第685話 お使いクエストの報告①
ゼウは十英獣を引き連れ、武神オフォーリアの試練を受けるヘルミオスを手伝うと即決する。
この場でゼウたちがやってくるのを待機していたテミが口を開いた。
「ふむ、獣神ガルム様の試練を超え、お二人とも成長されたようだ」
「そういって頂けると命がけの試練を超えた苦労が報われると言うものだ」
獣王の相談役のテミの言葉にゼウは笑みを零した。
先ほどからシアとゼウの表情を見ながら、何やら納得するように頷いていた。
(試練を超え、シアとのわだかまりが解けた結果、風格が凄いことになっているな。決断の早さは獣王の資質か。勇者の試練はどの程度厳しいのか、一度入ると出れないらしいから詳細は分からないけど)
ゼウは厳しいと言われる武神の試練の参加を即断する。
「ゼウ兄様大丈夫なのでしょうか?」
「無論だ。正直、ネスティラドとの戦いよりは役に立つと思うぞ。ヘルミオス殿には恩義もあるしな。どうやら参加者の人数の制限もなさそうだ」
ゼウは試練でエクストラモードになったのだが、シアが攻略した際、手に入れた神技は全てシアに渡してしまい、今は持っていない。
霊獣ネスティラドは底が見えないほどの強敵だ。
何度かアレンはメルスを連れて挑戦しているのだが、上位神かそれを超える力があるらしい。
ノーマルモードのステータスだとバフがあってもどうしてもエクストラモードで神の加護有りより見劣りをしてしまう。
神の加護の有り無しでオリハルコンの防具以上の耐久力に差が出てくる。
おそらくだが、一緒に戦っても弾除けにもならないとアレンは考えている。
そのことはゼウも十分に分かっていた。
それでもアレンが協力を求めれば、ネスティラドとの戦いに参加しただろうが、そんなことをさせるわけにはいかない。
「では、ヘルミオス様の試練を超えるのも待ちはしないと言うことですよね」
ソフィーが念のためにと確認する。
「そうだな。まずは俺たちで出来ることをしよう。その間、ゼウさんたちにはヘルミオスさんを手伝ってもらっての2方面作戦だ」
悠長にやるべきではないと、獣神ガルムの試練が終わったゼウたちにすぐに来てもらったのが今の状況だ。
アレンは、魔王を倒せるのは自分しかいないと考えている。
ただし、人々の心の支えになっているのは勇者ヘルミオスだ。
神の試練の果てに死んでしまったでは、数十年必死に魔王軍と戦ってきた人々の心の支えが無くなってしまう。
「……たしかに勇者の力には期待が大きいが、試練がいつ終わるとも限らないからな。俺たちの挑戦に失敗してから考えるで良いと思うぞ」
「分かりましたわ。わたくしたちのパーティーのみでネスティラドに挑戦する。それ以外の皆さまはヘルミオス様の試練に協力するということですね」
ソフィーがこれからの話をまとめてくれる。
「では、私は今回起きたことを獣王陛下に報告に出掛けるとしよう。これ以上の厳しい戦いは苦手だからの」
「おい、テミ。俺も報告に……」
「レペよ! お前はこっちだ!」
「ふがあああ!?」
ホバにレペは無理やりヘルミオスの試練に参加させられるようだ。
テミは人間界にあるアルバハル獣王国にいるムザ獣王の下へ向かい、ゼウやシアの試練で起きたことを報告すると言う。
「助かる。余がこの場に残る故に、私から試練の顛末を報告しよう」
シアはそう告げる。
『む? 我はどうするのだ?』
『ぎゃう! ママと一緒がいい!!』
ここにきて、参加者の枠に入っていない竜王マティルドーラとハクが声を上げる。
「マティルさんはゼウさんたちと一緒にヘルミオスさんの支援を。ハクは俺たちとネスティラドをぶっ飛ばすぞ!!」
ズウウウウン
『ギャウ!!』
ハクが興奮して地盤からしっかり固めた建物を揺さぶる。
「ちょっと、ソフィーがせっかく建ててくれた要塞が壊れるわよ!!」
「ハク! 駄目だよ!!」
『くうううん』
クレナに怒られて叱られた犬のようにハクがしょげてしまった。
『やれやれだ。では、次は神界闘技場か。我は随分忙しくなったものだ。神殿の中で数千年座っていた時代が懐かしいわ』
1万年生きた竜王マティルドーラは、試練の門の攻略失敗後、長きに渡って神殿の中で新たな挑戦者と戦うために待機させられていた。
【武神オフォーリアの試練挑戦者たち】
・ヘルミオスとパーティー「セイクリッド」
・ガララ提督とパーティー「スティンガー」
・ゼウと十英獣たち※テミは除く
・竜王マティルドーラ
【霊獣ネスティラドの挑戦者たち】
・アレンとパーティー「廃ゲーマー」
※ハクも含める
※ペロムスは除く
今後の話が固まったところで、まずはゼウたちと竜王を武神のいる神界闘技上へ連れていく。
一旦戻ると、アレンはセシルを連れて、霊障の吹き溜まり側にある要塞から、魔法神イシリスの供給施設へと転移した。
シアがテミに状況を伝え、休んでもらっている間に魔法神イシリスに今回手に入った「月のカケラ」と「獣神ガルムの尾」を持って行くためだ。
既に持っている日のカケラと合わせて、月のカケラで魔法神イシリスの「加護」が手に入る予定だ。
さらに、獣神ガルムの尾と魔法神イシリスの「神器」と交換する予定だ。
霊獣ネスティラドの心臓を除いて、随分魔法神イシリスのお使いクエストが進んできたと思う。
【魔法神の欲しい物リスト】
・エクストラモード:霊獣ネスティラドの心臓
・神技:竜神マグラの角
・加護:日と月のカケラ
・神器:獣神ガルムの尾
正八面体のピラミッドを上下に2つくっつけたような構造の魔法神の神域の1階層へと転移した。
この青く輝く上下のピラミッドの上部は魔法神イシリスの神域で、下部はイシリスの夫で時空神のデスペラードの神域らしい。
魔法神に会うべく、昇降の魔導具で上の階層へと昇っていく。
「あら? 随分片付いたわね」
「おかげで神界も天空国も魔法神イシリスの魔導具が行き渡って助かってるらしい。ララッパ団長様さまだな」
「魔法神イシリス様ね。気にされない方だけどそろそろ注意してよね」
横にいるセシルが思わず注意する。
魔王軍を神界に侵入させた責任を取らされて、魔法神イシリスは、配下に天使を持つことを禁止されているらしい。
この巨大な研究施設は、魔導具で溢れていたのだが、ララッパ団長率いる魔導技師団の精鋭たち合わせて10人を呼ぶことによって解決させた。
魔導具のほとんどは、シャンダール天空国や商神マーネの市場に出して、すっきり片付けられている。
アレンたちは最上部の階層へと上がる前にセシルが注意したかったようだ。
人々の信仰や敬意を気にする神ではないのだが、不機嫌になって、報酬の話が飛んでしまっても困る。
昇降の魔導具によって転移したアレンたちの目の前に髪がぼさぼさで薄汚れ、端がほつれたローブを着た女性が背を向け、目の前に立っている。
「ああ、魔法神イシリス様。試練を達成し……」
広大な研究施設内を失踪することがある魔法神がすぐに見つかり丁度良かったと、話をしながらアレンは腰に下げた魔導具に手を伸ばす。
『そ、それは!? きええええええええ!!』
アレンの言葉を魔法神イシリスの奇声がかき消してしまう。
転移装置から出てきたばかりのアレンたちに向かって、魔法神イシリスがボロボロの格好で襲い掛かってくる。
(うお? おいおい、ララッパ団長止めてくれ!)
魔法神の背後には、驚いた様子のララッパ団長がおり、アレンと視線が合う。
「ちょ、ちょっと!?」
セシルが防御の構えを取るのだが、魔法神は止まってくれそうにない。
『臭うぞ! これは獣神ガルムの尾、……それに、月のカケラも。寄こせ! ケケケ!!』
縮れた長い髪の隙間から見える目は歓喜で充血していた。
「どんなホラーだよ! ほら、獣神ガルムの尾だ!!」
アレンは思わず叫んで、魔導書からシアから預かった獣神ガルムの尾を取り出した。
セシルへと向かってきた魔法神がアレンへと進行方向を変える。
見えるようワザとらしく尾を掴み、ブンブンと振り上げた後、魔法神の頭の上に向かって放り投げた。
まるで犬に棒きれを投げるような仕草であったが、獣神ガルムの尾が遠くに飛んでいくことはなかった。
『がるる!!』
放物線を描き、頭を越えようとする獣神ガルムの尾に向かって、魔法神イシリスは一度屈んだかと思ったら、大きな口を開いて飛び上がった。
犬歯をむき出しにした魔法神の口の中に獣神ガルムの尾が咥えられる。
さらに、まだ獲物があるぞと言わんばかりに体を向き直り、改めて前屈姿勢でセシルに飛び掛からんと重心を低くした。
まるで肉食獣が獲物を狙うようにジリジリとセシルに向かって距離を詰める。
「セシル。普通に渡すのを諦めろ!」
「もう、なんなのよ!!」
アレンには渡さなかった月のカケラを魔導袋から取り出して、投手の放つ剛速球のように、魔法神イシリスに向かって投げつける。
『がる!!』
尾を咥えた魔法神が両手をミットのようにして、月のカケラをキャッチした。
「どうやら大人しくなったようだな」
『くるるる♪』
アレンたちの目の前で魔法神が手にした『獣神ガルムの尾』と『月のカケラ』をもって、嬉しそうに飛び跳ねている。
「イシリス様、研究を進めましょう。月のカケラは総帥が必要なので、先に分析を始めましょうか」
アレン軍の総帥のアレンは、ララッパ団長から総帥と呼ばれている。
(お? 日と月のカケラは先に返してくれるのか)
魔法神イシリスは古代魔法を復活させる実験を行っている。
そのために古代魔法に絡めた素材の収集をお願いされた。
今回もってきた2つの素材は、古代魔法復活のために必要なのだが、アレンにとっても必要なものだった。
召喚士の才能のレベルが9になり新たに召喚できるようになるには、いくつか条件があった。
『ぐる!』
魔法神イシリスが同意の返事をしたところで、研究施設の一角に置かれた巨大な試験管の中に、既に手に入れた「日のカケラ」が浮いていた場所に向かう。
ドボン
人族サイズの試験管の上部へ上がるため、梯子をひょいひょいと軽快に上ると、蓋を慣れた手つきで外し、月のカケラを放り込む。
透明な培養液の中、投げ込まれた月のカケラは、日のカケラの下へ向かっていく。
カッ
投げ込まれた月のカケラは、培養液の中に浮く日のカケラの下へ向かっていく。
ピタッとくっついたと思ったら、溶け合うように1つになったのであった。
あとがき
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