔力5000、知力5000
【腕輪②】魔法攻撃ダメージ10パーセント、魔力回復1パーセント、魔力5000、知力5000
【首 飾】知力3000
【耳飾①】魔法攻撃ダメージ10パーセント、魔力2000、知力2000
【耳飾②】魔法攻撃ダメージ7パーセント
【腰 帯】闇属性、知力10000、魔力10000
【足輪①】素早さ5000、転移、回避率20パーセント
【足輪②】素早さ5000、転移、回避率20パーセント
神技や神器、加護を手にしたセシルはノーマルモードであるものの随分成長してくれた。
「さて、俺たちはネスティラドとの戦いに備えるから、ここで少し待っていてくれ」
ついてきても心配させてしまうと、アレンは魔法神イシリスの神域でセシルに待つように言う。
「何よ。本当に大丈夫なの?」
「魔法が全く効かないんだししょうがないだろ。ようやく手にした神器だ。神技との相性を確認しておいてくれ」
(これで残りはエクストラモードだけになったな。エクストラスキルも神技もノーマルモードじゃ成長しないからな)
スキルにはスキルレベルがあり、レベルが上がると成長するのだが、ノーマルモードには成長の制限がある。
さっさとネスティラドを倒して、セシルをエクストラモードにしないとなとアレンはようやく神器と加護を手にして自信が溢れるセシルを見て思う。
「分かったわ。アレンなら絶対に大丈夫でしょう。私はここでズガガンと魔法の試打ちでもしようかしら!!」
セシルが杖を掲げ、魔法を放つ仕草をする。
魔法のレベルが上がらなくても訓練を経ないと、上手に発動できない場合がある。
疲れや負傷、怒りや焦燥などの感情によって、魔法神イシリスの使用する幾何学的な神学文字を上手くイメージできない場合がある。
アレンが待っている間に神技や魔法の練習に励むと言うと、セシルの背後から男の声が聞こえた。
『それはいけませんね』
「へ? 時空神様! 何で急に現れているのですか!!」
セシルは驚いて叫ぼうとするが、ぎりぎり敬語を放つ。
『ずっとこの場にいたのですが……』
(何だと? 急に現れたように見えたけど……)
「これは時空神デスペラード様、御無沙汰しております」
とりあえず挨拶はしておこうと思う。
何をしに来たのだとアレンたちの視線が時空神に集中する。
紫のストレートな長髪と常に目を瞑って語り掛けるのは、魔法神イシリスの夫である、時空神デスペラードだ。
『イシリスの感情の起伏がこんなに激しくなったことはありませんからね。何事だときてみれば、こういうことですか』
「そうなんですね。それでこちらにお越しになったのですか?」
(夫婦だと分かるのかな)
『いえいえ。イシリスには研究に集中してほしいですからね。私が練習場を提供すると言っているのですよ』
アレンたちの下に現れた時空神デスペラードが1つの提案をするのであった。
あとがき
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