第684話 最後の試練

 竜王マティルドーラが指揮官になることをシアが残念に思うようだ。


『そのように見るな。張り切って対応させてもらおう』


 残念がるシアの視線を一蹴する。


 マティルドーラが最初にすべきことがあると言う。


 アレンの視線から意思を汲み取ったのか、マティルドーラは自らの意志で最高指揮者の地位に就いた。


 アレン軍のトップを指揮するのは誰にするのかという話が続いていく。

 1万年を生きた竜王マティルドーラに指揮をお願いした。


 大地の迷宮での協力や、攻略時の身を投げうつほどの覚悟に、マティルドーラの生き様を感じる。

 竜王マティルドーラは、竜人の英雄であるアステルと、竜神の里にある試練の門攻略を目指している。

 その際、竜人とダークエルフの編成隊を全滅させた過去がある。


 魔族は人間界と暗黒界のつながりを支配しているらしい。

 竜人は人間界と神界のつながりを支配しているらしい。


 竜王と魔王には因縁があり、竜人を取りまとめる竜王がアレンの下で軍を動かすと言う。


(魔王無き世界では竜王が人間界で幅を利かせるのかな)


『そうはならん……。この年でそのような野心はないわ。ふざけたことを考えるでない』


 また、竜王に心を読まれてしまった。

 人の細かい表情の変化を捉えるのは、1万年ほど生きたことによるものなのか、年の甲と言ったものだ。


「でも、結局、私が軍を指揮することなかった! 残念であります!!」


 クレナが菓子を頬張りながら残念だと口にする。


「そんなことはないぞ。特攻隊長クレナ!」


「は! 特攻隊長であります!!」


 アレンのワザとらしい力のこもった掛け声に、クレナが思わず椅子から立ち上がり敬礼をしてしまう。


 クレナはマティルドーラが軍を指揮することに不満を漏らしたことにも理由がある。

 アレン軍を結成する際、仲間たちには軍の上位の役職を与え、指揮することも想定してきた。

 実際に、S級ダンジョンで、仲間たちが1000を超えるアレン軍の兵たちを指揮する訓練も積んでいる。


【アレン軍関係のパーティーの役職】

・アレンは総帥

・ソフィーは軍師

・フォルマールは軍師補佐

・シアは前衛隊の大将軍

・ルークは後衛隊の大将軍

・メルルはゴーレム軍の大将軍

・クレナは特攻隊長

●その他、ヘビーユーザー島の町

・ペロムスは市長

・セシルは市長補佐

●その他火の神フレイヤ関係

・ドゴラは使徒

・キールは神主


「アレン。俺はいつでも役職を受け入れる準備ができているぞ。水の神アクア様と槍神ガンダルク様の加護のある俺こそ、高職に相応しい」


 椅子に深く座り胸の前で腕を組むイグノマスの自信に満ち溢れた声が会議室に広がる。

 背後の壁には神器「カリプソン」の三つ又の槍の穂先が、まるで濡れているような妖しい輝きを見せている。


(そういえば、イグノマスも役職を寄こせと言ってきたのはいつのことだろうか)


 パーティーに仲間を加えた早々に、イグノマスがアレン軍なる存在を知る。

 大将軍や元帥など、自らの立場に相応しいと役職を求めてきたのだが、今のままで十分に運用が回っているからと断ってきた。


 イグノマスの生き様や考えの全てを否定するわけではないが、プロスティア帝国で反乱を起こした者に、すぐに軍を与えるほどにはアレンは優しくも甘くもない。


「それで早く話進めてよ~。イグノマスの役職なんてどうでもいいわ~」


「なんだと!!」


「なんなのよ!!」


 アレンの返事をロザリナのやる気のない独り言が流れていく。

 その横で、同じ時期にパーティーに加わったロザリナが肘をテーブルについて、つまらなさそうに前髪を弄りながら呟いた。


 イグノマスが立ち上がると、やったるぞ感を出したロザリナも対抗して立ち上がった。


「イグノマス、お前の神器は振るうためにある。決して、背後から軍を指揮するための飾りではない。ロザリナも落ち着いてくれ。本題に入ろう」


(ずっと本題だけど)


 アレンがこの話をしたことにシアは1つの答えを見出す。


「そうだ。そろそろ、魔王軍との戦いが近いというわけだな」


 アレンの言葉に仲間たちが大きく頷く。


「おう、魔王なんてボコボコだぜ!」


 ルークはやったるぞ感にあふれて、コップのミルクを飲み干して拳を前に突き出した。


「ですが、その前にセシルさんの試練を超えなくてはいけません。そのためにここに集まったということですわね」


 ソフィーの全て分かっているぞ感も半端ない。


「そういうことだ。俺たちの『最後の試練』だ」


【魔法神の欲しい物リスト】

・エクストラモード:霊獣ネスティラドの心臓

・神技:竜神マグラの角

・加護:日と月のカケラ

・神器:獣神ガルムの尾


 日の神アマンテの神殿で、日のカケラを手に入れた。

 大地の迷宮で、竜神マグラの角を手に入れた。

 獣神ガルムの神殿で、獣神ガルムの尾と月のカケラを手に入れた。

 残りは、霊障の吹き溜まりにいる霊獣ネスティラドの心臓だ。


「わあ! 最後の試練!! 何か響きがいい!!」


 クレナが語感に酔っている。


「そういうわけで、これからシアはもちろん、皆も休んでいてほしい。セシルと一緒にこれからイシリスの下に今日手に入った素材を持って行く」


 アレンたちは神界にやってきて3か月ほどになるが、羅神くじにより、神々の神域へ入る許しを経て、いくつもの試練を超えてきた。


【廃ゲーマーのモードと加護を与える神】

・アレン、ヘルモード、加護なし

・クレナ、エクストラモード、①剣神セスタヴィヌス、②調停神ファルネメス

・セシル、ノーマルモード、加護なし(魔法神イシリスの予定)

・ドゴラ、エクストラモード、火の神フレイヤ

・キール、エクストラモード、薬神ポーション

・メルル、エクストラモード、ダンジョンマスターディグラグニ(神)

・ソフィー、エクストラモード、精霊神ローゼン

・フォルマール、エクストラモード、①大精霊神イースレイ、②弓神コロネ

・シア、エクストラモード、獣神ガルム

・ルーク、エクストラモード、精霊神ファーブル

・ロザリナ、エクストラモード、①踊神イズノ、②歌神ソプラ

・イグノマス、エクストラモード、①槍神ガイダルク、②水の神アクア

・ペロムス、エクストラモード、商神マーネ

・ハク、モード選択なし、加護なし

・タムタム、モード選択なし、加護なし


 霊獣を狩るとポイントが貯まり、神域への入室が可能になっていくのだが、キールが試練でいなくなってからもアレンはくじを引き続けた。

 結果、仲間たちの中には試練を複数超え、複数の神の加護を持つものたちがいる。


(限界まで鍛錬を積む余裕はないかもしれない。だが、ヘルミオスさんの件は優先事項として高いはずだ)


 ここで引き続き羅神くじを引き、試練を超えて仲間たち全員に複数の神の加護を得ることもできるかもしれない。

 だが、悠長に時間をかけて、魔王を倒すタイミングを失う可能性もある。


 アレンはこれからの戦いが「最後の試練」だと断言する。

 仲間たちは息を飲み、朗らかだった表情に緊張感が増す。


(まあ、キールが色々、羅神くじ引いてくれたけど)


 言い切ったものの試練を増やそうと思ったらいくらでも増やせる状態だ。


「これからシアが手に入れた『月のカケラ』と『獣神ガルムの尾』を魔法神イシリスの研究施設に持って行く。皆は休んでいてほしい」


 シアはさっきまで獣神ガルムの試練を超えるため、試練に臨んできた。

 体力の回復のためにも、神技やスキルのクールタイムを解除するためにも、休息が必要だ。


「それでゼウ兄様たちも戦いに臨むわけか?」


「む? シアよ。いらぬ心配だ。余は皆でアレン殿に力を貸そうぞ」


 ようやくここに来て、この場に集まった理由にゼウは気付いた。


「そうだな。我らはゼウ様と一心同体でございます」


「おいおい、まだ試練に付き合うのかよ」


「レペよ! き、貴様!!」


「おいおい、いい加減にしてくれ。獣王国に俺だけでいいから返してくれ~。でなきゃ、いっそ殺してくれ~」


「殺す。ゼウ様、我がこの者に鉄槌を!!」


 胸ぐらを掴み、拳を大きく振り上げたホバをゼウが思わず制止する。

 怒りが収まらないのか、顔を真っ赤にしたホバを他の十英獣たちもワチャワチャしながら宥めていく。


「待つのだ!? ホバよ、早まるでない!!」


 ホバ将軍に胸ぐらを掴まれて、涙目のレペが天を仰ぐ。


「……シア、話を続けるぞ。実は現在、ヘルミオスさんが武神オフィーリアの試練を受けているんだ。ゼウさんたちにはそちらの試練に協力してほしいと思っています」


「なんだと? それは真か。いや、実に素晴らしいぞ……」


 シアが目を見開いた。

 神界にいる十柱もいないと言われる上位神のうちの一柱で、武神オフォーリアの試練に勇者ヘルミオスが臨んでいると言う。


「羅神くじで上位神である武神を引くことが出来て……」


「キールがね」


(分かってるわい! 「俺が」何て言ってないんだからね!!)


「おう……。たまたまだよ。って、何でアレン睨んでんだよ!」


 セシルが食い気味にアレンの説明にかぶせ、若干アレンのお陰で引いた感が出た空気を否定した。


 キールは薬神ポーションの試練を超えた後、羅神くじを引いた。

 その中には、闘神三姉妹の次女である武神オフォーリアのくじを手にした。


 だれが武神の試練を望むのだという話になったところ、ヘルミオスのパーティーから是非にという話が上がった。


【闘神三姉妹】

・長女 戦神ルミネア

・次女 武神オフォーリア

・三女 剣神セスタヴィヌス


 アレンのパーティーにいる前衛ではクレナ、ドゴラ、シア、イグノマス当たりがいるのだが、クレナは剣神との修行中だ。

 ドゴラは火の神に聞いたところ『わらわ以外の神の試練を受けたら焼き殺す』と言われた。

 シアは獣神ガルムの試練を受けている。

 キールがその時引いた水の神の試練をイグノマスは受けることになった。


「ヘルミオスさんの試練は厳しいようです。それに神の試練を超えた者でないとネスティラドとの戦いはそれ以上に厳しいです」


 そのためのゼウたちへの協力要請だ。


「分かった。ヘルミオス殿の試練に加勢をすればよいのだな。それで言うとガララ提督とヘルミオス殿のパーティーがこの場にいないのも?」


 この場で待っていたのは、さっきから黙っているテミのみで、2つのパーティーの者は誰もいなかった。


「はい。皆、ヘルミオスさんの試練に協力中です」


(ヘルミオスさんには「天稟の才」があるし、まあ、無事だと思うけど)


 ヘルミオスには、数多の召喚獣を使いこなす召喚士、あらゆる属性の精霊と契約を交わす精霊使いにはない、万能なエクストラスキル「天稟の才(スキルマスター)」がある。

 苦難も乗り越えて見せられると思うが、上位神に相応しい難易度であった。

 S級ダンジョンと神界闘技場の二手に分かれたヘルミオスのパーティーは合流し、ヘルミオスの助力に向かっている。

 ガララ提督もパーティー「スティンガー」を引き連れ、ヘルミオスへの協力を惜しまない。


「ゼウ兄様!? 既にエクストラモードが無くなっている。危険では?」


「危険は承知よ。皆、次の試練はヘルミオス殿の協力のようだ。獣王陛下への報告はその後でよかろうて」


 ゼウがヘルミオスへの助力を買って出る。

 竜王マティルドーラに続き、ゼウも大きな決断をするのであった。




あとがき

―――――――――――――――――――――――――――――――――

ストックがないため不定期更新です。

1人でも多くの方に見ていただくためにも、

フォローと☆の評価、何卒よろしくお願いいたします。


7月12日

ヘルモードコミック9巻発売します。

皆様のお陰でシリーズ累計150万部行きました。

何卒、さらなる応援よろしくお願いしますm(_ _)m


コミカライズ版ヘルモード最新話はこちらで読むことができます。

⇒https://www.comic-earthstar.jp/detail/hellmode/

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